2020年4月23日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
こんにちは。
スタッフ佐藤です。
フィンランド・ロックを代表するギタリストJukka Tolonenと、彼が率いたバンドTASAVALLAN PRESIDENTTIについて特集してまいりました。
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今回は、フィンランド・ロック・シーンにフォーカス。森と湖の国に生まれた、美しさやクールさ、遊び心を併せ持った名作の数々をピックアップしてまいります。
と、一言にフィンランド・ロックとは言いますが、例えばWIGWAMのようなポップなサウンドを持つグループがいれば、HAIKARAやTASAVALLAN PRESIDENTTIなどブルースやジャズ色が濃いグループ、そしてFANTASIAやTABULA RASAといった北欧の情景と重なる透明度の高い美麗なサウンドを奏でるグループと、そのスタイルは様々。
そんなフィンランドの多くのグループに共通する要素として挙げられるのが、この2つではないでしょうか。
フィンランドは自国の民族音楽への関心がとても高いのが特徴。
フィンランド国民には自国の文化に強い誇りを持つ気質があると云われますが、それは700年以上続いた他国からの「抑圧」と、民族意識の覚醒をもってそれに対抗し「独立」を果たしたフィンランドの歴史に深く関わっています。
その民族意識の覚醒に大きく貢献したのが、大音楽家ジャン・シベリウスが1899年に発表した交響詩「フィンランディア」。
「フィンランディア」の存在はフィンランドの人々に民族の誇りと自信をもたらし、自国の文化と伝統の尊さを実感させました。それに伴い独立に向けた国民運動も活性化します。
「抑圧」の歴史に「民族意識の高揚」をもって抗い、1917年に念願の独立を勝ち取ったフィンランド国民。その意識は、音楽において民族音楽を尊重する姿勢に現れているのです。
北欧諸国の中でもフィンランドには特に民族音楽と深く結びついたサウンドを鳴らすミュージシャンが多い事実は、そういった経緯から来るものです。
続いては、フィンランドのミュージシャンが持つジャズの素養について。
ジャズとフィンランドの関係を紐解く際に重要なのが、フィンランド西部の沿岸都市ポリで行われているジャズ・フェスティヴァル「Pori Jazz」です。
実はこのPori Jazz、1966年から毎年フィンランドで開催されている、ヨーロッパで最も有名かつ最も古い歴史を持つジャズ・フェスティヴァルなのです。
(同じく知名度の高いスイスのモントルー・ジャズ・フェスは67年初開催。)
Miles DavisやGeorge RussellやWayne Shorterなど本場のジャズメンが数多く出演してきた他、近年にはBob DylanやElton Johnなどジャズ以外からもビッグネームが出演する北欧を代表する音楽イベントとなっています。
その影響もあって、60年代後半から北欧でもいち早くジャズが浸透したフィンランド。
70年代に活躍するフィンランドのミュージシャンたちが、十代の学生時代をBEATLESと共にジャズにも親しみながら過ごし、次第にミュージシャンを志すようになったと自然に考えられる環境がこの国にはありました。
それでは、そんなフィンランド・ロックの特徴を踏まえつつ、フィンランド・ロックの名作群を取り上げていきましょう。
70年代フィンランド・ロックにおいて最も成功したバンドと言えばWIGWAMです。
中心人物は、66年にフィンランドに渡りBLUES SECTIONに参加していた英国人Jim Pembroke。68年に結成されたWIGWAMに、翌年キーボーディストJukka Gustavsonらと加入しバンドの中核を担う存在となります。70年にはベーシストPekka Pohjolaも加わり、初期の黄金ラインナップと言える編成に。
彼らのサウンドは英国人Pembrokeがコンポーザーな事もあり、ビートルズやキャラヴァンなど同時代の英国ポップの香りが漂う人懐っこいメロディが印象的。しかしインストゥルメンタル・パートになると、オルガンを軸にした緻密でジャジーな技巧派アンサンブルが繰り広げられ、ポップなヴォーカル・パートと見事な対比を生み出します。
70年代後半には、VIRGINレコードから世界デビューを果たしたことでも知られ、フィンランドのみならず70年代北欧ロックの中でも3指には入るであろう知名度と人気を誇るバンドです。
北欧のビートルズ!?いや、カンタベリー風味もあるぞ!?おもちゃ箱をひっくり返したようなサウンドという形容がぴったりハマるグループですよね。人懐っこいメロディがもうたまらん!
