Anthony Moore、Peter Blegvad、Dagmar Krauseという3人の奇才が結成した「史上初のアヴァン・ポップ・グループ」、74年作『カサブランカ・ムーン』のオリジナルヴァージョン
1,190円(税込1,309円)
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スカンジナビア山脈に響く唄声(0 拍手)
Grey Sovereignさん レビューをすべて見る
ノルウェーと言う国は、スウェーデン、フィンランドと共に北欧諸国として一派一絡げに語られがちではあるが、国の場所は前述の二国及びロシアと自国を合わせた計四か国で形成されるスカンジナビア半島の最も西側に位置している。
そして南は北海、西はノルウェー海を望む。特にそのノルウェー海の海岸線は氷河による侵食によって作られたフィヨルドが3000キロ以上に渡り続いているのは有名。そしてまた、陸地はその大部分がスカンジナビア山脈の山岳地帯である事から平地はほぼ無い。国の所在としては北緯57度以上という高緯度地帯に位置しているのではあるが、暖流のノルウェー海流の影響により北欧とは言え一般的なイメージ以上に温暖な気候の地域であるとも言える。とは言え、それでも相対的に見れば、地理的な面及び気候的な面の両面に於いて人々の生活環境が他の地域の国に増してより厳しいという事は事実である。
この作品の主人公であるAgnes Buen Garnasはノルウェーを代表する女性フォーク・シンガーである。しかし彼女のそれは商業主義に侵された名ばかりのフォークではなくて、その地域の生活にしっかりと根差した言葉本来の意味での伝統的な民族音楽である事を強調しておきたい。
彼女は1946年に首都オスロの西に位置するテレマルク県の有名な音楽一家に生まれた。兄弟であるHauk Buen、Knut Buenもノルウェーで著名な音楽家・演奏家である。本作品Draumkvedetに於いても、Agnesの弟であるそのKnut Buenのヴァイオリンに似たノルウェーの民族楽器であるハーディングフェーレの演奏を聴くことができる。
このアルバムを一言で表現するならば、彼女の伝統的なこの地域の民族音楽のスタイルを踏襲した唱法を味わうことが出来る作品であると言えよう。但しそれは単に美しいというだけではない。生活して行くのに、温暖で暮らし易い地域の何倍もの苦労を必要とする北欧という場所で、何世紀もの間生き抜いて来た民族のエネルギーの迸りにも似たような物を、この音楽に感じる事が出来たなら、あなたは本作品を聴いた甲斐があったと思って良いと思う。個人的には典型的なプログレッシヴ・ロックを好んで聴いている聴き手にこそ是非この作品を聴いてもらいたいと思う。聴くべき音楽の幅が必ずや広がるものと確信をする。
そして真に美しく力強い音楽がここにある。