2024年12月25日 | カテゴリー:Column the Reflection 後藤秀樹,ライターコラム
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第80回 ギタリスト、ピーター・バンクスは不遇だったのか? 幸運だったのか? (後編)
~ 70年後期以降の元イエス・マンとしての生き方を振り返る
フラッシュの3枚目『Out Of Our Hands(死霊の国)』のレコーディング後半に同時進行で進められたソロ・アルバム。
最初に手にして驚いたのは参加ミュージシャンの顔ぶれだった。裏ジャケットにヤン・アッカーマン(Jan Akkerman)、スティーヴ・ハケット(Steve Hackett)、フィル・コリンズ(Phil Collins)、ジョン・ウェットン(John Wetton)が並んでいる。中でもアッカーマンはバンクスとの共作曲を含め、9曲中6曲でコンポーザーとしてもクレジットされていた。ギタリストのソロ・アルバムに、別の大物ギタリストが大きく関わるというのは意外性をもっていた。
◎画像1 『Peter Banks / Two Sides Of Peter Banks (US ’73)』
バンクスとアッカーマンの関わりは、フラッシュのオランダ公演でフォーカスのサポートとして一緒のステージに立ったことがきっかけだという。まだフォーカスが自国のオランダ以外では知名度も実績もない頃だった。バンドも凄いが、何よりもバンクスはアッカーマンのプレイに驚愕し、ギター・プレイも直接学んだという。
その彼らが「悪魔の呪文(Hocus Pocus)」をひっさげて英国に来た時に、バンクスは自らのソロ・アルバムの録音のためにアッカーマンとスタジオでジャム・セッションを行った。その時の録音も本作のB面に使われているのだという。
フォーカスが日本で注目され始めた時期とも重なった時期の作品なのだが、日本ではLPとしては発売されなかった。バンクスがヤン絡みで話題になる「絶好のタイミングだった」のにと私は今でも思っている。因みに私は当時、友人のUさんから米盤を借りて聴いたのだが、後に知った英盤のジャケットと色合いの違いがジャケットのイメージをずいぶん変えてしまうものだ・・・との思いを強く持った。やはり、英盤の色合いが本作のイメージを上手く伝えてくれているような気がする。
フラッシュからもレイ・ベネットとマイク・ハウが参加している。これまで触れてきたようにレコーディングが『Out Of Our Hands』と重なったために、バンクスは昼間にフラッシュの録音、夜は本作の録音と忙しく奔走したことになる。完成した2つの作品を比べると、ジャケットの印象が全く違っていることと、ヴォーカルの存在の有無はあるものの、結果としてやはりバンクスらしさの出た好作品と言えるだろう。インストにこだわっているだけにヴォーカルのコリン・カーターは参加していない。
英国での発売はバンクスのソロが73年9月(Sovereign SVNA 7256)、フラッシュの3作目が10月(同SVNA 7260)と、バンクスのソロの方がわずか1ヶ月とはいえ先に出ていたことは後になって知ったことだ。
ソロ・アルバムの内容的には、バンクスらしいフレーズが次々と繰り出されているし、その後彼の代表曲のひとつとなる「Knights」のインパクトも強い。そして、アッカーマンとのジャムを活かしたことから何よりも多重録音が多く、かなり神経質に取り組んだ印象がある。
★音源資料A Peter Banks / Knights & The Battle
結局、フラッシュは米国でのセールスとチャートの記録は残したものの、バンクスはマネージメントとメンバーとの不和、そしてサード・アルバムとソロ・アルバムのレコーディングの重なったこと等、様々な要因から短期間の活動で終わった。
その後、いくつかのミュージシャンのアルバムにセッション参加している記録はあるものの、大きな仕事は伝わってこなかった。この辺りで飲酒量が増え、精神的な不調が多くなったと言われている。
わずかに、意外な作品だが76年にトランスアトランティック・レーベルの『Guitar Workshop』という企画アルバムの『Vol.2』に2曲参加しているというのがわずかな情報だった。「同レーベルのギター・アルバムだからフォーク系か」と思っていたのだが、そんなことはなく、彼らしいインスト作品が用意されていた。
