2025年1月10日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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人間というのは学習しないものだ、と実感した年末年始。思い返せば去年のクリスマス過ぎのこと、なんだか頭の上の方がチクチクと痛い。神経痛か?と。二日ほどそのままにしておくと、目の奥にジンジンとした痛み、頬骨のあたりにズキズキとした痛み、首筋に重い痛み。そこで気がついた、「あっ、副鼻腔炎だ!」と。時すでに遅し。グワングワンと内側から圧迫するような痛みが頭全体に広がっていく。2024年も残すところ数日となったタイミングでの副鼻腔炎。いわゆる蓄膿症というやつです。抗生物質と鎮痛剤を飲んで床につくが、顔面痛と頭痛がひどくて眠れないので、追い鎮痛剤に追い抗生物質(決してマネしないでください)。何とか頭痛が収まってきたけど、今度は腰が痛い。用法用量を守らない鎮痛剤及び抗生物質の投与で、腎機能障害を併発したみたい。神経痛かな?からの副鼻腔炎、鎮痛剤と抗生物質の用法用量違反からの腎機能障害。これ、人生で三度目です。学習せんなぁ。顔面が痛いというのは辛いもんですが、顔をデザインした痛いセンスのジャケットも辛い、というこじつけで、今回はWARHORSE『RED SEA』を紹介したい。
個人的な見解だけど、メンバーの顔のイラストを使って気の利いたデザインのジャケットを、という試みは、成功例が少ないような気がする。その最たる例がDEEP PERPLEで、あの名盤として知られる『IN ROCK』にしても、大統領の顔を刻んだラシュモア山のパロディで、よく考えたら、かっこいいかどうか微妙じゃないですか? 続く『FIREBALL』では、メンバーの顔が火の玉となって宇宙を飛んでいくというもの。『BURN』では、煙の中にあるメンバーの顔のロウソクに火が灯っている。『COME TASTE THE BAND』ではブランデー・グラスの中にメンバーの顔を入れ込んだものに。と、なぜか顔ジャケにこだわっていたDEEP PURPLEだけど、その関連バンドでもあるWARHORSEまで顔ジャケにするとは?!
WARHORSE結成の中心となったのは、ベースのニック・シンパー。1960年代初頭からRENEGADESやDELTA FIVEといったバンドで活動していた彼は、1966年にJOHNNY KIDD & THE PIRATESに加入する。ところが同年10月に、ジョニー・キッドが交通事故で他界してしまう。ニック・シンパーも負傷するが一命をとりとめて、復帰後にはFLOWER POT MENのバック・バンドへ参加。同バンドでジョン・ロードと知り合っている。それが縁で、ジョン・ロードとリッチー・ブラックモアを中心に結成されたDEEP PURPLEへ参加することになる。
3枚のアルバムに参加後、DEEP PURPLEを脱退となったニック・シンパーは、女性シンガーのマーシャ・ハントのバック・バンドWHITE TRASHに加入する。そこで再会したのが、ゲド・ペックだった。二人は、かつて女性シンガーのビリー・デイヴィスのバック・バンドでも一緒だったことがある。
ニック・シンパーとゲド・ペックは、WHITE TRASHのドラマーのマック・プールを誘って新バンド結成に動き出す。シンガーにはアシュリー・ホルト、キーボード奏者にVELVET FOGGのフランク・ウィルソンが加入した。当初はIRONHORSEと名乗り、デモ・レコーディングを行なっている。ヴァーティゴ・レーベルと契約を獲得した彼らは、デビュー作のレコーディングを行なう。他にもIRONHORSEというバンドがいたとかで、WARHORSEとバンド名を変更した。
1970年、WARHORSEのデビュー・アルバム『WARHORSE』がリリースされる。セピアの色調のジャケットには、兵隊と馬が写っている。馬は深く頭を垂れ、その前に座る兵隊も疲れ切っているように見える。裏ジャケットには、鉄条網に囲まれた中に座る兵隊がいる。その向こうには、ライフルを持ってたたずむ兵隊も。物悲しげな雰囲気が漂う同ジャケットを手掛けたのは、数多くの名ジャケットで知られるキーフです。DEEP PURPLEほどの派手さはないが、オルガンが効いたドシッとした重みのあるハード・ロック作で、イアン・ギランにも負けないシャウトをきかせるアシュリー・ホルトのヴォーカルも素晴らしい。EASYBEATSのカヴァー「St.Louis」もハマっていて、本作からシングル・カットされたのも納得。
ところが『WARHORSE』発表後にゲド・ペックが脱退し、後任にBLACK AUGUSTのピート・パークスが加入する。この新たな五人組でレコーディングされたのが、2作目『RED SEA』だった。
