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「音楽歳時記」 第八十八回 5月17日 世界電気通信記念日 文・深民淳




大変な世の中になってまいりました。記録的な円安のあおりを受けイギリスからの航空貨物の運送料が1Kgあたり¥1722(1ポンド=164円換算)という破壊的な見積もりをもらいもう笑うしかない状況です。ウクライナ情勢も大きく影響しているのでしょうが、ここ1年の様々な代金の高騰はレーベル・ビジネスの根幹を揺るがす由々しき事態。ロバート・フリップの『エクスポージャー・ボックス』は推定1パッケージ2.2〜2.3Kgですから、1パッケージほとんど¥4,000の運送料。これに様々なチャージが加算されますので、最終的には1個¥5,000。もうほとんどやらない方がマシみたいなとんでもない金額になっています。さすがフリップ先生、ボックスになってもファースト・クラスで日本にやって来ます、って感じです。そんな代金でした。しかもフライトどこので来るのかと思ってみたらANAでした。

過去のクリムゾンのボックスは最低でも800セットでしたが、今回の『エクスポージャー・ボックス』はその半分以下ということもあり、印刷費も小ロットになった分大幅にアップ。凄いことになっています。まぁ、年に1回のことなんで深く考えないようにしていますが、これが続くようだと、本当にやらないほうがマシになってきますね。

クリムゾンではなくロバート・フリップのソロだから売れないみたいなことを相変わらず書かれていますが、先月も書いたようにアルバム『Red』から『Discipline』に繋がる重要な時期の音源が山盛り状態。このボックスに収められた内容をきちんと理解するためには同梱されているブックレット(今回は思い切り濃い)をきっちり読まないと厳しい世界。日本語翻訳ブックレットは必須です。こんなことをここでズルズル書いても仕方ないので後はブログの方でご覧ください。



https://ameblo.jp/king-crimson-dgm-japan

DGMディストリビューション・ジャパンのホームページは6月前半スタートに向け準備中ですが、先行で取り急ぎブログをはじめています。現在は『エクスポージャー・ボックス』作業進捗状況等を中心にアップデートしております。


さて、5月17日は世界電気通信記念日でした。国際電気通信連合(ITU)が1968(昭和43年)年に制定だそうです。1865年のこの日、ITUの前身である万国電信連合が発足したのを記念し他ものなんだそうです。18世紀に始まった電気通信、今ではコンピュータ、タブレット、スマートフォンの普及によって通信の概念自体が大きく様変わりしていますが、電気通信というと僕の頭の中ではBrufordの3rdアルバム『Gradually Going Tornado』のオープニング曲「Age Of Information」が鳴り始めます。

Age Of Information

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アルバム『Red』制作終了で消滅したKing Crimsonの後、野良ドラマーとなったビル・ブルーフォードはGenesisをはじめ多くのバンドで助っ人ドラマーとして活躍。中には言われてみればそうだけど、これブルーフォードじゃなくてもあんまり変わんなかったんじゃない的なPavlov’s Dog『At The Sound Of The Bell』なんかもありましたが、カンタベリーの至宝National Healthとも一時活動しておりました。その活動を通じて繋がりができたデイヴ・スチュワート、フランク・ザッパのバンドなどで活動していたジェフ・バーリン、結成当初はギターがアラン・ホールズワースでしたがこの3rdからはジョン・クラークに交代。


結成当初の方向性はブルーフォード版Return To Forever的な部分が見え隠れしていますが、デイヴ・スチュワートの音色はモロにカンタベリーだし、アラン・ホールズワースは我が強いし、ジャズ/フュージョンのトレンドに寄せて女性ヴォーカルもフィーチュア(RTFがゲイル・モランのヴォーカルをフィーチュアして制作した『Music Magic』は77年発表)しようと呼んで来たのがアネット・ピーコックだったものだから全然無難な仕上がりにならず、アメリカのジャズ/フュージョンとは全く異なる英国人気質丸出しのプログレ色濃いめのジャズ・ロックになっちゃったのが逆に功を奏し、今でもしっかり楽しめる力作に仕上がった1st『Feels Good To Me』。


