2017年4月28日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
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本記事は、【netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』第31回 ROBERT REED / Sanctuary (UK / 2014) 】に連動しています
個性豊かなアーティストたちが次々に登場した1970年代のプログレッシブ・ロック・シーンの中でも、突出したオリジナリティーを誇るマルチ・プレイヤーMike Oldfield。Virgin Recordsのリリース第1弾アルバムとなった73年作『Tubular Bells』は、ホラー映画「The Exorcist」のテーマに採用されたことから、プログレッシブ・ロック・ファンならずとも聴き覚えのある音楽リスナーは少なくないことでしょう。彼が送り出した傑作の数々は、時代を超えて世界中のミュージシャンたちに影響を与え続けてきました。
当時若干20歳のギタリストMario Milloを擁する、オセアニアを代表するプログレッシブ・ロック・グループSEBASTIAN HARDIEは、雄大なメロトロン・サウンドが鳴り響くシンフォニック・ロックの名盤である75年のデビュー・アルバム『Four Moments』で広く知られてきました。彼らはグループ結成時からMike Oldfieldの『Tubular Bells』をグループのレパートリーに活動しており、2003年の来日公演でも同楽曲を披露しています。『Four Moments』における、必要最小限のモチーフで大曲を編み上げていく音楽的手法には、Mike Oldfieldからの影響が色濃く表れています。
ロック・ミュージック史に残る数々の名盤を作り上げていったMike Oldfieldは79年、PIERRE MOERLEN’S GONGの『Downwind』にゲスト・プレイヤーとして参加しました。そもそもGONGは、Daevid Allenが主導権を握るスペーシーなサウンドを個性とし、73年作『Flying Teapot』、同年作『Angel’s Egg』、そして74年作『You』から成る「Radio Gnome Invisible」シリーズで知られてきましたが、Daevid Allen脱退後はパーカッション奏者Pierre Moerlenによって再編され、ジャズ・ロックの色合いを持った音楽性へとシフトしていったのです。なお、Pierre MoerlenはMike Oldfieldによる78年作『Incantation』に参加しています。
Mike Oldfieldの音楽性は、現在で言えばニューエイジ・ミュージック、あるいはアンビエント・ミュージックといったカテゴリーに属するものとして捉えることが出来るでしょう。オーストリアのマルチ・プレイヤーGANDALFことHeinz Stroblは、80年代のニューエイジ・ミュージック・シーンに登場したアーティストであり、Mike Oldfieldから影響を受けたシンフォニック・サウンドを生み出し、プログレッシブ・ロック・ファンから高い評価を獲得してきました。中でも82年作『To Another Horizon』は、スケールの大きなシンセサイザー・ストリングスをはじめ、シネマティックな音作りが全編を支配する代表作となっています。
Pierre Moerlenが全面参加したスウェーデンのシンフォニック・ロック・グループTRIBUTEは、プログレッシブ・ロックの歴史上最も有名なMike Oldfieldのフォロワー・グループでしょう。「1.5倍速のMike Oldfield」という評価と共に語られる彼らは、84年作『New Views』でプログレッシブ・ロック・シーンに登場し、ワールド・ミュージックに通じる生命力を持ったサウンドと、垢抜けないながらも味わい深いトラディショナル・フォークを想起させるフレーズ・センスによって、高く評価されました。80年代中盤、つまりプログレッシブ・ロック・シーンが衰退し、ポンプ・ロックの潮流が形成されていた時代にデビューしたことを考慮に入れながら耳を傾けてみると、そのサウンド・メイクの素晴らしさが際立って聴こえてくることでしょう。
フレンチ・プログレッシブ・ロック・シーンを牽引するMINIMUM VITALは、Mike Oldfieldのフォロワー・グループたちの中にあって、その音楽的な影響を完全に手中に収めている印象を持ちます。その理由は、ネオ・プログレッシブ・ロックに分類されるグループでありながら、クロスオーヴァー・フュージョンやラテン・テイスト、あるいはトラディショナル・フォークから古楽スタイルに至るまで、多種多様なサウンドを内包した作風にあるでしょう。中心メンバーであるギタリストJean-Luc Payssanのギター・ワークにはMike Oldfieldからの強い影響を感じますが、決してMike Oldfieldのクローン・グループではなく芯の通ったオリジナリティーを持っているということが、彼らを他のフォロワー・グループたちと差別化しています。
2000年代に入ると、ポーランドからAMAROKが登場しました。Mike Oldfieldによる90年作のアルバム・タイトルをグループ名に冠していることから、Mike Oldfieldから大きな影響を受けたグループであることは予測が出来ますが、実はスペインにも同名のプログレッシブ・ロック・グループが存在するので注意が必要です。AMAROKは、マルチ・プレイヤーMichal Wojtasによるプロジェクトであり、そのサウンドはニューエイジ・ミュージックの路線上に位置するものです。しかし、AMAROKが最も個性的なのは、PINK FLOYDを彷彿とさせる物憂げなメロディック・ロックの方向性を併せ持っているということでしょう。これは、同郷のQUIDAMやCOLLAGEといった代表格グループたちに通じるポーリッシュ・プログレッシブ・ロックの特色です。
ジャーマン・シンフォニック・ロックの新世代グループであるTHE HEALING ROADは、アメリカン・プログレッシブ・ロックの代表格であるSPOCK’S BEARDのカバー・バンドでも活動するマルチ・プレイヤーHanspeter Hessを中心に結成されました。元々Mike Oldfieldにも通じるシネマティックなサウンド・メイクを得意としてきた彼らではありますが、2011年にリリースされた『Backdrop』では、Mike Oldfieldの音楽性に急接近を果たします。73年作『Tubular Bells』や74年作『Hergest Ridge』にインスパイアされたことが明らかな、ふたつのパートから成る組曲形式を採用し、全編にMike Oldfieldからの影響を感じさせる、スケールの大きなシンフォニック・ロックを展開しています。
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ヨーロッパ大陸から遠く離れた南半球はオーストラリアから登場したグループによる75年デビュー作。当時若干20歳のMario Milloによる甘く切ないギターは泣きメロを連発し、雄大なオーストラリアの大地を想起させる不自然さの無いバンド・アンサンブルはドライに響き、大陸の朝焼けを想起させる映像的なメロトロン・ストリングスの幻想で魅了する、全てが完璧なランドスケープを描き切った大傑作です。邦題「哀愁の南十字星」というタイトルが全てを象徴するような、緩やかな時の流れを感じるシンフォニック・サウンドであり、プログレッシブ・ロックを語る上で外すことの出来ない名盤です。
ポーランド出身のシンフォニック・ロック・バンド、01年1st。オルガンとシンセが厳粛に奏でられる中をギターがひたすら悲痛なトーンで泣き叫ぶ、息をのむオープニング。PINK FLOYDの名曲「Shine On You Crazy Diamond」にも匹敵する名演です。MIKE OLDFIELDに通ずるアイリッシュ・トラッド色を取り入れた作風が特徴で、メランコリックなアコギをバックに、叙情溢れる流麗なヴァイオリンとギルモア直系の泣きの表現力にテクニックが加わったギターがドラマチックに絡み合い、どこまでも広がる雄大な情景を映し出していきます。シリアスな演奏だけでなく解放感に満ちたポップな演奏も魅力的で、リズミカルに弾むアンサンブルの中、涼風を思わせる爽やかなフレーズを奏でていくギターは絶品です。これは東欧という枠を飛び越えて、ワールドワイドに聴かれるべき傑作!
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