◎画像2 『VA / Guitar Workshop Volume 2』(LP+CD) *CDはVo.1とVol.2を合わせたもの
アルバムの解説には、バンクスはフラッシュのレイ・ベネットと新たなバンドを組むことが書かれていて、他のメンバーが女性シンガーのシドニー・フォックス(Sydny Fox)=シドニー・ジョーダン、そしてアンドリュー・マカロック(Andrew McCullough)ということだった。
ドラムスがフィールズ、キング・クリムゾン、グリーンスレイドのマカロックということには驚かされたが、ここに収められた演奏は2曲共に他にベースにマーティン・ブライリー(Martin Briley)、キーボードにはコリン・タウンズ(Colin Townes)が参加していた。ちょっと驚きだった。
★音源資料B Peter Banks / Dancing Angel (1976)
そして、エンパイア(Empire)の結成ということになるのだが、そちらは思うように話が進まなかったようで実際になかなか大変な状況になっていたのだろう。
◎画像3 Empire ➀ / 『mark I』『mark II』『mark III』
70年代中期から80年にかけて存在したエンパイアの音源は当時発表されず、95年になってはじめてCD化されている。その間、詳細は何も分からなかった。
英Sounds Magazineの74年10月12日号には、『New Flash With Wonder Ingredient (Sydney) Clean Up With White Soul』という見出しで「バンクスがシドニーと新たなフラッシュに」と紹介されている。当時はフラッシュが女性ヴォーカルを加えて新たに活動をすることがセンセーショナルにとらえられていたのだろう。
ようやく95年にまず『Empire Mark I』が明らかになった。74年の9月26日から11月5日までCBSスタジオで録音されたものだ。ジャケットがメンバー写真だが、さすがにシドニー・フォックスが目立っている。この年バンクスとシドニーは結婚している。
音楽的には、フラッシュを思わせるイントロの1曲目が印象的だが、やはりの歌唱を活かしたキャッチーな曲作りが斬新で驚かされる。
★音源資料C Empire / Out Of Hands
全5曲収録された中で8分台が3曲、12分台が1曲と長めの曲が多く、イエス、フラッシュ時代のバンクスの姿勢が演奏にも曲作りにも踏襲されている。
ベーシストにジョン・ギブリン(John Giblin)に注目が集まったが、ヘルプ(?) としてフィル・コリンズがドラムとバック・ヴォーカル、サム・ゴパル(Sam Gopal)がタブラとして参加しているのも目を惹いた。彼らが参加しているラストの『Sky at Night』はまた味のある素晴らしい出来だ。
他のメンバーだが当時は新進のミュージシャンだった。キーボードにジャコブ・マグヌソン (Jakob Magnusson) 、ドラムスにプレストン・ロス(Preston Ross)のクレジット。マグヌソンはアイスランド出身で後年自身のアルバム『Jack Magnet』 (’81) が後になって日本でも人気になった。ロスの方も70年代後半にGonzalezのアルバムを皮切りに、ブライアン・フェリー、ケイト・ブッシュといった人気ミュージシャンのアルバムに参加している。ギブリンにしても当時は若手でBrand Xの『Product』(’79)に参加した時の印象が強いが、ダンカン・ブラウンのメトロ (’76) をはじめとしてこの後英国ロックシーンで活躍しているだけに、参加した各メンバーもその後の活動の出発点としてのEmpireは大きな存在だったと言える。
翌96年に『Empire Mark II』『Empire Mark III』が出るのだが、78年録音の『III』の方が先にリリースされ、そこに写ったシドニーの髪型が変貌していることに驚かされた。そして、肝心の音の方は70年代後半のソウル系ポップ・ロックのように思えた。それらは録音当時としては主流になっていて、そうした音楽もいいしシドニーの歌声も様々な曲に上手く対応できているように思える。ただ、バンクスのバンドにはそうした音楽を期待してはいなかっただけにちょっと意外だった。それでもバンクスらしいギター・スタイルは健在で随所に聞くことが出来る。