ビル・ブルーフォードのソロ扱い(フロントはBruford名義だけど背文字部分はBill Bruford名義になっている)だった『Feels Good To Me』がセールス的にはそれほどでもなかったのだけど、時は70年代終盤、Brand Xをはじめ、プログレ寄りの硬派なフュージョン、ジャズ・ロック・バンドが一定のオーディエンスを獲得しており、『Feels Good To Me』を制作したメンバーもバンドとして注目を集め、メンバー中3人はやる気満々で取り組んだバンド・サウンド満開の『One Of A Kind』は『Feels Good To Me』のバラエティに富んだ作風から、プログレ・フュージョン的サウンドに特化、4人の演奏能力の高さとアンサンブルの妙を全面に押し出した楽曲を集めたことで、高い評価を得ます。ただ、やはりセールス面ではこんなもんかと、ジャズ・ロック系アイテムのセールスの限界が見えちゃう結果に終わっちゃうんですけどね。


そして、この時期、Bruford以上に所属のEGが期待していたU.K.の方にもブルーフォードとホールズワースは参加しており、人一倍バンド活動が苦手なホールズワースはかなり疲弊しちゃっているようで、かなり強めにチューニングしたスネアを、前打ち後締め自在に行き来する独自のスネア・ワーク、五月雨タム回しも全開で俺のバンド感を強く打ち出すブルーフォード、ブレークのチャンス到来とばかりにバッキングにまわってもソロ・パートになっても聴いていて明らかにモチベーションが高いスチュワート、バーリンに比べホールズワースのプレイは現状維持状態。バンド活動は嫌だってことで脱退していく「お疲れ感」がプレイにも出ちゃっているように思います。

とはいえ、バンドの75%はモチベーション高めのアゲ・モードに入っていますから演奏自体は高レベルで充実。アルバム全体を使ってバンドの特色を強く売り出して行こうとしたため曲想が若干一本調子になった印象も受けますが、70年代終わりの硬派ジャズ・ロック、プログレ系フュージョン・サウンドを堪能する上では欠かせない優良作だとおもいます。


で、電気通信っぽいSEから始まる3rdアルバム『Gradually Going Tornado』ですが、諦めムードはないもののバンドのモチベーションは『One Of A Kind』と比べるとやや低め。収録楽曲もアルバム全体統一感持たせて作り上げようという意思より、持ち寄った曲でできの良いものをチョイスといった雰囲気に変化。

新加入のギタリスト、ジョン・クラークは発展途上のアラン・ホールズワースといった雰囲気で、トーンの処理やプレイの滑らかさといった面ではホールズワースに及ばないものの、音の輪郭ははっきりしたプレイのため、ギターは前2作よりむしろ前に出て来ている印象を受けます。また、各収録曲の作曲者の意図に寄り添ったプレイを要求され、それにちゃんと応えているため、アルバム全体のバランスを取る上では結構重要な役回りを担っていたと思います。


前作はジャズ・ロック/フュージョン系サウンドとしては優れていたものの、ヴォーカルの入ったキャッチーなナンバーがなかったみたいな論調があったのでしょう。ここでは決してうまいとはいえないジェフ・バーリンがヴォーカルを担当した曲が3曲収録されています。メロディラインの作りも音程の怪しい唱法もけっして褒められたものではありませんが、批判を恐れず歌い切っちゃった姿勢はあっぱれですし、ヘタウマの向こう側に突き抜けた独特の味わいがあり捨てがたい魅力があります。アナログではB面のトップに置かれていた「The Sliding Floor」などはこの忙しないバック演奏にヴォーカルを乗せるかと思わずたじろぐ曲だったりしますしね。

