2024年12月13日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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『岸辺のアルバム』というテレビ・ドラマをご存知でしょうか。いや、僕もリアルタイムでは知らないけれど。ストーリーを簡単に説明すると、それぞれに秘密を抱えている家族がいて、その家族の住んでいる家が洪水で流されてしまう。そんな切迫した状況で、家から持ち出したのは、家族の写真を収めたアルバムだった、という話。
どうして『岸辺のアルバム』を思い出したかというと、先日、ある老夫婦の自宅にお邪魔することがあった。二階には八畳ぐらいの広さの部屋が田形に四つあって、ぐるりと回れるようになっている。もともと子供たちの部屋だったそうだけど、独立して四部屋とも空きになってしまった。老夫婦は、その壁一面に家族の思い出の写真を飾っていた。「私らぐらいになると、人生、先見てもあんまり楽しみがありませんねん。昔を懐かしむ方が楽しい」のだとか。ところが、その老夫婦の子どもたちは、思い出写真には全く興味がないという。
その逆パターンがウチで、先日実家を訪れると、母が「断捨離してて、昔のアルバム捨てよう思うねん」と。前々からドライな親だとは思っていたけれど、僕の小学校の入学式とか、家族旅行とか、プライスレスな写真がいっぱい詰まっていたアルバムも「いらん」らしい。そういえば『岸辺のアルバム』の家族写真は、それぞれに秘密を抱えた偽りの家族の幸せを象徴するという複雑なものでもあった。単純に、家族写真=温かい思い出の詰まったもの、ではなかったのだ。ウチもそうやったんかも?!
かくいう僕は、いちおう家族の写真は大切にしている。半年とか一年に一回、写真を現像に出してアルバムに整理している。たまにそれを見ると感傷的な気分になる。先の老夫婦の心境に片足を突っ込んでいるのかも。というか、50歳を迎えて、メンタルが感傷的な方に転がり落ちているのを実感する。小田和正さんの歌をバックに、家族や友達同士の写真が流れる生命保険会社のCMとか、涙なくして見れない。町で赤ちゃんを抱っこしているお母さんとか、ヨチヨチ歩きの孫と手をつないでいるおじいちゃんとか見ただけで胸にこみあげてくるものがある。年取ると涙もろくなるとは言うけれど、ここまでなるかね?という感じ。
それで今回紹介したいのが、イタリアの叙情派ロック・バンドの至宝I POOHの『ALESSANDRA』です。ジャケットに写る女の子と男の子。このジャケットを眺めているだけで、ついホロリときてしまう人は僕と同類です。
I POOHはイタリアで国民的人気を誇ったロック・バンド。イタリアン・ロックを代表するバンドという風に紹介されることが多い。若き日の僕は、イタリアン・ロック=プログレだと誤解していて、I POOHもゴリゴリのプログレ・バンドだと思っていた。ある日、日本で再発CD化されたI POOHのアルバムを買ってビックリ! シンフォニックなポップ・バンドやないか! しかも、何だこのスイートすぎるメロディは?!と思ったわけです。ポツポツとアルバムを集めていくと、I POOHはこの甘口メロディ路線を、音楽性が変わろうと時代が変わろうと、そこだけは曲げずに活動を続けてきたことがわかって、その芯の太さに感服します。
彼らの歴史の始まりは1966年。「クマのプーさん」から名前をとったI POOHと名乗った。メンバー・チェンジを経て、マウロ・ベルトーリ(g)、マリオ・ゴレッティ(g)、ロビー・ファキネッティ(kbd)、リッカルド・フォッリ(b)、ヴァレリオ・ネグリーニ(ds)というメンバーに落ち着いた彼らは、1966年にデビュー・アルバム『PER QUELLI COME NOI』を発表。カヴァー曲他、BEATLESを手本としたビート・ロックからサイケ・ロック、ソフト・ロックまでの広い音楽性をみせていた。
マウロ・ベルトーリが脱退して四人組となったI POOHは、1968年に『CONTRASTO』を発表。同作収録曲「In Silenzio / Piccola Katy」がシングル・カットされてヒットを記録。ストリングスとピアノが「これでもか!」とアレンジされた曲だった。オリジナル曲も収録していて、明るいポップなものだけでなく、郷愁を誘ったり、哀愁があったり、もう後のI POOHらしさを感じさせる作品となっている。マリオ・ゴレッティがドディ・バッタリアに交代。1969年に発表した『MEMORIE』は、ストーリー・アルバムになっていた。といっても小難しさは微塵もなく、ポップな曲もある良作だ。
