2023年8月18日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記,世界のロック探求ナビ
70年代にはTRIANAやGRANADA、GOTICやLOS CANARIOSなどのプログレ・グループが登場したフラメンコの国、スペイン。
今回は、プログレッシヴ・ロックとポップな音楽性についてお話ししつつ、スペインのバレンシア州から登場したパワフル&キャッチーな新鋭プログレ・バンド、DRY RIVERの2022年作『Cuarto Creciente』をご紹介します!
プログレッシヴ・ロックというと長い期間、コマーシャリズムから背を向けたアングラな音楽という印象がありましたね。
歌詞のテーマは哲学的だったり内省的だったり寓話的だったりと浮世離れしており、音楽的には変拍子の多用でリズムが刻みにくく、キャッチーなコーラス(サビ)があるとは限らない、というよりそもそもインスト・パートに比重が置かれているのでヴォーカルが入るとは限らない、そして曲が長い。
アーティストの自己表現としての側面がとても強いプログレッシヴ・ロックのサウンドはやはりツウ好みで、ライトな音楽リスナーのために分かりやすく作る必要があるポップスとは相性がよろしくないのかな、なんて思ってみたり・・・。
しかし、70年代の有名なプログレ・バンドも、アルバムでは長尺曲をレコーディングしつつシングルでは聴きやすい楽曲をヒットさせていました。
例えばEMERSON, LAKE & PALMERのシングル・ヒット曲「ラッキー・マン」は、モーグ・シンセサイザーの使用という実験性こそありましたが、楽曲自体はシンプルな美しいバラードでした。
そんなことを考えていると、思い出してしまうのがASIAです。
KING CRIMSON、YES、EMERSON, LAKE & PALMERのメンバーたちが集まり結成されたASIAですが、82年のデビュー・アルバム『詠時感〜時へのロマン』は時代性を反映したとてもポップな仕上がりで、世界的なヒット(ビルボード・チャート9週連続1位、年間アルバム・チャート1位)を記録。
ですが、それと引き換えに往年のプログレ・サウンドを期待するファンからは批判の声も少なくなかったんだとか。
確かに、ASIAのメンバーが数年前までは『レッド』や『危機』、『恐怖の頭脳改革』といったプログレ史に残る大傑作を生み出していたというのは後の世代が聞いても不思議な感じがするので、当時のプログレ・リスナーたちの困惑は想像に難しくありません。
とは言え、改めてASIAのアルバムを聴いてみると、キャッチーなメロディーの裏でテクニカルなバンド・アレンジがされていたりして、さすがプログレッシヴ・ロック出身のミュージシャンだなと思わされることも多々あります。
さらに、ASIAと同じ80年代のイギリスでは、プログレッシヴ・ロックから派生したポンプ・ロック(ネオ・プログレ)のムーヴメントもありました。MARILLIIONやIQ 、PENDRAGONやPALLASなどは現在も活躍していますが、彼らが登場したのがこの時期。
ポンプ・ロックも、プログレッシヴ・ロックの旨味を効果的に使いキャッチーに仕上げた音楽と言えるかもしれません。
こうして歴史をたどっていくと、プログレッシヴ・ロックは意外なほどポップな側面を持っているんですね!
国で見ていくと、アメリカ、スウェーデン、オランダといった国々のプログレ・バンドは、特にポップな音楽性を持っている場合が多いです。
まずはアメリカですが、キャッチーな楽曲というのはアメリカの専売特許のようなところがありますよね。
KANSASやBOSTON、JOURNEYやSTYXといったバンドはプログレッシヴ・ロックに括られることも多いですが、英国勢とは違い陽性のパワーがあります。
そして、プログレ復興期(90年代前半)にアメリカからSPOCK’S BEARDのようなバンドが台頭したことで、ポップな音楽性をプログレ・シーンに持ち込むバンドが登場するようになり、「プログレ=暗くて難解」というような印象は以前と比べて少し変わってきているようにも見受けられます。
あるいは、スウェーデンも同様です。
やはり復興期にTHE FLOWER KINGSがデビューし、爽やかな北欧の空気を感じさせるサウンドを披露。
新鋭では、プログレ・バンドなのにTHE BEACH BOYSが引き合いに出されるほどポップなサウンドを操るMOON SAFARIの衝撃が記憶に新しいでしょう。
オランダも、FOCUSやKAYAKを筆頭にとても親しみやすいメロディーを持つバンドが多く、その流れはCHRISなどの新鋭たちに脈々と受け継がれています。
本日はスペインから登場した新鋭プログレ・バンド、DRY RIVERのご紹介ですが、これが新たな世代の台頭を感じさせるパワフル&キャッチーな音楽性でスゴいんです!