例えるなら、ジョン・レノンとリチャード・シンクレアとマイク・オールドフィールドとアル・クーパーがセッションしたら、って感じ?英米ロック的な哀愁とドラマ性を備えた楽曲、北欧らしい煌びやかで緻密な演奏。素晴らしいです。
世界向けリリース第2弾!英国人らしいひねりあるポップ・センスを持ったJim Pembrokeのメロディ・センスと、プログレ~ジャズ~フュージョンのセンスが効いたエスプリに富んだアンサンブル。北欧が世界に誇るニッチ・ポップの逸品ですね。
そのWIGWAMでベーシストを務めたのがペッカ・ポーヨラ。脱退後はマルチ・プレイヤーとしてソロ活動で成功を収め、同国の代表的ミュージシャンとなりました。あのMike Oldfieldと度々共演するなどその才能と実力は紛れもなくワールドレベル。
ペッカ・ポーヨラとマイク・オールドフィールド。フィンランドとイギリスが誇る才人であり音の魔術師と言える2人の名手との豊かな出会い。一級の工芸品のような切れ味を感じることができる名品ですね。
WIGWAMに匹敵するフィンランドのグループを挙げるならTASAVALLAN PRESIDENTTI。フィンランドを代表するギタリストとなるJukka Tolonenが在籍したことで知られています。わずか5年という活動期間ながら、最終作はイギリスはもちろん、アメリカでもリリースされたほど、そのポテンシャルは高く評価されました。
音楽性は、同時期の英国シーンに呼応するブルースやジャズを取り込んだロック・サウンドで、1stや2ndはTRAFFICやCOLOSSEUMらの影響が色濃く感じられます。Jukka Tolonenのアーティスティックな感性が開花した3rdや4thでは、ジャズのエッセンスと民族音楽が緻密に折り重なった独自のスタイルを完成させました。
前作のナンバー3曲の再録を含んだスウェーデンでのデビュー作となる2ndアルバム。
賑やかにかき鳴らすアコースティック・ギターと流麗なフルート、小気味よいパーカッションらが織りなすトラッド・ミュージック、フリーキーに吹き鳴らすサックスがもたらすジャズ要素、ヴォーカルのブルージーでワイルドな歌いっぷり。そして、それらをすべての要素を含んで全編を駆け巡るのがJukkaのギターです。
ブルース由来のルーズなフレーズをグッとタメを効かせて弾いたと思ったら、サイケがかったトーンでせわしなく疾走をはじめ、一転流麗なジャズ・スタイルでしっとり聴かせる、まさしく変幻自在なギターワークが痛快無比。
一方で、まるで民族楽器カンテレを爪弾くように繊細なタッチのアコギとフルートの響きがフィンランドの神秘的な自然風景をイメージさせるナンバーからは、トラッド・ミュージックの豊かな素地も感じることができます。
ギタリストJukka Tolonenがコンポーザーとして覚醒し、全曲の作曲を手掛けた3rdアルバム。
ブルージーなルーズさは一切なくなり、目まぐるしく緻密に展開するアーティスティックなジャズ・ロックを聴かせます。同一バンドとは思えぬほどの変貌ぶりに驚くかもしれません。
その緻密さと対比するように、幻想的なフルートやアコースティック・ギターのプレイ、そして民族音楽から引用されたと思われるフレーズも数多く散りばめられており、自分たちのルーツは揺るぎなく存在しているのも特筆。
