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【リスナー寄稿記事】「やはりロックで泣け!」第三回 GOLDEN EARRING の「Vanilla Queen」

寄稿:ひろきさんさん

 2017年まで連載されていた舩曳さんによるコラム、「そしてロックで泣け」は丁寧に詳しく調べられていて、個人的に大いに興味を喚起されました。今回、彼の精神を受け継いで「やはりロックで泣け!」というタイトルで、様々な「泣ける音楽」を紹介したいと思います。

 今回はオランダの国民的バンドであるGolden Earring、1973年の作品である『Moontan』に収録されている「Vanilla Queen」を紹介したいと思います。

 全ては1961年にオランダの都市、the Hague(注1)でGeorge Kooymans (guitarist)とRinus Gerritsen (bassist)の二人がThe Tornadosを結成したことからGolden Earringの歴史が始まりました。

何度かメンバーチェンジを繰り返し、一般にclassic line-upと呼ばれるline-upになったのが1969年でした。70年代に入ってJimi Hendrix、King Crimson、The Doobie Brothers、Rush等の前座として精力的にアメリカやヨーロッパでツアーを行い、知名度を高めました。(注釈1: the Hague:都市名でtheがつくのは世界中でこの町だけです。国際司法裁判所があります。)

 『Moontan』(あえて日本語に訳すと、「月焼け」) は彼らにとって通算9枚目のアルバムにあたります。ほぼ全裸に近い派手なメークを施した女性(注2)の写真を大胆に中央に配置した表ジャケットはインパクト抜群です。デザインを担当したのはオランダ人写真家、Ronnie Hertzです。彼はこの他にもShocking Blue、Kayak等のアルバム写真を担当しています。

(注釈2:女性の名前はJilly Johnsonです。1953年にオーストラリアで生まれ家族と共にイギリスに移ってきました。20歳の時、アムステルダムにあるRonnie Hertzのphoto studioで撮影されました。その後、彼女はBlonde on Blondeというgirls’ duoを結成し、Led Zeppelinの「Whole Lotta Love」をリリースしました。)



このアルバムは世界中の多くの国で発売されましたがあまりに過激なデザインであったためにすぐに別の物に差し替えられました。アメリカ、カナダは発売直後すぐにオリジナルデザインが変更になりました。またローデシア、ブラジル盤にはオリジナルデザイン盤は存在しません。しかもどういうわけかアメリカ、イギリス、カナダ盤は収録曲数が5曲で、原盤に比べて1曲少なくなっています。

かわりに前作に収録されていた「Big Tree, Blue Sea」が入っています。このあたりの事情は定かではありませんが今になって改めて調べてみるとおもしろいことがわかってきました。

私の手元にはこの日本盤 (見開き、帯付き)があります。これには6曲収録されており、帯には「イギリス、アメリカで、フォーカスに続いて現在最も注目されているオランダの超実力派グループ、ゴールデン・イヤリングの最新アルバム!!」と書かれています。

彼らのライヴパフォーマンス写真の入った歌詞カード付きで、越谷政義さんが丁寧に解説しています。当時は情報がほとんどなく、このようなライナーノートは本当に貴重な情報源でした。ただ私の所有している物は正規盤ではなく、レコードラベルには白い紙が貼られ、「見本盤 非売品」と書かれています。今となってはどのような経緯で入手したか全く忘れてしまいましたが、70年代には見本盤、またはsample盤と呼ばれていたものが数多く存在していました。

   
次に内容について触れたいと思います。「Moontan」は彼らの中でアメリカで最も売れたアルバムです。その大きな理由はSide B 1の「Radar Love」です。

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Record Worldで9位、Cash Boxで10位等、世界中でもメガヒットとなりました。かつてのアメリカ人男性のロックフレンドが言うには「Golden Earringと言えば「Radar Love」。多くのアメリカ国民が知っている曲の一つで、次はTwilight Zone かな。」と言っていたのを思い出します。U2、Def Leppard、 R.E.M. 、White Lion等、数多くのアーティストにもカバーされチャートインしているヴァージョンもあります。

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U2のカバー

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このアルバム、強力なロックナンバー「Candy’s Gone Bad」から始まります。A1にふさわしい楽曲でリフ及びメロディは申し分ありません。アメリカではシングルカットもされました。1978年のThe Godzのカバーヴァージョンは一段とヘヴィなアレンジで楽しむことができます。その他平均して長め曲が多く、良質なprogressive pop rockが満載です。

