2018年1月11日 | カテゴリー:KAKERECO DISC GUIDE,世界のロック探求ナビ
スタッフ佐藤です。
今回ご紹介するのは、スイス出身のプログレッシヴ・ロック・バンドCIRCUSのデビューアルバム『CIRCUS』です。
洗練されたサウンドの素晴らしさは勿論ですが、ただのテクニカル・プログレではないCIRCUSならではの大きな特徴があるんですよね。
そんなCIRCUSの76年リリース1stアルバムの魅力に迫ってみたいと思います!
CIRCUSは72年に結成され、76年~80年の間に4枚のアルバムを発表、80年に解散したプログレッシヴ・ロック・バンド。
出身はスイス第3の都市バーゼル。フランス・ドイツと国境を接する都市で、ヨーロッパ屈指の名門音楽大学とされるバーゼル音楽院の所在地としても知られています。プロ・テニスプレイヤーのロジャー・フェデラーの出身地としてご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
スイスと言えば、ISLANDやDRAGONFLYといったバンドがユーロ・ロック・ファンに親しまれてきましたが、CIRCUSも入手困難な状況が続いたにもかかわらず、そのサウンドの素晴らしさによって長年ファンから愛されてきた人気バンド。
1stアルバム製作時のメンバーはこの4人です。
CIRCUSの驚くべき特徴として挙げられるのが、エレキギターとキーボードを使用していないこと。
それを踏まえてまずは1曲目「STORMSPLINTER」を聴いてみましょう。
サウンド全体の印象としてはかなりヘヴィに聴こえると思いますが、アンサンブルをよく聴いてみると、リズム隊、アコースティック・ギター、フルート、サックスのみによって構築されているのがわかります。主にヘヴィな聴感を生んでいるのは、フリーキーな爆発力を持ったサックスと暴力的なまでのテクニックとうねりを有するリズム隊。その中で鳴らされるフルートやアコースティック・ギターもどこか緊張感を漂わせていて、初期クリムゾンを思わせる幽玄さを醸し出しています。
ベースのMarco Cerlettiにギターのクレジットがありますが、ごく一部の使用に留まっていて、ほぼ生楽器だけでこのダークで強靭なサウンドを作り上げてしまっているんです。驚きですよね!
続いては2曲目「NOWADAYS」です。
ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーターを彷彿させる暗黒感が全編を覆う、緊張感たっぷりのナンバー。ヴォーカルの抑揚の付け方もかなりピーター・ハミルの影響を受けていますね。でも単なるVDGGフォロワーに陥らず本家に負けないドラマ性ある名曲に仕上げてしまっていて、バンドの実力の高さを物語っています。
他にもヴィブラフォンを交えジェントル・ジャイアントばりの緻密なアコースティック・アンサンブルに目が眩む「DOWNTALK」や、瑞々しいアコースティック・ギターが流麗に駆け抜けるフォーク・ロックとVDGG調ダーク・プログレが対比する15分の大作「ROOM FOR SALE」など、全編聴き所と言って問題ない孤高のプログレッシヴ・ロックが展開されており、。
スイスということでユーロ・ロックに多いシンフォニックなサウンドかと思われそうですが、実際はユーロ色はほぼ皆無で、VDGGはじめ英国プログレからの影響を独自に昇華したサウンドと言うことができます。というわけでむしろ英国プログレ・ファンにこそ聴いてみていただきたい作品なんです。
80年に4thアルバムをリリースし、同年にCIRCUSは解散。フルート奏者Andres Griederは解散後目立った活動は行なっていないようですが、他のメンバーはそれぞれの活動を展開しました。
よく知られているのがドラマーFritz Hauser。後にCIRCUSへ加入したキーボーディストStephan Ammannとともに新バンドBLUE MOTIONを結成。ドラムとダブル・キーボードという変則トリオ編成で、技巧的かつユーロ然としたロマンチックさを感じさせるキーボード・シンフォの逸品を残しています。
ベーシストMarco Cerlettiは、90年にソロ・アルバム『Random And Providence』を発表。ソングライターとして裏方の活動も行なっています。ヴォーカル/サックス他を務めたマルチプレイヤーRoland Freiは、後年のメンバーTheodor Jostと共に75年結成のブルース・バンドLazy Poker Blues Bandに加入し活躍しました。
5年という短期間で活動を終えてしまったCIRCUS。スイス出身という関係上、ユーロ・ロック・ファンのみが知るバンドという位置づけですが、正直それはあまりに勿体ない!今回再発されたこの1stアルバムが、国の壁を越えて一人でも多くのプログレ・ファンの耳に届けられることを願わずにはいられません。
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