ややこしいのはアルバム毎にメンバーが替わっていて、『III』ではドラムスがマーク・マードック(Mark Murdock)、キーボードはポール・デルフ(Paul Delph)、ベースがEthosに在籍していたブラッド・スティフェンソン(Brad Stephenson)。
間もなく『II』が出た。こちらは77年の録音で、Empireとしても最初の作品から3年ぶりの録音ということになる。ジャケットはバンクスとシドニーの2人。彼女は当然のことながら元の髪型で写っている。2人は76年にロサンゼルスに移り住んでいた。バンド・メンバーはドラムスがジェフリー・ファイマン(Jeffrey Fayman)、ベースがチャド・ピーリー(Chad Peery)、キーボードはロバート・オレラナ(Robert Orellana)と大きく変わったが、前作のジャコブはゲストとして参加している。
1曲目は『I』と同じ「Out Of Hands」で始まる。(タイトルは「Still Out Of Hands」になっている。)
また、先ほど挙げた3曲目の『Sky At Night』も『I』の再演ということになる。聞き比べると、やはり『I』のフィル・コリンズの巧さが光っている。さらにラストの「Everything Change」は13分近い曲でメロトロン的な音色も出てきて哀愁を感じさせる雰囲気。バンクスのいつも以上に手数の多いギター・プレイもなかなか素晴らしい。
★音源資料D Empire / Everything Change
◎画像4 Empire ② / 『The Mars Tapes』 『The Complete Recordings』
さらに、「まだあったEmpire音源!!」と驚かされたのが、2014年に発表されたピーター・バンクス・エンパイア名義の『The Mars Album』という2枚組で、録音は79年6月。メンバーは『III』と同じで、カセットで録音されたもの。日本盤(Nuovo Immigrato)と英国盤(Gonzo Multimedia)は同じ2枚組だがジャケットが全く違っている。演奏はかなりラフなのだが結構楽しめた。
エンパイアに関しては2017年に3枚組として『EMPIRE featuring Peter Banks & Sydney Foxx / The Complete Recordings』にまとめられ、The Peter Banks Musical Estateから発売された。詳細なブックレットがありがたい。(1枚もののベスト盤も21年に出ている。)
バンクスの80年代はロサンゼルスでセッション・ミュージシャンとして比較的落ち着いた生活を過ごしていたようだ。レコーディング・セッションはわずかだった。ただ、85年にシドニーとは正式に離婚している。
◎画像 5 Peter Banks 90年代のソロ3作品『Instinct』(‘93)『Self-Contained』(’96)『Reduction』(‘97)
90年代に入って93年に『Instinct』(HTD)というソロ・アルバムが出された。私はWild Catというレーベルから94年に出た米盤で入手した。Empireに関してはこのアルバム発表後のリリースとなるわけで、私にとってこの『Instinct』がバンクスとの20年ぶりの邂逅となるわけだ。
音の方は、時代的にも予想されたギター・シンセも導入したフュージョン・ギターだった。バンクスが接してきた様々な自然や景色を自分なりのイマジネーションから心象風景風に綴った感があって興味深く聴いた。ロングトーンを活かした静かな曲から、昔ながらの弾きまくりもあり十分に楽しめるし、それがアルバム・タイトルでもある彼の「本能(Instincts)」であり改めて技巧派ギタリストであることも確認できる。このアルバムは、86年に亡くなったバンクスの母親に捧げられていた。
★音源資料E Peter Banks / Never The Same
95年には『Self-Contained』(One Way)が出された。これもEmpireの音源が明らかになる前のリリースなので、出た時には前作に続くソロとして素直に聞けた。前作と似たような路線で、弾きまくる彼のエキセントリックな部分もあるのだが、何故かメロディアスでセンチメンタルな静かな曲が印象に残る作品でもあった。どちらの作品でも時折ナレーションとは違う「声」があちこちで入るのは何なのか?