「DRY RIVERの魅力をひとりでも多くの皆さんに知ってほしい!」、そんな思いが募った結果、カケレコでは2018年の3rdアルバム『2038』の国内盤まで作ってしまいました!
今回リリースされた4thアルバム『Cuarto Creciente』と併せて、是非チェックしてみてくださいね。
それでは、DRY RIVERのプロフィールを見ていきましょう。
スペインのバレンシア州カステリョンで2004年に結成されたDRY RIVERは、結成当初はQUEENやDREAM THEATERなどの楽曲をカバーするバンドだったようです。
アルバム・デビューは2012年であり、これまでに『El Circo de la Tierra』『Quien tenga algo que decir…que calle para siempre』『2038』の3枚のスタジオ・アルバムと、ライブ・アルバム 『Rock & Rollo… ¡Y Cana!』 を発表しています。
2ndアルバム以降はメンバー・チェンジがありつつも6人編成で活動しているようですが、上のMVを見ると、・・・ん?8人くらいいますね。
そうなんです、DRY RIVERにはステージで社会風刺からコメディーまで様々なパフォーマンスを行うアクターが2人在籍しており、演劇性にも富んだグループ。
このあたりはさすが、プログレッシヴ・ロックを主戦場に選ぶだけありますよね!
さて、前述のように前作『2038』はカケレコから国内盤もリリースし、おかげさまで各方面からご好評いただいておりますが、ついに彼らの新作『Cuarto Creciente』が発表されました!
前作のクオリティーの高さからして期待せずにはいられませんが、そんなプログレ・ファンの期待を裏切らないパワフル&キャッチーな作品となっています。
バンドは本作から4曲のMVを制作しているので、まずは、アルバムのオープニング・トラック「Culpable」のMVを見てみましょう!
クラシカルなピアノの調べからアリーナ・ロックのような重厚なサウンドが鳴り響き、荘厳なチャイムと突き抜けるようなコーラス・ワーク!
もうイントロだけでグループのポテンシャルの高さを感じていただけるのではないでしょうか?
彼らはプログレッシヴ・メタルからの影響が強いグループであり、いわゆるヴィンテージなプログレ・サウンドを志向するタイプではありませんが、楽曲のシンフォニック性など、プログレ・サウンドのツボはしっかりと押さえられている印象です。
ヴォーカルがスペイン語でなければ、アメリカン・プログレ・ハードのバンドかと思ってしまうほど普遍性がありますね。
それでは続いて、2曲目に収録の「Segundo intento」のMVも見てみましょう!
キツネを見るとGENESISを思い出してしまいますが、さすがにそれは考えすぎでしょうか。
爽やかで疾走感があって、底抜けにキャッチーな楽曲です。
80年代を思い出させるシンセ・ブラス(VAN HALENの「Jump」!)が効いていますが、これはいわゆる古き良きサウンドではなく、世界的にアナログ末~デジタル初期の機材や音色が再評価されている昨今のトレンドでしょう。
つまり、最先端の音作りを取り入れているということです。
間奏のギターの泣き具合も完璧ですね!
次は、6曲目に収録の「Capitan Veneno」のMVを見てみましょう!
イントロからプログレッシヴ・メタルの影響がとても強く出た楽曲です。
やはりDREAM THEATERのカバー・バンドとしてスタートしただけのことはあって、この手の音作りがメンバーたちも好きなんでしょうね。
注目すべきは中盤のセクションで、相当スピーディーなユニゾン・フレーズの応酬がありますが、バンドは一糸乱れぬプレイで切り抜けています。
そして、オペラティックな混声合唱による緊張感の演出など、やはりシンフォニックな味付けの巧みさが際立ちます。
ではラストは、7曲目に収録の「Cuarto Creciente」のMVを見てみましょう!
新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)とパンデミックをテーマにした楽曲です。
前半は6/8拍子のおごそかなバラードであり、ヴォーカリストの表現力が際立つセクションでしょう。
中盤からは緊張感のあるヘヴィーなサウンドを展開。
世界保健機関(WHO)の事務局長テドロス・アダノムやアメリカのドナルド・トランプ元大統領の肉声(ニュース番組)などがサンプリングされ、楽曲の中で使用されています。
こういった社会情勢をいち早くテーマにしていく点も、プログレ・アーティストらしいですね。
この楽曲は本作の中で最長の演奏時間ですが、それでも8分程度。
それ以外の楽曲は5分前後のものが多く、やはりポップな音楽性を根底に持ち、プログレッシヴ・ロックの精神やアイコンを随所に散りばめたサウンドという印象を持ちます。
DRY RIVERの4thアルバム『Cuarto Creciente』から4曲をお聴きいただきましたが、いかがでしたか?
