2017年11月24日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
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本記事は、netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』第38回 THE PROG WORLD ORCHESTRA / A Proggy Christmas (USA / 2012)に連動しています
12月の短い期間にのみ華やかなサウンドで聴き手を盛り上げ、また、柔らかなサウンドで聴き手を包み込む。クリスマス・アルバムには、そんな印象があることでしょう。プログレッシブ・ロック・シーンにも、数は少ないながらもクリスマス・アルバムが存在しますが、例えばEMERSON, LAKE & PALMERのベース・ヴォーカリストGreg Lakeが1975年にリリースし、EMERSON, LAKE & PALMERの77年作『Works Vol 2』にも収録された「I Believe In Father Christmas」を「定番の1曲」とするならば、下記のクリスマス・アルバムたちは「定番の1枚」と呼べるクオリティーを誇っているでしょう。
プログレッシブ・ロック・アーティストによるクリスマス・アルバムの中で最もポピュラーな1枚は、EMERSON, LAKE & PALMERのキーボーディストKeith Emersonによる本作でしょう。クリスマス・アルバムは元々、そのコンセプト自体が作り手にクラシカルなサウンドを要求するためキーボーディストと相性が良いものですが、プログレッシブ・ロックのトップ・キーボーディストである彼の手によるものとなれば、その出来栄えは述べるまでもありません。クリスマス・キャロルなど縁の深い楽曲をKeith Emersonらしいアレンジで聴かせています。また、「Snowman’s Land」と「Captain Starship Christmas」という2曲の自作曲も収録されており、「Captain Starship Christmas」にはギタリストGary Moore、ドラマーIan Paiceが参加しています。
YESのヴォーカリストとして絶対的な存在感を放つJon Andersonは85年、名バンドQUEENの傑作を手掛けたことで知られるプロデューサーRoy Thomas Bakerを迎え、クリスマス・アルバムをリリースしています。85年と言えば、いわゆる「90125 YES」によるライブ・アルバム『9012 Live : The Solos』がリリースされた年でもあり、その繋がりから本作にはギタリストTrevor Rabinが参加しています。Jon Andersonのオリジナルとクリスマス・キャロルのカバーがバランス良く配置されていますが、連名のユニットでも活動を共にしたギリシャのVANGELIS作曲による「Easier Said Than Done」が収録されており、同楽曲はシングル・カットもされました。
EMERSON, LAKE & PALMERのKeith Emersonと人気を二分するYESのキーボーディストRick Wakemanによる膨大なディスコグラフィーの中には、クリスマス・アルバムも存在します。2000年にリリースされた『Christmas Variations』は、収録曲全てをクリスマス・キャロルで統一し、Rick Wakemanのピアノやシンセサイザー・ストリングスを中心に、「Silent Ngiht」などの有名楽曲をしっとりと聴かせる作風となっています。YESでの技巧色とはまた一味違った、Rick Wakemanのロマンティックな側面に触れることが出来る作品です。
YESのベーシストChris Squireは、75年の『Fish Out Of Water』以降ソロ・アルバムをリリースせず、グループでの活動に尽力してきました。YESは2005年にヴォーカリストJon Andersonの要望により活動を休止し、Chris Squireは自身が60年代に参加していたTHE SYNを再結成。そういった動きの中で、2007年に発表されたのがセカンド・アルバム『Chris Squire’s Swiss Choir』です。本作にはENGLISH BAROQUE CHOIRの混声合唱が大胆に導入され、YESのリズム・セクションを共に支えるドラマーAlan Whiteや、GENESISのギタリストとして名高いSteve Hackettも参加。収録楽曲はトラディショナルなナンバーが中心となっていますが、Chris SquireとAlan Whiteの連名で81年にリリースされたシングル「Return Of The Fox」の再録が心憎いサプライズでしょう。
プログレッシブ・ロックにおける女性ヴォーカリストの代名詞であるRENAISSANCEのAnnie Haslamは、新世紀以降のRENAISSANCEにメンバーとして関わることになるキーボーディストRave Tesarと共にクリスマス・アルバムを製作しました。本作には「Silent Night」や「Joy To The World」、あるいは「Ave Maria」や「White Christmas」といった聴き覚えのある楽曲が並んでおり、Annie Haslamは「クリスタル・ヴォイス」と評される歌声で厳かに歌い上げています。また、Rave Tesarの作曲によるタイトル曲「It Snows In Heaven Too」のドリーミーなサウンドは、RENAISSANCEがプログレッシブ・ロック・シーンに送り出してきた名バラードを思い起こさせます。
ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの黎明期を代表するTHE MOODY BLUESは、2003年にクリスマスをコンセプトに置いた『December』を発表しました。本作には、Justin HaywardとJohn Lodgeによるオリジナル楽曲に加え、John Lennon & Yoko Onoによる「Happy Xmas(War Is Over)」などスタンダードなクリスマス・ソングのカバーや、バッハによる「主よ、人の望みの喜びよ」の改作「In The Quiet Of Christmas Morning」といった楽曲が収録されています。67年の名盤『Days Of Future Passed』でオーケストラとロックの融合を成し遂げた彼らにしか作り得ない、ジェントリーなサウンドが詰まった作品です。
ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの代表格グループJETHRO TULLは、2003年に『The Jethro Tull Christmas Album』をリリースしました。クリスマス・キャロルのカバーなども収録されているものの、楽曲の多くはグループの過去作品をリアレンジしたものであり、そこにメンバーのIan AndersonやMartin Barreによる新曲が織り込まれた変則的な内容となっています。なお本作は2009年、ロンドンのセント・ブライズ教会でのクリスマス・コンサートの模様を収めたライブ・アルバム『Live – Christmas At St Bride’s 2008』を加えて再発されています。
90年代後半に登場したアメリカのシンフォニック・ロック・グループTEN POINT TENは、クリスマスをコンセプトに置いた2003年作『12 25』でプログレッシブ・ロック・ファンの注目を集めました。彼らの生み出すサウンドは同郷のKANSASなどに通じるものであり「Carol Of The Bells」や「Oh Come Oh Come Emanuel」といった定番のクリスマス・キャロル、そしてオリジナル楽曲をポピュラリティーに富んだ作風で表現しています。なお、TEN POINT TENのキーボーディストBill Hubauerは、アメリカン・プログレッシブ・ロックの最重要人物であるNeal Morseのバンド・メンバーとしても知られ、Neal MorseがTHE PROG WORLD ORCHESTRA名義で発表した2012年のクリスマス・アルバム『A Proggy Christmas』にも参加しています。
プログレッシブ・ロック・グループSPOCK’S BEARDのメンバーとして登場し、SPOCK’S BEARD脱退後はソロ・アーティストとして、あるいはスーパー・グループTRANSATLANTICやFLYING COLORSの中心メンバーとして活躍を続けるNeal Morseは2012年、THE PROG WORLD ORCHESTRA名義のクリスマス・アルバムをリリースしましたが、その前年にファン・クラブ限定の同名タイトル作品をリリースしています。こちらはTHE PROG WORLD ORCHESTRA名義の『A Proggy Christmas』と楽曲こそ重複するもNeal Morseによる多重録音をベースに製作されており、本作を発展させる形でTHE PROG WORLD ORCHESTRAのアルバムが製作されたことを伺わせます。また、Neal Morseは2000年にも『Merry Christmas From The Morse Family』と題されたクリスマス・アルバムをリリースしています。
2000年代のロシアン・プログレッシブ・ロック・シーンをリードするシンフォニック・ロック・グループLITTLE TRAGEDIESが2009年に発表した『The Magic Shop』は、いわゆるクリスマス・アルバムではなく、「少女マーシャが体験したクリスマス・イヴの不思議な出来事」をコンセプトに置いたオリジナル・アルバムとなっています。本作に耳を傾けてみれば、一般的なクリスマス・ソングのフォーマットなど彼らの前では形無しになってしまうことが分かるでしょう。クリスマス・ツリーをへし折らんばかりのへヴィー・シンフォニック・ロックが展開されており、パワフル且つメロディアスなLITTLE TRAGEDIESらしい作風となっています。
netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第2回 CHRIS / Snow Stories (Holland / 2012) を読む
非常にアメリカらしいメロディーの良さとキャッチーなバンドアンサンブルで聴かせるシンフォニックプログレバンドの05年作。タイトルから想像できるように、クリスマスをコンセプトに製作されたファンタジックでドラマ性に富んだシンフォニックロックの好作となっています。1曲目からKansas系の抜けの良さ、YESのような明瞭な楽曲展開、メロディーメイク、コーラスワークを見せ、まさに名盤の名にふさわしいオープニングと言えます。細かなユニゾンフレーズをつないでいくところなどはSpock’s Beard、Neal Morseからロマンチックな部分を抽出したような出音であり、やはりアメリカンプログレファンにはたまらないポピュラリティーに富んだもの。また、そのコンセプト性もあってかGENESISが持っていたファンタジックな雰囲気まで兼ね備えており、アコギのアルペジオに乗ってボーカルが切々と歌い上げるパートはもちろんのこと、抜けの良いダイナミックなパートも独特の気品が感じられるのが個性的です。ウクライナ民謡であり、クリスマスコーラスの定番として様々なアーティストにカバーされている「Carol of the Bells」も収録。季節感が感じられつつも、それ以上にファンタジックなロック作品としての普遍性に富んだ傑作であり、アメリカ産プログレファンはマストアイテムです。
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