2017年5月16日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
本記事は、netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第16回 SENSE / Going Home (Canada / 2007) 】に連動しています
カナディアン・プログレッシブ・ロックの中にあって、フランス語のヴォーカルとヨーロピアンなサウンド・メイクで独自の発展を遂げたケベックのプログレッシブ・ロック・シーンでは、1970年代にはMANEIGEやHARMONIUM 、POLLENやET CETERAなどのグループが精力的な活動を展開していました。その後、NATHAN MAHLやVISIBLE WINDといったプログレッシブ・ロック・グループの登場や、MYSTERYのギタリストMichel St-Pereによるプログレッシブ・ロック専門レーベルUnicorn Digitalの誕生などを経て、マルチ・プレイヤーRobin Gaudreaultによるシンフォニック・ロック・プロジェクトERE Gが2002年作『Au-Dela Des Ombres』でアルバム・デビューを飾り、ケベック産プログレッシブ・ロックの新世紀を印象付けました。
マルチ・プレイヤーRobin Gaudreaultによるプロジェクト・グループERE Gによるデビュー・アルバム『Au-Dela Des Ombres』は、プログレッシブ・ロック・ファンの視線を2000年代のケベックへと向けさせた記念碑的な作品であると言えるでしょう。Robin Gaudreaultはギター、ベース、キーボード、フルートまでを自在に操り、70年代のサウンド・メイクを徹底させ、例えるならば、YESの構築性とGENESISの叙情性をひとつに閉じ込めたようなシンフォニック・ロックに仕上げています。また、全編に大きく取り入れられたメロトロンも、プログレッシブ・ロック・ファンに強くアピールすることでしょう。フランス語のヴォーカルによるセンチメンタルなメロディーには、ケベック出身グループの個性が強く感じられます。
新世紀以降のカナディアン・プログレッシブ・ロック・シーンを牽引する代表格が、ケベック出身のMYSTERYです。ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの大御所であるYESの2011年作『Fly From Here』にヴォーカリストBenoit Davidが参加したことで一躍トップ・グループの仲間入りを果たしたMYSTERYですが、彼らには同郷RUSHやSAGAに通じるアメリカナイズされたサウンド・メイクが伺えます。ケベック出身のプログレッシブ・ロック・グループたちがヨーロピアンな質感で聴かせるということを大きな特徴としてきた中で、MYSTERYは垢抜けたサウンドを選択し、作品をリリースする度にその存在感を増しています。
ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの代表格グループであるGENESISの名盤を手がけたPaul Whiteheadによるアートワークを採用し、2004年にアルバム・デビューを果たしたのがQWAARNです。セカンド・アルバムとなる2007年作『Aberrations』では、ミディアム・ナンバーを中心に心象風景を描写するかのような鬱屈としたサウンドを展開しており、同郷THE D PROJECTなどとの共通点が伺えます。ともあれ、フレンチ・プログレッシブ・ロックが持つ耽美な印象を継承している点に、ケベック出身グループのオリジナリティーを認めることが出来るでしょう。
2004年にアルバム・デビューを果たしたネオ・プログレッシブ・ロック・グループRED SANDは、そのアートワークが示す通りMARILLIONやPENGRAGONといったポンプ・ロック・グループたちから影響を受けたシンフォニック・ロックを奏でます。80年代ネオ・プログレッシブ・ロックのサウンド・メイクは、現在ではレトロな響きとすら言えるものですが、2016年にリリースされた彼らの7枚目のアルバムとなる『1759』の大きな魅力は、サウンド面よりもアルバム・コンセプトにあるでしょう。と言うのも、フランスの植民地であったケベックをイギリス軍が占領した「タイコンデロガの戦い」という、ケベック出身アーティストならではのテーマが選択されているためです。音楽的特色に注目が集まることの多いケベックの独自性を、アルバム・コンセプトの方向から感じることが出来る作品です。
Stephane DesbiensはSENSE、そして後身グループであるTHE D PROJECTの中心人物であり、同郷RED SANDやQWAARNのアルバムにも関わった経験を持ちます。THE D PROJECTにおいて彼は、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの大御所であるPINK FLOYDのエンジニアとして知られるAndy Jacksonを迎えた2011年作『Big Face』、及び2014年作『Making Sense』をリリースし、その本格的なサウンドでプログレッシブ・ロック・ファンから高い評価を獲得しました。同一ミュージシャンをリーダーとして製作されながらも、ブリティッシュナイズが施されたTHE D PROJECTとケベックのアイデンティティーに溢れたSENSEでは、その質感が大きく異なるということが分かります。
ケベックのプログレッシブ・ロック・シーンにおける最重要人物は、間違いなくMYSTERYのギタリストMichel St-Pereです。彼が運営する専門レーベルUnicorn Digitalの貢献なくして、新世紀以降のカナディアン・プログレッシブ・ロック・シーンがここまでのまとまりを形成することはなかったことでしょう。そんなMichel St-Pereが参加する新たなグループがHUISです。2014年の『Despite Guardian Angels』からして一般的な新人のデビュー・アルバムとは一線を画す出来栄えとなっていましたが、2016年のセカンド・アルバム『Neither In Heaven』もまた、70年代プログレッシブ・ロックへのリスペクトを感じさせるメロディアスなサウンドが詰まった作品となっています。
netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第16回 SENSE / Going Home (Canada / 2007)を読む
カナダのグループ、02年作の1st。GENESISやYESからの影響を感じる「動」のパートと、P.F.Mのように優美で幻想的な「静」のパートとが織り成す、超一級のシンフォニック・ロック。メロトロンをバックに柔らかく舞うフルート、ハイ・ポジションでリリカルなフレーズを紡ぐギター、極上のヴォーカル・メロディ&ハーモニーなど、豊かなメロディ・センスは圧巻。一つ一つの音を丁寧に積み上げた繊細で叙情性溢れるアンサンブルが堪能できる逸品。全体的に70年代的な暖かみのあるアナログ・ライクなトーンも印象的。叙情派シンフォの傑作。
コメントをシェアしよう!
カケレコのWebマガジン
60/70年代ロックのニュース/探求情報発信中!