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The Godzのカバー

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 「Vanilla Queen」はOriginal Track Listingでは最後であるB3、US/UK tracking listではA3になっています。9分14秒という大作で、構成は3部に分かれています。キーはDmで、スローで静かなキーボードのイントロから始まります。

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この曲が出来るきっかけとなったのはvocalistであるBarry Hayがclub circuit中に出会った40歳くらいの女性ということです。二人の関係性ははっきりしていませんがかなりその女性の存在に触発されたのは事実です。当時、彼は20歳代だったのでなぜという疑問は残りますが曲名の一部であるvanillaに注目すれば理解しやすいかと思います。

vanillaはslangの形容詞ではbland, plain (飾り気のない)という意味になり、Songfactsからの抜粋ですが「the way people dress, in particular dressing down rather than up, i.e. everyday clothes」、つまり「日常的な装いで、着飾るのではなく特別に着飾らないようにする人」となります。個人的な想像ですが「平凡すぎる女性であるが故、頭から彼女のことが離れなかった。」と考えられます。

そして中盤になるとサウンドコラージュにかわり、なにやらセクシーな女性の声で「What’s your name, honey?」、 「Well, in simple English I am…」という言葉が聞こえてきます。Songfactsによればこの部分は語り手(narrator)が夢の中でthe Vanilla Queenに出会うという設定らしいです。驚いたことには、なんとこの声はMarilyn Monroe本人です。musical、 『There’s No Business Like Show Business』より「Heat Wave」、後者は「Lazy」からサンプリングされたものです。

これが終わるとCesar Zuiderwijkの力強いエイトビートドラミングが始まり、怒濤の最終パートに流れ込んでいきます。Dm、 B♭、 Cのコードの繰り返しはシンプルさゆえに脳裏に深く焼き付き離れません。リズム隊は性格にビートを刻み続けホーンセクションも加わり、さらにGeorge Kooymansのギターが追い打ちをかけてきます。こうなると否が応でも感動がさらに膨んでいき、涙無しでは聞くことが不可能な状態に陥ってきます。気がつけば9分14秒はあっという間に終わっていました。

彼らのステージではこの曲はほぼ定番になってます。イントロが聞こえてくるだけでファン心理を鷲掴みに出来る魔法を放っています。



彼らはこの後、矢継ぎ早にLive Albumをリリースします。特に1977年の『Golden Earring Live』での「Vanilla Queen」はさらにGeorge Kooymansのギタープレイが冴えまくっています。こちらも感動度数極めて高いものとなっています。

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長い間rock sceneに君臨していたGolden Earringですが2021年に公式に活動停止を発表しました。それはGeorge Kooymansが筋肉の難病であるALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されたことが原因です。私は特に彼の作曲能力(メロディのセンス)には一目置いてきました。彼らの最終作になってしまった”The Hague”においても年齢を感じさせない彼のギタープレイとパワフルな楽曲には脱帽です。

およそ60年に渡って活動してきたバンドは彼ら以外には思いつきません。彼らの残した素晴らしい音楽は永遠です。みなさん、Golden Earringの創り出した数多くの音楽をぜひ体験して一緒に感動を共有出来ればと願っています。

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余談1:このEP仕様CDはカケレコさんで購入しました。まさに新品同様のコンディションだったので感激しました。個人的にこちらでだいぶG. E.のアルバム購入しましたが満足度は極めて高いと断言できます。Barry HayおよびGeorge Kooymansのソロアルバムも気になって仕方ないです。

余談2:このアルバムに移っている女性の写真に感化されて「Vanilla Queen」という彫刻も制作されました。作者はアメリカ人彫刻家、Joseph Cangerさんです。彼曰く「これはデンマークにあるLittle Mermaid像をまねたもので、若い女性ヌードのソフトで控えめな官能美を表現しています。」続けて、この彫刻を創作するにあたって、ある晩遅くクラブで踊っている女性をモデルにし、exotic dancerという点でこのネイミングが最も適切であると語っています。その作品は彼のwebsiteで確認することができます。

Joseph Canger Websit https://www.jcsculptures.com/

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