逃避行

男も女もLGBTも結局は、ひとり（4 拍手）

たすけさん レビューをすべて見る

わたしがジョニ・ミッチェルを追いかけるようになったのは、この作、特に「コヨーテ」を聴いてからです。「逃避行」という邦題ゆえ、女が男から逃げる、というような卑賎なイメージでとらえられがち。これは訳が悪くて、ヒジュラは、イスラム教開祖ムハンマドが迫害の地から逃れ、メディナに移った故事に由来します。宗教的退却という訳をあてられることもあります。つまり、ひとつの恋愛に執着するな。女はひとりの女として自立して生きろ、がこのレコードのテーマです。

例えば「アメリア」という曲。これは太平洋で消息を絶った女性パイロットの実話からつくられています。アメリア、それは警報機の故障だったのよ、というフレーズが繰り返されます。いまだにアメリア・エアハートは孤島に不時着したとか、彼女の飛行機の残骸が発見された、とかの話題が信じられてもいます。ジョニは、消えた彼女の孤独と自立に寄り添っています。

わたしはこのレコードの歌詞を全部和訳しました。子どもながらに。それぐらい密度の濃い文学的な内容です。ジャコのベースばかり持ち上げられます。でもジャコを材料にして使いこなす彼女の構成力こそすさまじい。そしてそれぞれの曲で歌われる女性への応援と寄り添いがこのレコードの素晴らしさであると思います。2022.10.10