ギターとサックスがユニゾンしながら、狂騒的とも言えるほどに鋭くハイテンションに畳みかけるアンサンブルは、スウェーデンのアヴァン・ロック・バンドSamla Mammas Mannaも彷彿させるものがあります。
「北欧のロック」のイメージに重なる、ジャジーでシャープで緻密でアーティスティックな名盤です。
TASAVALLAN PRESIDENTTIにおいて、ジャズ、ブルース、サイケ、ハード・ロック、民族音楽など様々なエッセンスを組み合わせた唯一無二のギタープレイを聴かせたのがユッカ・トローネンです。在籍中に開始したソロ活動では、それらの要素を洗練されたフュージョン・スタイルへと収斂させていき、まさに北欧からしか生まれえないギターサウンドを作り上げました。
せわしないまでに弾きまくっていた初期TASAVALLAN PRESIDENTTI時代とは打って変わって、民族音楽を咀嚼した躍動感と気品を備えたフレーズを、洗練されたジャズ/フュージョン・タッチの演奏で淀みなく紡いでいくスタイルが、あまりに見事。
ジャジーで精緻かつポップで華やかな珠玉のギタープレイを堪能することができます。
上記2バンドに次いで有名なのがこのHAIKARAです。とりわけ民族音楽が色濃く反映されたジャズ・ロックで、土臭くいなたいリズムと旋律、そして雄々しくもどこか間の抜けた民謡調のフィンランド語ヴォーカルが特徴的。
「辺境のジェスロ・タル」といった趣のトラッド・ロックで幕を開けると、曲が進むごとに徐々にサックスとファズギターが暴れだしてクリムゾンばりに強度と重量感が増していく展開が強烈です。
ジャズと民族音楽を融合させたスタイルと言えますが、まるで洗練を拒むように民族音楽の土着性をむき出しにしたサウンドが唯一無二。
こちらはシンフォ・ファンに真っ先にオススメしたいフィンランド・プログレの一枚。
優美に奏でられるピアノやフルートが編み上げるファンタスティックな音のタペストリーに包み込まれます。
フィンランド生まれの愛らしすぎるシンフォ名作!
シンフォ好きなこちらも実によいですよ~。
柔らかな牧歌性と不意に見せる狂気が共存したようなサウンドは、まるで白夜のごとし。
名付けてムーミン谷プログレ!(!)
77年にリリースされた彼らの唯一作は、Wigwamが気に入った人にオススメ。
マイルドな温かみと浮遊感があるキーボード、シンフォニックな優美さの中にブルージーなセンスが潜むギター、そして人懐っこくメロディアスなヴォーカル。
70年代英国ポップに通じる軽やかで洗練された音作りが魅力の、ファンタスティックかつハートウォーミングなプログレです。
ジャケット通り宇宙を漂っているのような心地よい浮遊感と、リリシズム溢れるメロディに酔いしれます。
フロイドのようなドラマチックさにほんのりソフト・サイケ・テイストを添えた北欧シンフォ、唯一作にして傑作!
ジャケ通りの幻想的な質感に包まれつつ、各楽器が白熱のソロを繰り広げスリリングに疾走していくジャズ・ロック・サウンドが見事。
79年フィンランド産、北欧フュージョン/ジャズ・ロックの知られざる逸品!
「フィンランドの森」というグループ名に違わぬ、透明度の高い神秘的なジャズ・ロックを繰り広げる75年作1st。
スウェーデンのKAIPAに近い北欧の自然情景を切り取ろうとしたような映像喚起性の高い音像が魅力です。
このサウンド、言うなれば KAIPA + BRAND Xという感じ!?