アルバム構成でいえば、後半13曲目以降は『It‘s All Greek to Me』という組曲形式になって8曲が続いている。前作でもそうだったが、ヨーロッパ各地を回っての異国情緒を感じられる作品が多い。
この2枚のアルバムでは同じロサンゼルスに住んでいるジェラルド・ゴフ(Gerald Goff)のコラボレーションが大きな力になっていた。
97年には90年代ソロ3部作の最終パートとも言える『Reduction』(HTD)がリリースされる。ただ本作は、前の2作以上に「打ち込み」が前面に出ていて幾分ファンキーな感覚もあり、それまでとはちょっと違う感じを受けた。完全に全ての録音を一人で行っていることが影響しているのかも知れない。ジャケットの内側に「sometimes there is consolation in isolation(孤独の中に慰めがある)」と寂しげな風景の中に記された言葉があまりに印象的ではある。確か96年頃の彼は父親の看病に当たった時期だった。
2018年には、3作品をまとめたボックス・セットがThe Peter Banks Musical Estateから出されている。
また90年代中期から、かつての大物バンドのトリビュート・アルバムが多数制作されたが、バンクスもイエス、EL&P、ピンク・フロイドからスティーヴ・ミラー・バンドまで多くのトリビュートに参加していた。そして、93年の『Affirmative-The Yes Solo Family Album』にはバンクスもイエス・ファミリーの一員としてソロ・アルバム『Instinct』から「Dominating Factor」が収録され、忘れずに仲間に入っていることを喜んだ覚えがある。
97年に驚きのリリースとなったイエスの過去のBBCライヴ音源『Something’s Coming / The BBC RECORDINGS 1969-1970』。ちょうど本家(?)イエスが17枚目となる『Open Your Eyes』をリリースした時期だった
◎画像6『Yes / Something’s Coming BBC Recordings』(’97)『affirmative: the Yes Solo family album』(’93)
本作はNMC(New Millenium Communications)という発掘ライヴを中心にリリースするレーベルからの発売だった。ちょうど多くの歴史ある大物グループの過去のライヴ音源が正式に発売され始めた頃だ。
このイエスの初期音源の発掘を進めたのがバンクスだった。きっかけはそれまでに出ていたブートの音質がよくないことから、BBCに直接交渉しようとしたことに始まっている。実際にはBBCに保管されていた音源状況があまりにも杜撰で、ろくな音質ではないことが分かり、最終的にはバンクス自身がラジオから録音したテープを元にしたようだ。商品化するにあたっての交渉はかなり面倒だったという。このあたりの事情は、当時のバンド状況を含めてCDの解説にバンクス自身が綴っていて興味深い。バンクスのイエスに対する「いい思い出」と「恨み節」がよく現れている。
★音源資料F Yes / Looking Around (8/4/1969)
オリジナルであるNMCのジャケットをよく見ると、当時のメンバーの写真の上に初期のイエスのロゴがあるのだが、それがバンクスの頭から浮かんでいるように配置されていたのが面白かった。しかし、何度も再発されているうちに何の配慮もなくなり、ただメンバー写真とロゴがあるだけになってしまっているのが残念。最初の配慮がどこかに飛んでいってしまったように感じるのは私だけだろうか。
◎画像7 『Can I Play You Something?The Pre-Yes Years, Recordings from 1964-1968』
99年には『Can I Play You Something?The Pre-Yes Years, Recordings from 1964-1968』(Blueprint)というバンクスのアンソロジーが出された。
イエス以前のMabel Greer’s Toyshop、Devil’s Disciples、The Syn、Affirmative Duoといった在籍バンド、Banks、Peter Banks Band名義のソロ作品を計22曲収録したもの。バンクス自身が自分で所有する音源から選曲したものということだ。ジャケットに子どもの頃のバンクスが写っているのがとても印象的。ブックレットにはバンクスの手書きの解説がびっしりと記されている。タイトルにある通り基本的にはイエス以前に在籍したバンドの曲が中心だが、3曲目のPeter Banks Bandの「Peter Gun」は80年の録音だし、そう考えるとBanks名義の5曲も後年の録音(?)のようにも思えてくる。
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(ここで、前回の記事の『§2 Yes以前のバンクス』を少し補足しておきたい。)
