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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第九十四回:WIGWAM『BEING』

「言って良いことと、悪いことが、あるでしょうが?!」というようなセリフを、小説やマンガ、ドラマなどで見る。やっぱり、その見極めって難しいと思うわけです。若い頃は、若気の至りで、「言って良くないこと」も言ってしまったりしたけれど、やっぱり大人になってそれだと、目も当てられないなあと思うわけです。エンタテインメントになっていたら許されるってこともあるんだろうけど、それにもセンスとか技術がいるのであって。だから失言で姿を消す芸能人が出たりする。一般人だと、当然そんな技術は多くの人が持っていないから、YahooやYou Tubeのコメントとか、Amazonのレビューとか、まあ好き勝手書いてますわ。と思ったら、プロも公然とテレビや雑誌で他人の批判をしたり、炎上するようなことを言ったり書いたり。世の中「言わんでも良いこと」のオンパレードな気がしてくる。

頭の中でだったら、何を思っても自由なんです。嫌な奴をボコボコにしたり、口汚く罵ったり、頭の中は無法地帯でもオッケー。僕だってそれはもう、自慢じゃないけど口に出せないようなことをいっぱい考えている。でも「人を傷つけるようなこと」や「人を嫌な気分にさせること」は、なるべく頭の中に留めている。それが大人なんじゃないのかなあ。ということで、今回は頭の中を描いたジャケットが印象的な、WIGWAM『BEING』を紹介したいと思います。

フィンランドを代表するプログレ・バンドWIGWAMが結成されたのは1968年。当時のフィンランド・シーンは若手ミュージシャンの集合離散が活発だった。さらにアート・ロックやサイケデリック・ロックの影響もあって、BEATLESやKINKS、ROLLING STONESのコピーではない、新しい音楽性を目指したバンドの再編成が起こっていた。BLUES SECTIONというバンドのドラムだったロニー・エステルベリは、MOSAICやROOSTERSなどで活動していたウラジミール“ニッケ”ニカモ(g)、いくつかのバンドを渡り歩いていたマッツ・フルデン(b)と、新たな音楽性を目指してバンドを結成する。これがWIGWAMの始まりだった。ちなみに残ったBLUES SECTIONのメンバーたちは、後に別のプログレ・バンドTASAVALLAN PRESIDENTTIを結成している。

イギリス出身だがフィンランドで活動し、BLUES SECTIONでヴォーカルを担当していたジム・ペンブロークがWIGWAMに加入。メンバーの固まった彼らは、1969年にシングル「Must Be The Devil / Greasy Kids Stuff」でデビュー。同年にはアメリカで「True Confession / Helsinki」というシングルを発表するが、これはジム・ペンブロークとロニー・エステリベリ在籍時のBLUES SECTIONによる「End Of The Poem」「East Is Red」という曲のタイトルを変えたもので、WIGWAMのアメリカ向けプロモーションのためにWIGWAMの曲だと捏造されたものだった。

そんな混乱もあったが、ROOSTERSのユッカ・グスタフソン(kbd)がWIGWAMに加入すると、彼とジム・ペンブロークが中心となってバンドの方向性が定まっていった。まずはシングル「Luulosairas / Henry’s Highway Code」を発表し、これが本国でヒットとなっている。

満を持して1969年に発表したデビュー・アルバム『HARD N’ HORNY』は、アナログB面に組曲を収録するなどプログレ・バンドらしい内容に。といっても曲はポップで聴きやすいというのがWIGWAMの個性だった。しかし、所属レコード会社のLove-Recordsは、経営状態が相当悪かったのか、ファースト・プレスの400枚はジャケットを印刷しないことに決定する。つまり真っ白のジャケットであり、メンバーや彼らの友達がイラストや文字を手書きするという前代未聞の事態に。セカンド・プレスからはジャケットが印刷されるようになり、国内盤再発CDもそのデザインを元にしたものになっていた。