70年代のスパニッシュ・プログレと言えば、フラメンコ・ロックのような音楽性のバンドが思い浮かびますが、DRY RIVERの場合には、英語盤も出してほしいと思わせるほど普遍的なサウンドを作り上げています。
メロトロンやハモンド・オルガンによるヴィンテージな音作りのプログレ・バンドが素晴らしいのはもちろんですが、カケレコではDRY RIVERのような新世代のアーティストたちにもどんどんスポットを当てていきますので、是非チェックしてみてくださいね!
DRY RIVERの『Cuarto Creciente』は、こんな方におススメ
このスペインの新鋭プログレ・グループの個性の突き抜けっぷりときたら!内ジャケに映るオペラティック&ユーモラスなメンバー写真からキてますが(ローリー寺西みたい)、演奏メンバー6人にステージ上で活躍するパフォーマー2人という編成もまた得体が知れません!演奏と演劇的なパフォーマンスの要素を一つにしたライヴ活動を行っているようですが、う〜む、いったいどんな音なんだ!そんな彼らの2012年デビューですが、サウンドを聴いてまたまたびっくり!クイーンもびっくりなオペラティックな多声コーラスで幕を開けると、ギターとムーグがユニゾンで切れ込んで、青空へと突き抜けるようなメロディアスなフレーズを高速で奏でる!エモーショナルで力強い歌唱を聴かせるヴォーカルも良いし、その後ろではメロトロン風のヴィンテージな音色のキーボードが鳴り響いているし、リズム隊は超重量級でメタリックにぶっ放してるし、すごいぞDRY RIVER!彼らのWebでインフォを見ると、メンバーのフェイヴァリット・バンドには、クイーンの他、ドリーム・シアターやメタリカといったメタル・バンドの他、フランク・ザッパやスティーヴ・ヴァイなどの曲者も上げられていて、パフォーマーの2人のフェイヴァリットはモンティ・パイソンという始末。プログレ、HR/HM、アヴァン・ロックをゴッタ煮にして、恐るべしな諧謔精神でまとめあげた希代の奇天烈プログレ。北欧のMOON SAFARI、インドネシアのDISCUSといったバンドが近年、新鋭プログレシーンで多いに話題になりましたが、その次に話題になるべき実力を持ったグループとカケレコが自信を持って推薦!オススメですよ〜。
スペインの新鋭プログレ・バンドによる、17年リリースのライヴ・アルバム。2nd『QUIEN TENGA ALGO QUE DECIR… QUE CALLE PARA SIEMPRE』からのナンバーを中心に選曲された全9曲を演奏。ギタリストを筆頭にテクニシャン揃いのメンバーによるダイナミックかつ正確無比な演奏と、ライヴならではの熱気を纏ったヴォーカル&コーラスが組み合わさった、素晴らしいパフォーマンスを披露しています。ラスト、コーラス・パートまで再現した「ボヘミアン・ラプソディ」のカバーも必聴です。DVDには同公演の映像を収録していますが、注目はデビュー時よりメンバーに名を連ねるモンティ・パイソンから影響を受けたという2人のパフォーマー。MCを務めたり、演奏に合わせて踊ったり、被り物で寸劇をおこなったりと、活躍しており見所となっています。
12年デビュー、メンバーほぼ全員がクイーンとドリーム・シアターをフェイバリットに挙げるスペインの要注目新鋭プログレ・バンド、前作から4年を経てついに届けられた4thアルバム!従来はQUEEN+DREAM THEATERを土台に豊富なアイデアが渦巻く奇想天外ロックを練り上げていた彼らですが、本作ではQUEEN+DTの土台と溢れんばかりのエネルギーはそのままに、よりストレートでドラマティックな表現で生き生きとロックするパフォーマンスが魅力的。80年代後半〜『Made In Heaven』あたりのQUEENにHR/HM的ヘヴィネスを纏わせたようなスタイルの、最高に熱くて強烈にキャッチーなサウンドに終始虜にされます。美しいピアノ独奏に続き、ソリッドに刻むギターリフと雄々しいヴォーカルが走り出す導入部から、もうDRY RIVERの世界に惹きこまれています。相変わらずとことん情熱的なスペイン語ヴォーカルと、まさにBrian MayのフレーズセンスとJohn Petrucciの畳みかける技巧を合わせたような超絶ギターが重量感たっぷりのリズムに乗って疾走する、パワフルかつ荘厳な1曲目で早くもノックアウト。そんな1曲目のテンションのままにスケール大きくパッション全開で展開してくサウンドは、従来のアルバムが気に入ったならまず間違いありません。QUEENファン、DTファン、そしてメロディアス・ハードが好きな方にも激オススメの一枚に仕上がってます。文句なしのカケレコメンド!!