前回バンクスがイエス以前に在籍したバンドについて、音源がレコード化されたThe Syn以降を取り上げたのだが、バンド・キャリアとしては63年のNighthawksでリズム・ギターを担当したことに始まっている。64年にバンクスを含めたNighthawksのメンバー3人が、新たにDevil’s Disciplesに加わる。
65年にはSyndicatsにレイ・フェンウィック(Ray Fenwick)の後任として短期間参加。Syndicatsといえば、スティーヴ・ハウが最初に在籍したことで知られている。その後、The Synに参加するわけだ。
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6曲目と11曲目はDevil’s Disciples の64年にアセテート盤として録音したものでレコード化はされていない音源。11曲目の「For Your Love」の方はグラハム・グールドマン作曲の有名曲だが、バンクスが参加したナンバーだった。しかし、1年後にヤードバーズが同曲をシングルとして発表し全英3位の大ヒット曲となっている。バンクスも悔しい思いをしたことだろうが、ライナーにはそのこと以上にこの64年の録音がバンクスにとって「キャリアの中で最初のレコーディング・スタジオでの仕事」であり、全てが驚きだったことを思い出として綴っている。
21曲目の「I Saw You!(Bang/Crash)」は、イエスの「I See You」のギター・ソロ部分を大幅に拡大したもの。これを演奏しているAffirmative Duoとはバンクスとビル・ブラッフォードのことでイエス在籍時のデモ音源。さらに18曲目のMabel Greer’s Toyshopの「Get Yourself Together」では、クリス・スクワイアがリード・ヴォーカルを取ったレアなデモ音源ということになる。
こうしていくつか見ただけでも重要な英国ロックの記録だし、改めてバンクスの足跡を追うことが出来て非常に興味深いアンソロジーになっている。
◎画像8 『The Syn / Original Syn 1965-2004』(2005)
2003年、The Synの再結成プロジェクトに参加してミーティングを経て、はじめのうちはいくつかのレコーディングを行った。計画を立てたかつてのオリジナル・メンバーは既に亡くなっていたり、音楽シーンを離れていたりでその計画自体があまりにも杜撰だったことが分かった。「いいものにしたい」というバンクスの考えについて相談を試みても連絡さえよこさないといった事実に憤りを感じてかなり辛辣とも思える『声明文』(2004年3月5日)を出し、このプロジェクトからの離脱を伝えた。
彼が離れた後もプロジェクトは継続し、2005年に二つのバージョンが発売された。一つはYesServicesという後にも先にもこの作品しかリリースしていないレーベルから、そしてもうひとつはUmbello RecordsというThe Synのリード・ヴォーカルだったスティーヴ・ナーデリのレーベルから。どちらも2枚組で1枚目は共通の内容。過去の音源と新たなレコーディングが混在している。前者の2枚目は何故かクリス・スクワイアのインタヴュー。後者の2枚目が長尺の3曲入りで、うち1曲は3パート構成の「時間と言葉」であることに驚かされた。バンクスが参加した時点では未完成と彼が言っていたものなのだが、やはり気になるのでここで聞いてみよう。
★音源資料G Original Syn / Time And Word Part1~A Tide In The Affairs Of Man~Time And Word Part2
2パートの間に挟まった部分は、タイトルも含めてバンクスの心情が現れているような気がする。
結局、このようにプロジェクトとしては作品として完成させていて、その後(前回述べたように)The Synはスクワイアを加えて正式に再結成し、その後アラン・ホワイトまで加わるという恐るべき陣容でしばらく活動を続けた。
バンクスはThe synから解雇されたことになったが、正式にそのことを伝えられた覚えはないという。そして、それまでの貢献から得られる報酬は何もなかった。Yesの時と同じだった。
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2004年の半ばに、バンクスは新たに即興トリオ『ハーモニー・イン・ダイヴァーシティ』を若いアンドリュー・ブッカー(Andrew Booker)、ニック・コッタム(Nick Cottam)と組んだ。2006年に『Trying』を出している。
バンクスは、2011年に敗血症で入院し、腫瘍も見つかった。
◎画像9『Peter Banks’s Harmony In Diversity / The Complete Recordings』+『The Best Of』
2018年にハーモニー・イン・ダイヴァーシティの何と6枚組のボリュームのCDが出ている。2005年から2006年までが5枚、残りの1枚が2006年から2007年に録音されたものだ。バンクスのかつての経歴を知らず、それまでの彼の音楽さえ聴いたことがなかった若い仲間を伴って最後の大きな仕事を残せたことが彼にとって「幸福」だったと信じている。