そんなLove-Recordsにアプローチをしてきたのが、RUNAWAYSをはじめ数々のバンドを成功に導くアメリカ人プロデューサー兼仕掛け人のキム・フォウリーだった。WIGWAMはセカンド・アルバムのレコーディングに入るが、キム・フォウリーはWIGWAMをフィンランドのBEATLESにすることを目論み、コマーシャルな方向性を強めるように要求。それに馴染めなかったのか、ベースのマッツ・フルデンとギターのニッケ・ニカモが脱退してしまう。マッツ・フルデンの後任には、THE BOYSのペッカ・ポーヨラが加入。ギターはTASAVALLAN PRESIDENTTIのユッカ・トローネンらがゲスト参加してレコーディングを行ない、1970年に『TOMBSTONE VALENTINE』をリリースする。なぜかビニール袋を提げた「買い物帰り感」のあるジャケットはさておき、良い意味でのポップさも巧みにバンドの個性として溶け込ませた作品となっている。ペッカ・ポーヨラの才能もバンドのレベルを押し上げていた。

アメリカでも『TOMBSTONE VALENTINE』がリリースされるが、なんと2枚組。1枚目には『TOMBSTONE VALENTINE』の曲を収録しているが、フィンランド盤とは曲順がバラバラにされていた。2枚目には『HARD N’ HORNY』とBLUES SECTIONの曲、フィンランドのシンガー、キルカ・バビツィンのシングル曲などがつめこまれているという怪しげな商品となっていた。

それに対する反抗というわけではないだろうが、1971年に発表した3作目『FAIRYPORT』は、WIGWAM自ら2枚組にすることを選択。ジャズ・ロック色を強めた演奏面での魅力が増した作品となった。特にライヴ・テイクでの長尺即興演奏は、彼らのミュージシャンとしての実力を伝えるものであり、本作を彼らの最高傑作に推す声も高い。プログレ・バンドとしての自信を得て産み落とされたのが、1974年に発表された通算4作目となる『BEING』だった。

先にその後のWIGWAMを簡単に紹介しておきたい。まず『BEING』と同じ1974年には、ジム・ペンブロークのソロ作『PIGWORM』がリリースされている。彼の歌をメインにした内容だが、WIGWAMのメンバーも全面参加して、演奏のクオリティが素晴らしい。裏WIGWAMといえる一枚。WIGWAMはというと、『BEING』発表後にユッカ・グスタフソンとペッカ・ポーヨラが脱退。新メンバーを加えて、1975年に『NUCLEAR NIGHTCLUB』を発表する。同年にはユッカ・グスタフソンとペッカ・ポーヨラ在籍時のライヴを収めた『LIVE MUSIC FROM THE TWILIGHT ZONE』も発表されている。その後もメンバー・チェンジをしながら、1976年に『LUCKY GOLDEN STRIPES AND STARPOSE』、1977年に『DARK ALBUM』と発表するが翌年に解散する。1991年に再結成され、『LIGHT AGES』(1993年)、『TITANS WHEEL』(2002年)、『SOME SEVERAL MOONS』(2005年)と発表した。

さて『BEING』です。WIGWAMのアルバムの中で最もプログレッシヴ度の高い作品が本作。コンセプトを手掛けたのはユッカ・グスタフソン。貧困にあえぐ者、労働者と資本家の階級闘争。社会主義や資本主義、繰り返される戦争など、社会の矛盾を様々な視点から描いている。ジャケットにも牧師や貧しい者たち、捕虜を追い立てる兵隊、ブルジョワジーなど、内容に則した人物が描かれている。人間という存在は尊いが、社会の矛盾もすべて人間が生み出したものである、というような皮肉が込められているように思う。ゲートフォールドの裏ジャケットに描かれた、ブリューゲルの絵画を思わせるシュールな世界も含めて、じっくり見ると色々な発見のあるジャケットで面白い。

他のWIGWAMのアルバムに比べると音楽的には少し重い感じもあるけれど、やはりプログレ・バンドとしてのひとつの到達点だったのではないか、と思う。それにしても、ユーロ・プログレ好きを自称する人が、本作を聴いてないっていうのは、ちょっと考えられないなー! ←こういうことが「言わなくても良いこと」です。ここでは、本作の中でも派手な展開をみせる「Pedagogue」を聴いていただきましょう。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Pedagogue

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