2015年12月1日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記
タグ: プログレ
イタリアン・ロック屈指のバンドであり、キーボードをフィーチャーしたドラマティックなアンサンブルとイタリアらしい詩情に満ちたメロディを持った名バンド、レ・オルメの代表作と評される73年作5th『フェローナとソローナの伝説』を特集いたしましょう。
レ・オルメの結成は、ビートルズをはじめとする英ビート・ロックに音楽シーンが湧いていた66年、イタリア半島北東部にある半島の付け根に位置するヴェネツィアで結成されました。元々はギタリストをリーダーとして結成され、5人組として活動し、ビート色の強い1st、2ndを残しましたが、その後、音楽性の違いにより、ギタリストとベーシストが脱退。69年にトリオ編成として再スタートを切りました。
トリオとしてメジャーのフィリップス・レーベルと契約。よりクラシカルなキーボードをフィーチャーしたプログレッシヴな3rd『Collage』を71年に、よりイタリアらしい芸術性を強めた4th『Uomo Di Pezza(包帯の男)』を72年に発表します。そして、シーンがプログレッシヴ・ロック・ムーヴメントに湧く73年にリリースされた5thアルバムが、光の惑星「フェローナ」と暗闇の惑星「ソローナ」という想像上の惑星をモチーフにしたコンセプト作『フェローナとソローナの伝説』です。
レ・オルメといえば、「イタリアのEL&P」としてガイド・ブックなどで紹介されることが多いですが、英プログレの亜流として捉えるよりも、独立国家として長きにわたって繁栄したヴェネツィアならではの気品あるロック・ミュージックとして捉えた方が彼らのサウンドを充分に楽しむことができるでしょう。彼らが生まれたヴェネツィアは言わずと知れた「水の都」。陸地から4kmほど離れたアドリア海のラグーナ(潟)に浮かぶ118の小さな島の間を運河が縦横に走り、400もの橋がこれをつないでできた街。1797年にナポレオンに敗れ、オーストリア領有となって滅亡するまで、1100年に渡って独立国家「ヴェネツィア共和国」として繁栄した誇り高き街です。日本で言えば、幕末の頃まで独立国家だったわけですから、ヴェネツィアの人たちは共和国時代を自分たちのルーツとして強く意識しているはずです。
P.F.M.を聴いてイタリアン・ロックが持つ躍動感やたおやかさに感動し、レ・オルメを聴いた時の印象は、「あれ、なんか暗い・・・」。でも、繁栄の「光」と表裏を成す「影」もまた「ヴェネツィア」を構成する要素の一つであり、そそりたつような荘厳なアンサンブルにはヴェネツィア共和国の1100年の栄枯盛衰が内包されている、なんて想像しながらレ・オルメの「暗い」サウンドに耳を傾けるとまったく別の「高貴」なものに聞こえてきます。
オープニングを飾るのはバンドを代表する名曲「Sospesi Nell ‘Incredibile」。まるで夜の海に反射する光の揺らめきのように不穏なハモンド・オルガン(メロトロンもユニゾン!?)でスタートし、激しいパッセージのドラムが入るととともに、まるでサン・マルコ聖堂のモザイク画のように複数のキーボードの音色が複雑にからみあい、聴き手をヴェネチアならではの荘厳かつ高貴な音世界へと引き込みます。
ヴォーカルが入ると雰囲気は一転、祈るような歌声から匂い立つのは中世から連綿と続くキリスト教世界の敬虔さ。ベースが図太いトーンでメインのリフを奏で、どこかスペーシーでどこか古風なトーンのキーボードがリードを取るヘヴィでいてどこか静謐なパートを抜けると、再び一転、ドラムがクリムゾンのマイケル・ジャイルスばりの手数と切れ味で走りだし、ハモンドが壁のように分厚く鳴り響き、ハードながらも「神聖」というキーワードがぴったりのアンサンブルへと連なっていきます。バロック~ルネッサンスの中心に居たヴェネツィアで生まれたバンドだからこそ成せる崇高なる展開の妙と言えるでしょう。
しばらくすると、変調したムーグがいきなり登場。その変調っぷりはクラウト・ロックばりで、初期タンジェリン・ドリームあたりのロマン主義的ロック・ミュージックに通じるセンスも感じます。古くはビザンツ帝国や神聖ローマ帝国ともつながりを持ち、ドイツ商人も訪れていたヴェネツィアなればこその汎ヨーロッパ的と言えるスケールで聴き手に迫る名曲です。
2曲目「Felona」は、一転して柔らかな光に包まれるような陽光溢れる牧歌的な佳曲。この陽気さもまたヴェネチアならではなのでしょう。親しみやすい歌声に往時の街の活気が目に浮かぶようです。