「森と湖の国」フィンランドのロックはいかがだったでしょうか。強調されている部分は違っていても、民族音楽とジャズの結びつきを土台に、時に英国ロック影響下のセンスも加味して練り上げられたサウンドというのがフィンランド・ロックの特色と言えるのかもしれません。
北欧ロックと言うとより規模の大きい隣国スウェーデンがメインでフォーカスされがちですが、フィンランドに注目するとこんなにも魅力的なシーンが広がっていたんですね。
北欧を代表するグループ。Pekka PohjolaとJukka Gustavsonが脱退し、Jim Pembrokeを中心とする新生WIGWAMとなり制作。75年に英VIRGINよりワールド・ワイドにリリースされた作品。「北欧のビートルズ」と異名を取るように、メロディ・センスは10ccなど英ニッチ・ポップを彷彿とさせます。ジャケットのイメージ通りのほの暗いファンタジーも印象的で、北欧ならではのサウンドを描いた名作。
北欧を代表するギタリストJUKKA TOLONENを中心に結成されたフィンランドのジャズ・ロック・グループが、72年に残した未発表ライヴ音源を収録した19年リリース作。同年リリースの3rd『Lambertland』のナンバーが中心で、どこまでも奔放なようでいて一音一音にデリケートな感性も滲ませたJukka Tolonenの素晴らしいギターワークが存分に味わえます。オリジナル通りの演奏はそこそこに、スリリングなインプロヴィゼーションへとなだれ込んでいく演奏が聴き物で、スタジオ盤以上に手数多く暴れるハードなドラム、サイケ/ブルース/ジャズを混ぜ合わせシャープにフレーズを繰り出すギター、ジャジーなサックスにクラシカルで妖艶なフルート、そしてソウル色のあるヴォーカルと、いろんなジャンルを混合しながらも、ごった煮感は一切なくあくまで洗練された聴き心地なのが凄いです。スタジオ作品だけでは堪能しきれない、このバンドの懐の深さが垣間見れる音源となっています。
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北欧を代表するギタリストJUKKA TOLONEN率いるグループ。69年作の1st。TRAFFICからの影響が感じられるサイケデリックなブルース・ロック。スティーヴ・ウィンウッドにそっくりなブルージーなヴォーカル、デイヴ・メイスンやクラプトンに引けを取らない雄弁なギター、ジャジーにむせび泣くフルート&サックスによるスケールの大きなサウンドは、驚くほどの完成度。60年代後期の英サイケ/ブルース・ロックの名作と比べても全く遜色ない名作。
北欧を代表するギタリスト、JUKKA TOLONENを中心にフィンランドで結成されたグループ。72年作の3rdアルバム。初期はTRAFFICタイプのサウンドでしたが、徐々にジャズの度合いを増し、本作で聴けるのは、ギター、サックス、フルートが次々にスリリングなフレーズで畳み掛けるテンション溢れるジャズ・ロック。テクニック、アレンジ能力ともかなりハイ・レベル。ジャズ・ロックの知られざる傑作でしょう。
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19年デジタル・リマスター、ボーナストラック2曲
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天才ギタリストJukka Tolonenを中心とするフィンランドのプログレ/ジャズ・ロック・バンド、最終作となった74年4thアルバム。本作は自国フィンランドのみならず英国、カナダ、ドイツ、アメリカなど世界各国でリリースされた一枚で、それに恥じぬ高い完成度のジャズ・ロックを聴かせてくれます。前作『LAMBERTLAND』でアヴァンギャルドさとクリアな北欧幻想が入り混じる個性的なジャズ・ロックを創出した彼らでしたが、本作ではそこにWIGWAMにも通じるポップなメロディを加味。ジャズ、ブルース、サイケとクルクル表情を変える変幻自在なギターを軸に舞うようなサックスも交え奔放な音の交歓が繰り広げられるサウンドは、『FAIRYPORT』『BEING』あたりがお気に入りという方なら堪らないでしょう。本作リリース後にベーシストが脱退したバンドは分裂状態に陥り、スウェーデンでのツアーを終えると、同年にあえなく解散。この先のサウンドが聴いてみたかったと思わずにはいられない充実作!
北欧を代表するギタリストJUKKA TOLONENを中心に結成されたフィンランドのジャズ・ロック・グループ。71年リリースの2ndアルバム。終始エネルギッシュに駆け抜ける一曲目から名曲!小気味よいパーカッションを絡めたリズムと賑やかにかき鳴らすアコギ、テンションMAXで吹き鳴らすサックスらがひた走るイタリアン・ロックにも通じる祝祭感に満ちたアンサンブルに、JUKKA TOLONENのサイケとブルースを折衷した奔放なフレージングのギターワークが乗るこのスリリングさと言ったらありません。他の曲では、フルートの響きが北欧の神秘的な森をイメージさせるトラッド・ロックや、芳醇な鳴りのオルガンとブルージーな深みを帯びたギターのコンビが堪らないTRAFFICタイプのブルース・ロックなど多彩に聴かせます。ソロ・ミュージシャンとしても成功するJUKKA TOLONENの才覚が炸裂している名盤です。
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