これからという時にマック・プールが脱退してGONGに参加。彼の後任にはLEGENDのバーニー・ジェイムズが加入する。3作目に向けたデモ・レコーディングを行なうが、アシュリー・ホルトとバーニー・ジェイムズがリック・ウェイクマンのツアー・メンバーに起用され、そのままそちらで活動を継続することになる。ここで自ずとWARHORSEの活動は停止となってしまう。ちなみに彼らのデモ音源や未発表ライヴ音源は、エソテリックからの2CD『THE RECORDINGS 1970-1974』などに収録されている。
バーニー・ジェイムズは、1975年にWARHORSEのメンバーと『KONEG:THE SECOND COMING』という北欧神話を元にしたコンセプト・アルバムを制作するが、お蔵入りになってしまう(後に発掘CD化)。ニック・シンパーはピーター・パークスとともにNICK SIMPER’S DYNAMITEを結成するが、アルバムを残すことなく解散。二人はFLYING FOXやFANDANGOなどを結成して音楽活動を地道に続けていく。
さて、『RED SEA』です。デビュー作『WARHORSE』のジャケットは雰囲気抜群の名ジャケットだったが、『RED SEA』では、DEEP PURPLEの諸作よろしく、メンバーの顔イラストが船首像になっているというものに。船首像というのは、帆船などの船の先に取り付けられた彫像のこと。裏ジャケットでは馬の船首像が描かれている。この船首像の部分が表ジャケットではメンバーの顔イラストになっているということ。しかし、メンバーの表情は乏しいし、顔色も悪い。髭面のフランク・ウィルソンなんて、うなだれているようにも見える。波の表現も、もっと勇ましい感じに描けなかったのかなぁ。イラストを手掛けたのはリック・ブリーチ。BLACK WIDOWのほか、WARHORSEと同じヴァーティゴではGENTLE GIANT『THREE FRIENDS』、BEN『BEN』、CATAPILA『CATAPILA』などのジャケットを手掛けていく。それらを並べて見てみると、うーん確かに、味はあるけども、イラストとしてどうだろう?というものばかりで、この『RED SEA』も、残念ながらそのひとつになっている。
内容はというと、『WARHORSE』と並ぶブリティッシュ・ハード・ロック然とした良作。DEEP PURPLEもカヴァーした「Hush」を思わせる「Red Sea」に始まり、ファンキーなノリも感じさせる「Confident But Wrong」、哀愁のメロディが胸を打つ「Feeling Better」、URIAH HEEP風の「Sybilla」、MOODY BLUESの「Nights In White Satin」風のバラード「I(Who Have Nothing)」と、どれも聴きごたえのある曲に仕上がっている。ここでは「Feeling Better」を聴いていただきましょう。
『WARHORSE』に匹敵するジャケットだったら、もっと高い評価がされていたかもしれない。そう思ったのかどうか、1985年にThunder Boltから同作が再発された際にはジャケットが変更になりました。でも、このイラストもどうだろう? オリジナルとどっちがいいです?
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
Madonna Blue
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YARD BIRDSのKeith Relf、Jim McCartyを中心に結成され2枚のアルバムを残したRENAISSANCEが解散、RENAISSANCEはAnnie Haslamを擁した新体制で成功を収めていきますが、オリジナルRENAISSANCEは2ndアルバムのタイトルをバンド名に再結成。Keith Relfの死を乗り越えてのリリースとなる本77年デビュー作は、Jane RelfとJim McCartyのボーカルが切なく響く作品であり、ブリティッシュ・フォーク・ロックの名盤と言えるでしょう。時代がパンク・ロックへと足並みを揃える時期であり、商業的には成功とは言えなかったものの、英国然とした叙情を感じさせる作品です。
YARD BIRDSのKeith Relf、Jim McCartyを中心に結成されるも、2枚のアルバムを残し解散したイギリスのグループ。72年にソプラノ・ボーカルAnnie Haslamを擁し新体制で活動を再開、ロック・フォーク・クラシックが交差する幻想的な楽曲は今なお色褪せることはありません。本作は72年にリリースされたデビューアルバム。「革命のエチュード」からの引用によるオープニングからクラシカルな味わいと英国ロックの気品、アコースティックな感性を全面に、Annie Haslamの伸びやかなスキャットが映えます。楽曲のふくよかさ、トータルプロダクションの上手さは後の作品に譲るも、彼らにしか作りえない素朴な叙情の片鱗を既に窺うことが出来る好盤です。