2001年にバンクスは『Beyond And Before~the formative years of YES』という自伝本を出版している。ミュージシャン本人がこのような本を出すことは珍しいのだが、彼が記録魔であることは何となく分かっていた。それこそ、自分が参加したギグの記録を詳細につけていて、様々な場面での録音記録も残していた。YesのBBCライヴ、『Can I Play You Something?The Pre-Yes Years, Recordings from 1964-1968』が世に出たのもその成果ととらえることが出来る。1999年に新たに結婚し、精神的にも少し落ち着いた時期にまとめたと思われる自伝本は圧巻の内容だ。(でも、その結婚生活も長くは続かなかった。)
◎画像10『Beyond And Before~the formative years of YES』 + Ray Bennett『Angels & Ghosts』
本の中身は当然のこと英語。私も注文してから入荷するまでずいぶん時間がかかり、入手できたのはほんの数日前なので、内容の精査はこれからだ。日本でもこの自伝本が出版されることを切に願いたい。(しかし、冗談なのか本当なのか、バンクスは「本を出してくれた奴も金を持って逃げていった。」なんて語っているのだが・・・)
同じ2001年にフラッシュのベーシストだったレイ・ベネットのソロ・アルバム『Angel’s & Ghosts』が出された。興味深くはあるもののこのリリース自体がどうなのだろうと疑問の残る内容だった。
1曲目にはフラッシュのシングル音源「Watch Your Step」と、そのB面として用意したが不採用になった音源「Never Stand Behind An Old Piano」が収録されている。そりゃあそうだ!という内容。
また、74年にフラッシュが空中分解した時期に残ったバンクス以外の3人に新たにギターにゴードン・スミス(Gordon Smith)、キーボードにクリス・ピジョン(Chris Pidgeon)を加えた「Hold On」。
さらには、75年に新Flashと伝えられた時期の音源「Who」(シドニー、バンクス、ベネット、アンドリュー・マクロック)、さらに翌76年バンクス抜きの同メンバーで「Everything Changes」も収録され、当時の状況の複雑さを知らせるような内容になっていた。
§6 で紹介した『Guitar Workshop』のアルバム解説にあったようにフラッシュ解体時の複雑な状況がここで具体的に紹介されたことは大きな意味がある。しかし、ベネットにはどこか不信感がつきまとっていた。というのは、このベネットのアルバムのブックレットにはフラッシュのステージ写真に混じってシドニーの写真も添えられていて、ベネットとの当時からの困った関係性が一層浮かび上がってくる。(ウィキペディアには、バンクスが2人の浮気現場を見つけたことにも触れている。正式離婚は85年とされているのだが)
フラッシュ関連のライヴ音源は97年に『Psychosync』(Voiceprint)があるが、2013年に『In Public』、2022年には『In The USA~Live Recordings 1972-73』という3枚組CDが出されている。
さらにベネットとカーターが2013年5月に フラッシュ名義で再編アルバム『Flash-Featuring RAY BENNETT & COLIN CARTER』(Purple Pyramid)を出していた。バンクスの亡くなった追悼盤か・・・と思ったのだが、それ以前のものだったようで彼の死については何も触れられていない。
◎画像11『The Anthology』(’18)『The Self Contained Trilogy』(’18) +『David Cross & Peter Banks / CROSSOVER』
2018年には『Peter Banks / Be Well, Be Safe, Be Lucky… The Anthology』というバンクスの2枚組の編集盤が、The Peter Banks Musical Estateから発表されている。
さらに2020年には同レーベルとの共同作業でデヴィッド・クロス(David Cross)が『David Cross & Peter Banks / CROSSOVER』を出している。こちらの方はクロスが2006年にバンクスの最後のバンドであるハーモニー・イン・ダイヴァーシティのツアーに短期間ながら参加したことが縁で、2010年8月10日にバンクスがクロスを訪ね、即興でセッションを行った際の録音を元に作成したということだ。
バンクスが亡くなったことを知り、クロスはしばらく心情的にその時の録音を聞くことが出来なかったという。しかし、イエスにいたバンクスとキング・クリムゾンにいた自分とのスケッチブックのつもりでアルバム制作を決めたということだ。ひょっとしたらここに収められたものがバンクス生前最後の演奏かも知れない。
★音源資料H David Cross & Peter Banks / Crossover album sampler