The Sliding Floor

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ヴォーカル・トラックの導入もあり、全体的な整合感は『One Of A Kind』から一歩後退といった印象を受けますが収録曲はデイヴ・スチュワート中心の楽曲が多く、National Healthに通じるテイストを持ったサウンドがそこかしこで顔を見せる聴きごたえのある作品に仕上がっていますし、ラストの「Land’s End」などは完全にHatfields & The North、National Healthの流れを汲んだナンバーで途中にはNational Healthの2ndアルバム『Of Queues And Cures』収録の「The Bryden 2 Step」のフレーズが引用されています。

Land’s End

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またドラムの方に話題が行きがちですが、ビル・ブルーフォードのコンポーザーとしての才能もなかなかのもので『Feels Good To Me』からこの『Gradually Going Tornado』まで印象的なメロディラインを提供していますが、本作収録のピアノとベースによる美しいバラード「Palewell Park」のメロディラインは秀逸です。

Palewell Park

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FM放送音源由来のライヴ・アルバム『Bruford Tapes』を含めBrufordの作品群は過去何度もCD化されていますが、近年の再発状況を見ると2014年にマーキーから紙ジャケット、SHM-CD再発が出て(その前にディスクユニオンが一度紙ジャケット化してますけどね)その後、2017年ジャッコ・ジャクスジク・ミックスのステレオとサラウンド音源の2ディスク・パッケージが輸入盤で出ています。この後、マーキーから19年から20年にかけて紙ジャケット、SHM-CDフォーマットのCDがもう一度出ているんですね。僕はサラウンド・ミックスが入ったDVDが付いていないので、直近のマーキー盤は2014年版のアンコール・プレスなのかと思っていたら、これ、2017年ジャッコ・ステレオ・ミックスを使った新装版だったんですね。

何でこんな話かというと、2017年版CD+DVD版を一通り買ったんですが、だいぶ前に一度書いたと思うのですが、これDVDのサラウンド・ミックスのレベル自体が低くかなり音量上げないと迫力不足でイマイチ気に入っていなかったため、中古でまとめて出ていたのでマーキー盤SHM-CDを買ってみました。自分では2014年盤を買ったつもりでいたのですが、新装版だったわけです。結局、2014年版再発音源は入手できていないので、ちゃんとした聴き比べができないのですが、サラウンド音源同様あまり良い印象がなかったジャッコ・ステレオ・ミックス、最新のマーキー盤SHM-CDシリーズではその真価を発揮しているように僕は感じました。

ジャッコ・ミックス、旧Virginのリマスター盤などに比べ全体抜けが悪い印象を受けました。その基本的な印象は最新のマーキー盤でも変わらないのですが、同じミックスをマスターに使用した輸入盤に比べ全体の音が太めで、広がりや音が減衰していくニュアンスもしっかりと再現されているように思います。SHM-CDは気休めと評価しない方もいらっしゃるかとは思いますが、僕はこのミックスの商品化に関してはSHM-CD採用は一定の効果を上げたと思っています。

話を一度整理すると、どうもジャッコ・ステレオ・ミックスは抜けが悪いのではなく、オリジナルのマルチトラック・テープに収められているファットで温かみのある音質を尊重したものだったのではないかと推測。そういうコンセプトで作業を進めたものの、2017年の海外盤ではマスタリングの問題なのか、プレスのクオリティなのか、そこがうまく伝わってこなかったのが、最新のマーキー盤SHM-CDではそこがかなり改善されたんじゃないかと思います。逆に90年代から2000年代初頭に出回っていたリマスター(だよね?)音源の方がシャッキとした質感でコントラストもしっかり付いているんですが、全体的にドライな印象を受けます。

2014年発売のマーキー盤を聞いていないので、相対的な比較はできないのですが、Brufordのスタジオ盤はそのシリーズによってサウンドの質感がかなり異なることが今回目についたので取り上げて見ました。かなり差が大きいですよ。どれが好みかは聴く人の嗜好によって異なるんですけどね。