12年デビュー、メンバーほぼ全員がクイーンとドリーム・シアターをフェイバリットに挙げるスペインの新鋭プログレ・バンド、前作より3年ぶりとなった18年作3rd。前2作も素晴らしいアルバムでしたが、この3rd、もうとことんエネルギッシュで痛快。聴いていてこんなに楽しくってワクワクするプログレって他にないかもしれませんっ!ベースとなるのは最も影響を受けているクイーンとドリーム・シアターの合わせ技。そこにシンフォ、ロックン・ロール、様式美ハード・ロック、ビッグ・バンド・ジャズ、フュージョンなどを自在に結合させて、スペイン産らしい情熱的かつダイナミックなプログレに仕立て上げた、エネルギーがぎっちり詰まったサウンドを構築しています。歌い回しにフレディ・マーキュリー愛を感じさせる声量みなぎるスペイン語ヴォーカルとオペラチックな分厚いコーラスがドラマチックに舞い上がるクイーン風のヴォーカル・パートから、ド派手に鳴らすヴィンテージ・トーンのオルガン&クラシカルで可憐なタッチのピアノを操るキーボードが溢れ出し、ギターがテクニカルかつハードエッジに疾走。ギターはメタリックにゴリゴリしてはいるのですが、同時にコシの強いグルーヴ感があり、ロックンロールのノリの良さが先立っているのが特徴。硬質ながら人間味たっぷりに熱く弾き飛ばすプレイ・スタイルがカッコいい!ギターが牽引する強度あるヘヴィ・プログレに突如ゴージャスなビッグ・バンドが絡んできたり、クラシカルな速弾きが炸裂する様式美系ハード・ロックがごく自然に南国風フュージョンに発展したりと、あまりに先の読めない奇想天外なサウンドには軽く目眩が起きそうなほど。その後には一転して美しいメロディが冴え渡る叙情バラードを持ってくるセンスも憎い限りです。前作が彼らの完成形かと思いきや、まだまだ進化するDRY RIVERサウンドを見せつける大傑作!おすすめです!
12年デビュー、メンバーほぼ全員がクイーンとドリーム・シアターをフェイバリットに挙げるスペインの新鋭プログレ・バンド、2019年1月マドリッドでの熱いライヴを収録した2CD+DVD!注目は何と言っても、18年にリリースされた傑作3rd『2038』のナンバーを中心にしたセットリストである点。冒頭、力の入ったMCがDRY RIVERを紹介すると、3rdアルバム1曲目「Perder El Norte」でスタート!スタジオ盤での演奏の精度はそのままに、観客も巻き込んだ最高にエネルギッシュで痛快なステージが幕を開けます。観客は1曲通して大合唱で、ライヴならではの臨場感がみなぎっており雰囲気が素晴らしい。もちろんお約束のクイーン「BOHEMIAN RHAPSODY」の完全再現も披露しています。1曲では、リッチー・ブラックモア率いるレインボーで現ヴォーカルを務めるチリ出身シンガーRonnie Romeroをゲストに迎えていて、フレディ愛たっぷりな2人のヴォーカルが会場を最高潮に盛り上がていて感動的です。1stと2ndの曲を披露した17年ライヴ作『ROCK & ROLLO… !Y CANA!』とともに、彼らの情熱みなぎるサウンドに胸打たれた方なら必聴と言える傑作ライヴ盤!
元KING CRIMSON〜UKのヴォーカルJohn Wetton、元YESのギター Steve Howe、元EL&PのドラムスCarl Palmer、元BUGGLES〜YESのキーボードGeoffrey Downesの4人よって結成されたスーパー・グループ、82年作1st。ポップでコンパクトな楽曲構成ながら、ヴォーカルを前面に押し出した哀愁のメロディを、ドラマティック且つPOPに仕上げた作品です。スライド奏法による伸びやかな泣きを聴かせるギター、きらびやかに音色を重ねるキーボードが、男臭くエモーショナルなヴォーカルが歌い上げるメロディを盛り立てるアンサンブルはスケール感満点。疾走感溢れるインプロヴィゼーション・パートでは、歪んだベースと力強くグルーヴするドラムも加わり、各メンバーのテクニシャン振りを堪能出来ます。十分にプログレ色を備えており、80年代ロックを代表する名盤。
1983年作。大ヒットした前作から更にソング・オリエンテッドな方向性を志向したスーパー・グループの2ndアルバム。プラチナ・アルバムを記録。大ヒット・シングル「ドント・クライ」等収録。
1985年作。ジョン・ウエットンの脱退→再加入、スティーヴ・ハウの脱退、マンディ・メイヤー加入という激震を乗り越えたスーパー・グループの第一期、最後の飛翔。スマッシュ・ヒット・シングル「ゴー」収録。
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