時にさざなみに反射する光のようにキラメキ、時にしとやかで格調高いピアノが印象的な3曲目「La Solitudine Di Chi Protegge Il Mondo」に続くのは、再びハモンド・オルガンと激しいリズムをフィーチャーしたキーボード・プログレを聴かせる4曲目「L’Equilibrio」。キーボードの素晴らしさはもちろんのこと、このバンドはドラムとベースのリズム隊も特筆もの。特に手数多くもタイトで安定感あるドラミングは、EL&Pのカール・パーマーやクリムゾンのマイケル・ジャイルズと比べても引けを取りません。それにしても2分過ぎのクラシカルかつ躍動感あるキメのパートのスリリングでドラマティックなこと!ジェネシスに通じるカタルシス。そこからリズム・チェンジし、雄大なるヴォーカル・パートへとつづく展開も見事です。
深い哀感を持った5曲目のバラード「Sorona」、スペーシーかつロマンティシズムたっぷりのムーグ・シンセがそそり立つ荘厳極まる6曲目「Attesa Inerte」、ここまでの緊張をすべて包み込むような慈愛に満ちたキーボードのテーマが胸に切々と響きまくる7曲目「Ritratto Di Un Mattino」、慈愛の雰囲気のままに美しい「歌」がスッと心に沁みる8曲目「All ‘Infuori Del Tempo」。ヴェネチアらしい「光」と「影」、「陰」と「陽」の色彩に溢れた演奏が続きます。
そして、いよいよラストを飾るのが9曲目「Ritorno Al Nulla」。オープニング・ナンバーに通じる深淵なる響きのムーグ・シンセではじまり、けたたましく叩かれるドラムとともに、まるでヴェネツィア共和国時代へと時間を逆廻ししていくかのように、ハモンド・オルガンが時空を超えたリフレインを奏でます。ムーグ・シンセもクールなトーンながら、歴史を背負ったかのような重厚さで鳴り響き、まるですべての「光」を飲み込み、時空の彼方、内面の奥の奥の方へと迫っていくかのように荘厳なフィナーレを向かえます。ただただ圧倒的。
ナポレオンに滅ぼされるまで、1100年にわたって「アドリア海」を支配し、海洋都市国家として繁栄したヴェネツィア共和国。その繁栄がきらめく水と光の織りなす色彩と、その色彩の影にじっと横たわる漆黒の闇。そんなヴェネツィアならではの光と影をロックというフォーマットで音像化した悠久なる作品が『フェローナとソローナ』と言えるでしょう。
地中海の風を運ぶP.F.M.など他のイタリアン・ロックとは異なる、ヴェネツィア出身だからこその魅力に溢れた傑作です。
イタリアを代表するプログレッシヴ・ロック・バンド、レ・オルメの記念すべき1stアルバム。68年発表。ビートルズ「Sgt. Peppar’s〜」をはじめとした英国サイケデリック・ポップからの影響が感じられつつも、いかにもイタリア的な叙情的なメロディーが絶品。バンドの才能の豊かさがサウンドの隅々に滲み出た好盤。
結成は67年までさかのぼり、ビート・ロックグループとしてデビュー後、時代の流れに対応してプログレッシブな音楽性へと変化。以降、EL&P系のキーボード・ロックバンドとして知名度を上げ、活動を続けるグループの72年4th。バッハの「シャコンヌ」からほの暗い幕開けが印象的な本作は、各種キーボードで埋められたイタリアンシンフォニック・ロックの典型と呼べる作風であり、前作以上にパワフルなキーボード・ロックと、Aldo Tagliapietraによる垢抜けない中にも叙情を感じさせるボーカルパートの対比が明確なコントラストを描いた傑作です。
結成は67年までさかのぼり、ビート・ロックグループとしてデビュー後、時代の流れに対応してプログレッシブな音楽性へと変化。以降、EL&P系のキーボード・ロックバンドとして知名度を上げ、活動を続けるグループの74年6th。現代作曲家Gian Piero Reverberiが参加した本作では、「対位法」というアルバムタイトルが示すとおり、今まで以上に純クラシカルなアプローチが多く見受けられるようになり、音楽的にもよりプロフェッショナルな方向性を打ち出しています。ライブでも演奏されることの多い名曲である「Maggio」などを収録、Aldo Tagliapietraの心温まるボーカルももちろん健在です。
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