BTM02(BEYOND THE MOON) 【2010年発売CD】
廃盤、紙ジャケット仕様、デジタル・リマスター ※ジャケットにはTIA BLAKE & HIS FOLK GROUPと誤表記。
Vashti Bunyanの素朴さと無垢さに、Bridget St.Johnの凛とした透明感をブレンドしたようなヴォーカルのなんと素晴らしいこと!米女性SSWがパリで録音した作品だって!?
アメリカの女性SSWがフランスに渡って制作した、という謎多き作品。71年の唯一作。Vashti Bunyanの素朴さと無垢さに、Bridget St.Johnの凛とした透明感をブレンドしたようなヴォーカルのなんと素晴らしいこと!アコギの爪弾きを基本にスティール・ギターが添えられたアンサンブルはリリシズムに溢れていて、米フォークより英フォークに近い翳りがあります。これは英フィメール・フォークのファンは必聴。言葉を失う名品です。
このアルバムは、ほぼ、ティア・ブレイクの歌とギターだけです。混じり気のない簡素なフォークが、すっと胸に入ってきます。
ヴァシュティバニヤンの、ささやくようなボーカルや浮世離れした旋律は、ティア・ブレイクにも通じるものがあります。
ブリジットの透明感ある歌声。別格ですよね。ティア・ブレイクの歌声も、本当に透き通って美しいです。
出生名:Christina Elizabeth Wallman (1952-2015)
ジョージア州にて、CIA捜査官の父親と書店員の母親のもとに生まれました。
70年に高校を卒業、ニューヨークの出版社で半年働いたあと、パリへ渡航。
2人のギタリストと共に、フランスの音楽レーベルSFPPから「TIA BLAKE」として『FOLKSONGS AND BALLADS』をリリースしました。
この時ティアは19才。
『FOLKSONGS AND BALLADS』では、タイトル通り、英国起源のバラッドや、トラディショナル・フォーク・ソングを主に歌っています。
ティアの歌声には、生粋のフォークシンガーのような気迫は殆ど無く、非常にさらっと歌っています。そこがたまらなく魅力的なのです。どこか冷めたような、一歩引いているようなティアのボーカルがこのアルバムの最大の特徴ではないでしょうか。
それではアルバムから、2曲ご紹介です。
どちらもバラッドです。
陽気なスライドギターと、太いドブロ・ギターをバックに、ティアの涼やかな歌声がさらさらと流れていきます。
「BETTY AND DUPREE」というこの曲。1922年ジョージア州アトランタで、殺人のため絞首刑になったフランク・デュプリーが元になっており、新聞販売員により作曲されたそう。
以下、少し長いですがティアが歌っている歌詞です。(コーラス部分は省く)
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Lie down Betty, see what tomorrow brings
Lie down Betty, see what tomorrow brings
May bring you sunshine, may bring you diamond rings
But if you lose your man it won’t bring you anything
Now Betty told DuPree, “Buy me a diamond ring”,
Betty told DuPree, “Buy me a diamond ring”
And DuPree told Betty, “Buy you most anything”
So DuPree took a pistol and he robbed that jewelry store,
I said DuPree took a 38, he robbed that jewelry store
You know he killed two policemen he left them lying on the floor
Now DuPree in a taxi “Take me to Baltimore”
DuPree in a taxi “Take me to Baltimore”
And when he got to Betty’s the sheriff was waitin at the door
DuPree’s in the death house callin’ out Betty’s name
DuPree’s in the death house callin’ out Betty’s name
When The guard said “DuPree this note from your baby just came.”
“I came to see you but they wouldn’t let me see your face”
“I came to see you but they wouldn’t let me see your face”
“I love you DuPree, ain’t no one gonna take your place!”
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強盗と死を、とてもあっけらかんと歌っています。
陽気な楽曲と詩のコントラストが大きく、不思議な魅力を放っています。
さて、次の曲です。
フルートの古風な響き、複数のギターの絡み、そしてやはりティアのこの歌声!素晴らしいです。
この悲しげなメロディー。なぜこんなにも胸を打つのでしょうか。
「JIMMY WHALEN」というこの曲。1878年頃にカナダのオタワ川で事故死した、木こりのジェームス・ファーレンがもとになっているそう。
以下、ティアが歌っている歌詞です。
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All alone as I walked by the banks of the river
Watching the moonbeams as evening drew nigh
All alone as I rambled, I spied a fair damsel
Weeping and wailing with many a sigh.
Weeping for one who is now lying lowly
Mourning for one who no mortal can save
As the foaming dark water flow sadly about him
Onward they speed over young Jimmy’s grave.
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ジミー・ウォーレンの早すぎた死を嘆く若い娘の様子が、幻想的に歌われています。
それにしても、なぜバラッドには、人の死や犯罪、残酷な出来事が歌われるのでしょうか。
イギリスやヨーロッパで口伝えで歌い継がれてきた、物語性のある歌のこと。
15世紀にグーテンベルクにより活版印刷が発明されて以後は、歌と楽譜を印刷したものを路上で歌いながら販売する、「ブロードサイド・バラッド」という形で広まっていきました。この「ブロードサイド・バラッド」は、新聞のように、当時の事件やニュースなどを伝える役目があり、内容は殺人やゴシップなど、今のワイドショー的なものも多かったそうです。
瓦版、のようなイメージですね。
中世の時代から歌い継がれてきた物語やその中にある人々の心を、現代でもまざまざと感じることができる、バラッドにはそんな魅力があります。
そしてこのアルバムにおいては、ティアの簡素な歌唱によって、歌の魅力が最大限に引き出されています。
アルバムプロモーションの公演をパリの劇場でたった一回行ったのち、ティアはアメリカへと戻っていきます。
76年、カナダのモントリオールに住んでいたティアは、自作曲をカナダの放送局CBCに持っていきましたが、
ティアの曲は採用されず、その後音楽活動から離れます。
1989年には30代後半でスミス大学を卒業、フリーの作家・編集者となり、ノースカロライナに定住。
少女時代の父親との思い出を綴ったエッセイが文芸誌に掲載されたり、ティアの書いた演劇がニューヨークの演劇祭で上演されたりと、文化的な活躍をしていたようです。
↑↑壮年期のティア。溌剌とした女性という感じです。ジャケットの面影がありますね!
2015年6月、ノースカロライナ州で病気のため亡くなっています。
『FOLKSONGS AND BALLADS』は、バラッドの持つ普遍的な魅力と、音楽や文学に憧れ挑戦し続けたティアの人生の、19才という一瞬の輝きを閉じ込めたようなアルバムです。
このジャケット、初回のジャケットは、よく見ると「TIA BLEKE and his folk group」となっています。
よっぽど慌ててプレスしたんでしょうか。
アルバムのジャケットを見て、ティアが弾き語っているかと思っていたのですが、違ったようです。ティアはボーカルだけのようですね。
きっとこのジャケットも、「ねぇティア、ちょっとこのギター持って俯いてくれない?」などと言われて撮影したのかもしれません。
RANDY RICE/TO ANYONE WHO'S EVER LAUGHED AT SOMEONE ELSE
ちょっと、これは凄い作品です、米SSWによる74年作で、マイナーながらニック・ドレイク級に崇められるべき名作
2,890円(税込3,179円)
BACK ALLEY CHOIR/BACK ALLEY CHOIR
こ、これは、英フォーク幻の名盤!72年にYORKから500枚のみで限定プレス・リリースされた唯一作!
2,190円(税込2,409円)
ただならぬ空気をまとった、ミスティックな女性シンガーをピックアップ致しました。
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