YARD BIRDSのKeith Relf、Jim McCartyを中心に結成されるも、2枚のアルバムを残し解散したイギリスのグループ。72年にソプラノ・ボーカルAnnie Haslamを擁し新体制で活動を再開、ロック・フォーク・クラシックが交差する幻想的な楽曲は今なお色褪せることはありません。本作は73年にリリースされた2nd。クラシカルな中に多少のサイケデリック感覚を残したデビュー作から方向性が定まり、牧歌的なのどかさと英国叙情、オーケストラを従えたシンフォニック・ロックの世界を作り上げています。以降ライブでも取り上げられる機会の多い名曲となった「カーペット・オブ・ザ・サン」「燃ゆる灰」などを収録。
YARDBIRDSのKeith Relf、Jim McCartyを中心に結成されるも、2枚のアルバムを残し解散したイギリスのグループ。72年にソプラノ・ボーカルAnnie Haslamを擁し新体制で活動を再開、ロック・フォーク・クラシックが交差する幻想的な楽曲は今なお色褪せることはありません。本作は74年にリリースされた3rd。前作「燃ゆる灰」で作り上げた優美なシンフォニック・サウンドにさらに磨きをかけ、また、バンドのプロダクションに大いに貢献してきたMichael Dunfordがついに正式加入。「アルビノーニのアダージョ」を取り上げた「冷たい世界」や前作には無かったスケール感を持つ「母なるロシア」などを収録し、バンドは一気にその人気を不動のものとします。
YARD BIRDSのKeith Relf、Jim McCartyを中心に結成されるも、2枚のアルバムを残し解散したイギリスのグループ。72年にソプラノ・ボーカルAnnie Haslamを擁し新体制で活動を再開、ロック・フォーク・クラシックが交差する幻想的な楽曲は今なお色褪せることはありません。本作は75年にリリースされた4thであり、彼らの代表作の呼び声も多い名盤。特にリムスキー・コルサコフの同名交響曲に端を発した「シェエラザード夜話」は、「アラビアン・ナイト」の世界をコンセプトに据えた20分を超える超大作であり、オーケストラ・サウンドとロックの融合を目指した英国ロックの1つの結論と呼ぶべき傑作。米国での成功で勢いに乗った彼らの生み出したシンフォニック・ロックの世界は他の追随を許しません。
YARD BIRDSのKeith Relf、Jim McCartyを中心に結成されるも、2枚のアルバムを残し解散したイギリスのグループ。72年にソプラノ・ボーカルAnnie Haslamを擁し新体制で活動を再開、ロック・フォーク・クラシックが交差する幻想的な楽曲は今なお色褪せることはありません。本作は76年にリリースされたライブ作であり、アメリカのカーネギー・ホールにてオーケストラを率いて録音(75年6月)された名盤です。デビューアルバムから、アメリカへの足がかりとなった名盤「Scheherazade And Other Stories」までの代表作が余すことなく並んでおり、Annie HaslamのソプラノボーカルとNYフィルのオーケストラが絶妙に溶け合い、孤高のシンフォニック・ロックを作り上げています。
YARD BIRDSのKeith Relf、Jim McCartyを中心に結成されるも、2枚のアルバムを残し解散したイギリスのグループ。72年にソプラノ・ボーカルAnnie Haslamを擁し新体制で活動を再開、ロック・フォーク・クラシックが交差する幻想的な楽曲は今なお色褪せることはありません。本作は77年にリリースされた6thであり、彼らの代表作の呼び声も多い名盤。「Scheherazade And Other Stories」の評価とアメリカでのコンサートの成功によってWEAとワールドワイド・リリースを契約、まさに絶頂を迎えた彼らの自信に溢れた作品となっています。ロック・フォーク・クラシックという彼らの3大要素が惜しみなく発揮されており、女性ボーカル系シンフォニック・ロックの金字塔的な作品といえるでしょう。
19年リイシュー、77年10月ロイヤル・アルバート・ホールでのライヴを加えた3枚組ボックス、デジタル・リマスター、ボーナス・トラック2曲、ブックレット・ミニポスター付き仕様
79年作。クラシカルなテイストはそのままに、ポップ色が増し、クラシカル・ポップというべき洗練された心踊るサウンドが素晴らしい逸品。
PECLEC32820(ESOTERIC RECORDINGS)
2CD+ブルーレイディスクの3枚組ボックス、ボーナス・トラック10曲、ブルーレイには本編の5.1chサラウンド/ステレオ・ミックス音源 & 79年ライヴ映像を収録
盤質:未開封
状態:良好
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