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STREET LEGAL

BOB DYLAN

5123552(COLUMBIA

評価:40 1件のレビュー

ツアーバンドとの息の合った演奏を聴かせる78年作、ドラマーは元クリムゾンのイアン・ウォーレス

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評価:4 素朴な質問:アレンジャーって何する人?(2 拍手)

Humanflyさん レビューをすべて見る

偏見と決めつけ込みの物言いですが、ディランの作品の中で最も「音楽的」な作品でしょう(音楽を捕まえて「音楽的」ということがそもそも偏見と決めつけに溢れた物言いでありますが)。

サックスやパーカッション、女性コーラスを加えた華やかなサウンドは、従来のぶっきらぼうなサウンドと歌唱の一本鎗でアルバムを仕上げてきたディランとは一線を画しており、一方でコーラスを用いた分厚いサウンドは自作以降のゴスペル路線への伏線……と言われることもありますが、こうした素直で分かり易いメロディの曲は受け継がれていません。

従来からすれば異例の分厚い編成のフルバンドを率いての(初来日を含む)ツアー、そのツアーメンバーを動員してスタジオ作を一枚作った訳ですが、旧作もフルバンド用に華やかなアレンジを施したあのツアーの音が、そのままここでは新曲を彩っており、ツアーでの音がそのままアルバムでの音に反映された意外と少ない(実は同じことがストーンズにもクラプトンにも何よりB・B・キングにも言えるんですが)ディランのアルバムになっているところがポイントです。

ツアーの音を刻み込んだアルバムが欲しかった、あるいはアルバムの音をそのままツアーで再現したかった、と言えば話は簡単なのですが、それでも”じゃ、なんでこんな音になったのか”という疑問は残ります。
これ以前のローリング・サンダー・レヴューでも、ディランは大所帯フルバンドでのツアーを試みましたが、そこでの荒削りな演奏と歌唱(これはこれで大変魅力的)は明らかに従来のディランのそれの延長線上です。それに比べると、こちらのサウンドは明らかにアレンジされプロデュースされた音です。一曲目Changing of the Guardがフェイドインで始まる、という時点で、他のディランのアルバムとは異なる作為を感じさせます。

つまり、「作為」と「音楽的」は同じものの言いかえであり、この辺りがファンの間でも評価が一定してこなかった原因なんでしょう。個人的にここでの「音楽的」なディランにもとても魅力を感じますが、一方で、荒削りなディランこそ本道、という思いも強くありますし、何より”なんでこんな音になったのか”という疑問が立ちはだかります。大編成のバンド用のアレンジを、ディランが譜面に書いて指示した、などということは考えにくく(この辺、キャリアの似ているヴァン・モリソンは、毎回ではないけど音楽監督的なメンバーを抱えている)、この時期以前も以後もこうした大規模で多彩で整理の行き届いたサウンドのディランは聴けないことを考えると、このアルバムだけ”なんでこんな音になったのか”に加え、”誰がこんな音にしたのか”という疑問も持ち上がります。
例えば、中山康樹氏がこのアルバムを妙に高評価していたのは、そういう部分にひっかっ狩りを感じたからなんでしょうが、同じく引っかかりを感じる者として、別の方向の引っかかり・疑問のために私はこの結構好きなアルバムを無条件に評価出来ないでいます。

なんかこのアルバムのレビューでなくなってしまいますが、この問題は'60年代後半から'70年代までのロックのアルバムのどれだけが、アレンジによって「ロック」として成立しているのか、という問題とも重なってきます。スタジオレコーディングに於ける作業という面とも重なるでしょうが、一応は既に書きあがった楽曲をアレンジの段階でどう完成させるか、という最終過程で、バンド/アーティストのキャラクターに合った、その楽曲のキャラクターが決定される、と考えると、ハードロックもプログレもフォークロックも要はアレンジの問題、ということが見えてくると思います。
(マルチトラック上での切り貼りや即興演奏という部分を除けば)骨組みとして出来上がっている楽曲にアレンジによりキャラクター/フレーヴァーを与える、という見方からして、私は本作を「ボブ・ディランのプログレアルバム」と勝手に認定しております。お後がよろしいようで……

ナイスレビューですね!