最後になりますが、ちょっと気になっているアルバムがあります。C Duncanというアーティストの今年発表されたニュー・アルバム『Alluvium』。ネットで見つけてジャケット見て何となく聴いてみようかってことでMP3ダウンロードしたのですが、これかなり良かったですね。グラスゴー出身のアーティストでdiscogsで検索すると本作がアルバムとしては4作目の模様。この最新作はCocteau Twinsのサイモン・レイモンドがやっているBella Unionというレーベルから出ているらしいのですが、CDが見つからないんだよね。

『Alluvium』より前の作品もダウンロード版で買ってみたのですが、それはまぁ、最近のポップ作品だよねみたいな感じで悪くないけど、どうしてこれが『Alluvium』にたどり着くのかといった疑問が先に立つ内容。

サウンドは70年代イタリアのカンタトゥーレ、60年代バロック・ポップ、80’sのピアノが立ったドリーミィ・ポップをホイップしたみたいなポップ・アルバム。間違ってもプログレじゃないし、ジャズ・ロックでもない、ストリングスやピアノが前に出たポップ・アルバム。でも楽曲の出来が素晴らしくこれ、CDで買っておきたいと思うのですが、デジタル販売だけなんだろう?今月、一番気になっている作品です。

Alluvium

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BRUFORDの在庫

  • BRUFORD / LIVE IN CHICAGO 1979

    79年8月26日のシカゴ公演を収録、ギターはJohn Clark

  • BRUFORD / BRUFORD TAPES

    79年のライヴ・アルバム

    Allan HoldsworthからJohn Clarkへとギタリストが変わった後の79年に行われたニューヨークでの公演を収録したライヴ盤。Allan Holdsworthにも引けを取らないテクニカルな早弾きを聴かせるギター、ギターに負けじとスリリングなフレーズを応酬するJeff BerlinのベースとDave Stewartのキーボード、安定感抜群に疾走するBill Brufordのドラム。終始スリリングなフレーズで圧倒するテクニカル・ジャズ・ロックの名作。

  • BRUFORD / ONE OF A KIND

    79年リリースの傑作2nd、メンバーは前作同様デイヴ・スチュワート/アラン・ホールズワース/ジェフ・バーリン

    「FEELS GOOD TO ME」に続き、デイヴ・スチュワート、アラン・ホールズワース、ジェフ・バーリンと共に作り上げたジャズ・ロックの傑作。79年作。

  • BRUFORD / GRADUALLY GOING TORNADO

    80年作、終始スリリングなフレーズで圧倒するテクニカル・ジャズ・ロックの名作!

    ヴォーカル・ナンバーやカンタベリー色の強い10分を超えるナンバーの収録と多彩な楽曲を味わえる、バンド”ブラッフォード”最終作。80年作。

  • BRUFORD / ROCK GOES TO COLLEGE(CD)

    『FEELS GOOD TO ME』録音時の鉄壁メンバーによる、名演と誉れ高き79年オックスフォード公演の音源を収録!

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BILL BRUFORDの在庫

  • BILL BRUFORD / AN INTRODUCTION TO BILL BRUFORD’S SUMMERFOLD

    ビル主宰のレーベルSUMMERFOLDのコンピ、EARTHWORKSのナンバーを中心に収録

  • BILL BRUFORD / FEELS GOOD TO ME

    イエス〜クリムゾンに在籍したプログレ界屈指の名ドラマー、A.ホールズワース/D.スチュワート/J.バーリンという鉄壁の布陣を従えた78年作、カンタベリーなセンスも内包するスリリングかつメロディアスなジャズ・ロック名品!

  • BILL BRUFORD / MASTER STROKES

    78-85年期よりセレクトされた全15曲、アラン・ホールズワース、ジェフ・バーリン参加

  • BILL BRUFORD / IF SUMMER HAD ITS GHOSTS

    イエス〜クリムゾンに在籍したプログレ界屈指の名ドラマー、コンテンポラリー・ジャズ・アルバム、97年作

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