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みんな知ってるようで、実は知る人ぞ知るすごい人。例えるなら、日本のポール・ローランド。(0 拍手)
ほにょさん レビューをすべて見る
タイムボカンシリーズやJ9シリーズなどのアニメ主題歌や、「燃えよドラゴンズ」などの企画ものソングの名手として知られるシンガーソングライターの、恐らくキャリア初の本格的なライブ盤。収録された1990年代前半の時点での、この人の集大成といっていいステージを楽しめる。とは言うものの、いわゆるアニソンは最初にギター一本の弾き語りメドレーで済ませてしまい(同時期のイ・プーの集大成ライブを思い出す)、それ以降は彼自身の世界をじっくり聴かせてくれる。
加えて重要なのは、それまでのアルバムには収録できなかった長尺のバラード(物語歌)がいくつも入れられていることだろう。特にファンにはお馴染みの「ごはんものシリーズ」の(とりあえずの)完結編であり、シュールな夜の出来事から自身の無名時代の回想につながっていく「想い出のハムライス」が素晴らしい。そして、今で言う異世界トリップものというか、少年雑誌的な一大ファンタジーを語り下ろす「黒百合城の兄弟」はアルバム最大の聴きものだろう。その他、怒りの中にも笑いを忘れない風刺ソング「泡沫シンドローム」、痛快なロックンロール「紅子の宇宙船」などをはさみつつ、クライマックスのあの曲へとつながっていく。何より、お客さんを前にしての暖かみあふれる空気がうれしい。
それにしても、1970年代から80年代の日本で多感な時期を過ごした、漫画とアニメと歴史と電車とプロレスとラジオの深夜放送が大好きなオトコノコの心情を歌わせたら、この人に並ぶ人がどれだけいるんだろうかと思う。ここに収められた曲は、例えば劇場アニメ「メガゾーン23」の劇中で再現された東京の街のように、日本という地域のある時代の心情を落とし込んだスナップとして、この先歴史に残っていくんじゃないか、というか、そうであって欲しいと思う。団塊ジュニア、イチゴ族と呼ばれた世代が死に絶えたそのあとも、そのよすがを残すものであってほしいなぁ、と。まさにこのアルバムの中に「少年の夢は生きている」のだ。