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最初に抱いた問題、彼は「不遇」だったのか、それとも「幸運」だったのか・・・という「問い」だ。たくさんの彼のインタヴューを読むと、彼は人間的には人懐こい笑顔を見せながらサービス精神も旺盛に語るいい奴だったと思う。その一方で、彼はギターの申し子のような存在でもあり、ギターを手に取ると自分の思うプレイのためには周囲との妥協を許さない側面があったことは事実だ。それゆえに周囲から誤解を生む部分も多々あった。たくさんの「裏切り」を感じることもあった。でも、その時々で理解してくれる仲間が生まれていたのも間違いない。
彼自身が生きたのは「音楽」の中であり、「ビジネスという業界」は味方になることもあったが最終的に「敵」だった。そうした思いが「夢」と「現実」の狭間で自らの精神を病んでいったことにつながったのだろう。
しかし、何よりも彼の音楽を愛する多くの人間がいたことは、彼自身も信じていたことであるだろうと私は考えている。
彼が所属したグループからの「解雇」、報酬を受け取ることが出来なかったのは確かに「不遇」だったと思う。そして、その「不遇」はその死の瞬間まで続いた。しかし、彼の歴史を追うと、じつはその時々に仲間がいて共に自分の「音楽」を表現してきたことは事実であり、それらが現在も残っているということは「幸運」であったととらえていいだろうと思う。
むしろ、そうして残された作品群を享受できる残された私達が「幸福」なのだろう・・・と考えている。
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イエス、フラッシュと渡り歩いてきたギタリスト、ピーター・バンクスによるファースト・ソロ。ヤン・アッカーマンを迎え、スティーブ・ハケット、フィル・コリンズ、ジョン・ウェットン等、豪華メンツを揃え、インプロをふんだんに盛り込んだテクニカル・フュージョン作品。
4枚組ボックス、ブックレット・帯・解説・紙製収納ボックス付仕様、定価9709+税
盤質:傷あり
状態:良好
帯無
解説無、帯無、ボックスとブックレット無し、CDの圧痕・ソフトケースの圧痕あり
デジタル・リマスター、ボーナス・トラック4曲
盤質:傷あり
状態:良好
ビニールソフトケースの圧痕あり
その構築的に練り上げられた楽曲と凄まじい演奏技術により、今なお多くのフォロワーを生み出しているイギリスのグループの71年作4th。その内容は次作「危機」と並ぶ、プログレッシブ・ロック史に留まらず70年代ロック史に残る屈指の大名盤であり、STRAWBSからキーボーディストRick Wakemanが加入、文字通り黄金期を迎えた彼らがトップバンドへと一気に飛躍する様が鮮明に残されています。まだ「危機」のような大作主義こそないものの、「ラウンドアバウト」「燃える朝焼け」など彼らの代表曲を収録。また今作から、その驚異的なエンジニアリング技術で彼らの複雑な楽曲製作に貢献することとなるEddie Offord、そしてその後のYESのトレードマークとなる幻想的なジャケット/ロゴを手がけるRoger Deanが参加、名盤の評価をより一層高めることとなります。
デジパック仕様、スリップケース付き仕様、輸入盤国内帯・解説付仕様、デジタル・リマスター、ボーナス・トラック2曲、定価2400+税
盤質:傷あり
状態:並
帯無
帯無
その構築的に練り上げられた楽曲と凄まじい演奏技術により、今なお多くのフォロワーを生み出しているイギリスのグループの72年作5th。その内容は前作「こわれもの」と並ぶ、プログレッシブ・ロック史に留まらず70年代ロック史に残る屈指の大名盤であり、20分近い表題曲をメインに据えたコンセプト・アルバムとなっています。Keith Emersonと人気を分かつRick Wakemanによる華麗なキーボード・オーケストレーション、カントリーからフラメンコまでを自在に操る個性派ギタリストSteve Howeの超絶プレイ、難解な哲学詞を伝えるハイトーン・ボーカリストJon Anderson、テクニカルでタイトなBill Brufordのドラム、そしてリッケンバッカーによる硬質なベースさばきを見せるChris Squire、今にも崩れそうな危ういバランスを保ちながら孤高の領域に踏み入れた、まさに「危機」の名に相応しい作品です。
紙ジャケット仕様、HDCD、デジタル・リマスター、インサート封入、定価2000+税
盤質:無傷/小傷
状態:良好
帯有
帯中央部分に若干色褪せあり
デジパック・スリップケース付き仕様、デジタル・リマスター、ボーナス・トラック4曲
盤質:無傷/小傷
状態:良好
軽微な圧痕あり
その構築的に練り上げられた楽曲と凄まじい演奏技術により、今なお多くのフォロワーを生み出しているイギリスのグループの73年作。「こわれもの」「危機」で大きな成功を収めた彼らですが、本作は彼らが更なる高みを目指した1枚であり、Jon Andersonの宗教的なコンセプトをテーマに神秘的な雰囲気と独特の瞑想感、スペーシーな雰囲気で進行する良作です。全4曲から構成され、うち3曲は20分を超えると言う大作主義の極みのような作風は圧巻であり、Bill Brufordに代わりドラムにはAlan Whiteが初めて参加しているほか、Rick Wakemanは本作を最後に脱退。非常に複雑な構成から賛否両論のある1枚ですが、やはりその完成度に脱帽してしまう傑作です。
