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FIRST CUT - STREETWALKERS

CHAPMAN WHITNEY

MYSCD202(MYSTIC

廃盤。

評価:50 1件のレビュー

元FAMILYのROGER CHAPMANとCHARLIE WHITNEYを中心とするグループ、74年作

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評価:5 文字通りの意味でミッシングリンク(1 拍手)

Humanflyさん レビューをすべて見る

告白しますと、私は人生で一回だけ権利関係の怪しげなロシア製のリプロダクション版CDを買ったことがあります。このアルバムのCDがそうでした。ファミリー関連のブツで、これだけが正規でCD化されていなかったもので。

ロジャー・チャップマンとチャーリー・ホイットニーにとっては、ファミリーとストリートウォーカーズの狭間に発表した一枚であり、オリジナルとしてはチャップマン―ホイットニーというデュオ名義による、Streetwalkersというタイトルのアルバムでした。この初CD化に当たるミスティック盤は、タイトルがFirst Cutと替えられ、ジャケットもえらく地味なものに変更されています(がっかりしたという人も多いでしょう)。おかげで、私は音質的にはだいぶ劣るロシア製CDをまだ処分出来ていません。

「ストリートウォーカーズ」というだけだとバンド名なのかアルバム名なのか分かりにくい、というのは多くのファンが思ったことではないでしょうか。ミスティック盤CDのライナーでのチャップマンの発言やDowntown FlyersのBGO版CDライナーでのホイットニーの発言によると、本作発表時にもギグを行ったが、メンバーがまだ固定していなかったということですが(ホイットニーは、デュオとしてではなくバンドとして活動したかった、とも言っています)。

この辺の事情からチャップマン―ホイットニーからバンドとしてのストリートウォーカーズへの連続性は曖昧でありつつ、ゆったりと繋がってもいるということなのでしょうが、ロシア製CDで本作を初めて聴いた時に驚いたのは、これがファミリー最終作であるIt’s Only a MovieからDowntown Flyersに始まるバンド名義としてストリートウォーカーズを名乗ってからの作品群へと、緩やかに音楽性を変化させながら橋渡しを務めているということでした。

色々な要素が独特に複合していて、その音楽的特徴が非常に語りにくいバンドとされがちなファミリーですが、今まであまり語られてこなかった見方として、七作あるファミリーのアルバムは、ある作品とその次作では音楽性が緩やかに変化しつつ、以前の作品との連続性も感じられるのに対し、二作離れると、もう別のバンドのようになっている、という傾向がある、と思っています。一作ごとに、確実に、だが緩やかに変化しており、結果、七作のどれもが他と交換不可能な聞かせどころを持っているし、一作ずつの価値・存在感もかなり対等、という点でファミリーのようなバンドは実はなかなかいない、というのがファンである私の持論です。
ファミリー七作目で最終作であるIt’s Only a Movieは、六作目までと比べると散漫な出来、という声が時折囁かれますし、私はそうは思わないのですが、それでもストリングスやディキシーランド風のホーンが入ったり、フォーク〜カントリー風の要素も混じってきた音楽性がロック的なパンチの強さに欠ける、という印象はあったりします。

それがこのStreetwalkers=First Cutでは、〜Movieでのそうしたアイディアとアレンジが引き続き織り込まれつつ、Downtown Flyers以降の、泥臭いスライドギターとファンク的粘り気を加えたハードロック曲もある、という音楽性がこの時点で芽生えつつあり、まさに“アルバム一作ごとの緩やか且つ確実な音楽性の変化”が確認出来るのです。その意味で、このアルバムがずっとCD化されなかったことはファミリーからストリートウォーカーズへの連続性を見えなくするものであった、と痛感すると同時に、ファミリー名義ではなくなった本作が、逆説的に“一作ごとの音楽性の緩やかな変化”というファミリーの特徴を改めて裏付ける結果になった、とも思っています。

ミスティック盤は曲順も大幅に変更されているので、分かり易く並べて書いておきます。

オリジナル
1) Parisienne High Heels
2) Roxianna
3) Systematic Stealth
4) Call Ya
5) Creature Feature
6) Sue and Betty Jean
7) Showbiz Joe
8) Just Four Men
9) Tokyo Rose
10) Hangman
ミスティック盤再発CD
1) Hangman
2) Roxianna
3) Sue and Betty Jean
4) Call Ya
5) Just Four Men
6) Tokyo Rose
7) Creature Feature
8) Parisienne High Heel
9) Systematic Stealth
10) Showbiz Joe

何といっても、オリジナル一曲目、スライドギターも強烈なイントロで始まるParisienne High Heelが後半に回され、オリジナルでは曲間なしでひと続きだったラスト三曲が、ラストの盛り上がりを担うHangman(それも、よりにもよってアルバムど頭に回される形で)とそれ以外に引き離されている点がかなり気になります。おかげで、私は音質的にはだいぶ劣るロシア製CDをまだ処分出来ていません(しつこい)。

Parisienne High HeelやHangmanのような痛快なロックナンバーもあれば、素朴で真摯なソウルバラードのCall YaやSystematic Stealth、It’s Only a Movieの路線を受け継ぐディキシー風路線のRoxiannaやShowbiz Joe、そのどちらの要素も含まれているSue and Betty Jean、ファンキー路線の萌芽が見られるCreature Featureと、Downtown Flyer以降へ繋がるソウルフルでファンキーな音楽性が徐々に形作られているのが分かります。

ジャケットに話を戻すと、ミスティック盤First Cutでジャケットデザインが変更されたのは、ライナーでのチャップマンの発言によると、「オリジナルのアートワークはDoll’s Houseから逃げ出していくような感じが後ろ向きな感じがして好きになれなかった」からだそうですが、ディスクユニオンから出ていたミスティック盤の国内盤は(深民さんの尽力だと思いますが)オリジナルのジャケットを再現したものでお見事。

そして、ここに来て、五十周年記念のエクスパンデッドエディションが出ることになり、ようやくオリジナルのアートワーク&曲順でのCD化が全世界で叶うこととなる2024年夏、というところなのであります。
五十年目の快挙というか、今まで再発の機会に恵まれてこなかったこんな作品にも五十周年記念エクスパンデッド規格という陽が当たるような昨今というか、ようやくこれで私もロシア製リプロ盤を処分出来るというか……

ナイスレビューですね!