2枚組、英文ブックレット付仕様、定価不明
盤質:傷あり
状態:良好
帯有
盤に指紋跡あり、帯はケースに貼ってある仕様です、帯に折れあり
その構築的に練り上げられた楽曲と凄まじい演奏技術により、今なお多くのフォロワーを生み出しているイギリスのグループの73年ライブ作。名盤「Close To The Edge」を生み出した彼らの自信が感じられる名ライブ作であり、その内容はある種、スタジオ盤以上にファンを虜にしているほどです。もはやおなじみとなったストラビンスキーの「火の鳥」でその幕を開け、「シべリアン・カートゥル」や「燃える朝焼け」「同志」「危機」と、「ラウンド・アバウト」と彼らの代表曲をたっぷりと収録。スタジオ作のクオリティーを完璧に再現するだけでなく、スタジオ作には無いドライブ感の詰まった超絶技巧、名演の数々は全ロックファン必聴です。
その構築的に練り上げられた楽曲と凄まじい演奏技術により、今なお多くのフォロワーを生み出しているイギリスのグループの74年作7th。「こわれもの」「危機」で大きな成功を収めた彼らですが、前作「海洋地形学の物語」でキーボードのRick Wakemanが脱退、後任にはRefugeeの技巧派Patrick Morazが加入しています。その内容はPatrick Morazの参加によってラテン・ジャズ、そして即興色が加味され、超絶なインタープレイの応酬で畳み掛けるハイテンションな名盤であり、「サウンド・チェイサー」ではインドネシアのケチャも取り入れるなど、深化した彼らの音楽性が伺えます。もちろん彼ららしい構築的なアンサンブルも健在であり、大曲「錯乱の扉」の一糸乱れぬ変拍子の嵐など、バンドのポテンシャルの高さが伺えます。大きな成功を経て円熟期に入った彼らを象徴する1枚です。
紙ジャケット仕様、SHM-CD、09年デジタル・リマスター、ボーナス・トラック3曲、内袋付仕様、ブックレット付仕様、定価2457+税
盤質:無傷/小傷
状態:良好
帯有
情報記載シール付き
98年初回盤紙ジャケット仕様、HDCD、デジタル・リマスター、内袋・リーフレット付仕様、定価2000+税
盤質:傷あり
状態:良好
帯有
内袋はついていません
盤質:傷あり
状態:並
軽微なカビあり
その構築的に練り上げられた楽曲と凄まじい演奏技術により、今なお多くのフォロワーを生み出しているイギリスのグループの77年作。前作「Relayer」でRick Wakemanに代わりテクニカルなプレイを見せたPatrick Morazが脱退しRick Wakemanが再加入した作品となっています。それに伴い、Patrick Morazの即興色やジャズ色が影響した前作に比べてRick Wakeman色がバンドに再び彩りを与え、シンフォニック然としたアプローチが復活。YESらしい個性が再び芽吹いた1枚と言えるでしょう。加えて、非常にポップな印象を与える作風へとサウンドが変化しており、Doger Deanの幻想的なアートワークからHipgnosisの現実的なアートワークへの移行が興味深い作品となっています。
パンク、ニュー・ウェイブ全盛期の中リリースされた78年9作目。大作主義は鳴りを潜め、10分以下の小曲で構成されているほか、音も時代を反映してそれまでよりもかなり煌びやかでポップなものになっています。とはいえ開放感のある瑞々しいメロディや、各楽器が緻密にメロディを奏でていくアンサンブルの構築性は流石のYESと言ったところ。多様な音色を駆使し、生き生きとフレーズを弾きまくるウェイクマンのキーボード。自由奔放かつ繊細さ溢れるハウのギター。地に足のついたスクワイアのベース、タイトかつ柔軟さのあるホワイトのドラム。そこへアンダーソンのヴォーカルが次から次へとメロディを紡ぎ出す、有無を言わせぬ怒涛のプログレッシヴ・ポップ・サウンドは彼らでなければ生み出し得ないものでしょう。「Release Release」など本作を象徴する1stや2ndに入っていそうなスピーディーでストレートなロック・ナンバーも魅力ですが、白眉は「On The Silent Wings of Freedom」。前作『Going For The One』で聴かせた天上を駆けるような夢想的なサウンドと、「ロック」の引き締まったビートが理想的に共存した名曲に仕上がっています。スタイルは変われどもYESらしさは満点と言っていい好盤。
定価2500+税、36Pブックレット付仕様
盤質:傷あり
状態:良好
帯有
帯特典部分切り取り有り、帯に若干圧痕あり、クリアケース無し
PBME001CD(PETER BANKS MUSICAL ESTATE AND SIDONIE JORDAN)
3枚組、17年リマスター、全31曲
盤質:傷あり
状態:良好
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