大手CBSと契約したI POOHは、ジャンカルロ・ルカリエッロのプロデュースのもと、よりシンフォニックさを強めた方向性へシフト。ロビー・ファキネッティの作曲能力が花開くことに。1971年に『OPERA PRIMA』を発表すると、これがイタリア本国でヒットを記録。国民的な人気を獲得することになる。ジャンカルロ・ルカリエッロの影響は相当大きかったのか、『OPERA PRIMA』の内ジャケットには、彼の顔写真がメンバーとともに掲載されている。
ヴァレリオ・ネグリーニが脱退。以降はI POOHに作詞面で協力するようになる。彼の後任にはステファーノ・ドラツィオが加入。1972年に発表されたのが『ALESSANDRA』だった。これまたイタリアで大ヒットする。ところがアイドル的な人気も獲得していたリッカルド・フォッリが脱退するというアクシデントが発生。この危機もレッド・カンツィアン加入でリカバリーし、前作以上に深いテーマ性を持った『PARSIFAL』を1973年に発表した。
シンフォニックな路線を継承する『UN PO’DEL NOSTRO TEMPO MIGLIONE』(1975年)、『FORSE ANCORA POESIA』(1975年)と発表するが、セールス的には右肩下がりという結果に。そこで1976年に発表された『POOHLOVER』では、より快活な曲が増えていた。オーケストラ・アレンジの荘厳さよりも、わかりやすさを増した方向性で『ROTOLANDO RESPIRANDO』(1977年)、『BOOMERANG』(1978年)、『VIVA』(1979年)と発表。セールス的にも回復し、イタリアを代表するバンドの地位を確かにした。
ついに世界進出を視野に入れたI POOHは、過去曲の英語ヴァージョンを収録した『HURRICANE』を1980年に発表。日本盤には特別にディスコ・ナンバーの「Love Attack」が収録されていた。以降も大量のアルバムを出しているが、エレクトロ化したり音楽性も少しずつ変化させていく。歌詞においても、愛だけでなく政治的なテーマを扱ったり、時代の流れに沿いながらも、I POOHらしさは失わない活動を続けていく。国民的バンドであり続けたI POOHは、2016年12月31日、50年の活動を節目にバンドとしての活動を停止した。
さて、『ALESSANDRA』だ。前作『OPERA PRIMA』の手法、オーケストラ・アレンジと甘く切ないメロディの融合という方向性を高めに高めた初期の代表作である。アルバム・タイトルのアレッサンドラとは、ロビー・ファキネッティの娘の名前。そのこともあって、家族への愛を感じさせるジャケットにしたのだろう。女性ファン受けを狙ったという説もある。女の子と男の子が肩を組んでいるモノクロ写真。お姉ちゃんと弟と勝手に解釈してるんだけど。お姉ちゃんは弟の肩を抱いて、片一方の手は腰に当ててポーズをとってすまし顔。「どうかしら?」という表情。弟は手に花束とベルト(?)を持ち、にっこりとほほ笑んでいる。二人とも裸足っていうのが、またかわいい。ああ、あかん、泣けてくる。
冒頭の「La Nostra Eta Difficile」から、オーケストラと甘口メロディの大洪水。これがI POOHを好きになるかどうかのテスターになると思う。「ちょっと甘すぎないか?クサすぎないか?」と思う人にI POOHは辛いかも。アルバム全編にわたって、これですから。歌詞の内容も男女の恋です。良い話も悪い話もあるけれど、とにかく恋です、愛です。なので、硬派な音楽ファンには、ちょっと照れくさいものがあるかも。そのアルバムを締めくくるのが「Alessandra」だ。どうやら当時のプロモーション・ビデオと思しきものがありますので見ていただきましょう。ジャケットの女の子と男の子が出演していたら泣いていたと思うけど、大人の女性とメンバーが写っています。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
Alessandra
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プログレッシブ・ロック・フィールドの枠を飛び越えてイタリアを代表するポップ・ロックバンドであり、イタリア然とした甘美なバラードやオーケストラとの華麗なる融合など、プログレッシブ・ロック的なアプローチも聴かせるグループによる72年作。CBS移籍2作目である本作は、前作同様Giancarlo Lucarielloプロデュースで製作された名盤であり、オーケストラを全編に配し、イタリア叙情をふんだんに感じさせる切ないボーカルが素晴らしい作品となっています。ボーカリストRiccardo Fogliは本作を最後にグループを離れます。ヒット曲「愛のルネッサンス」などを収録。
プログレッシブ・ロック・フィールドの枠を飛び越えてイタリアを代表するポップ・ロックバンドであり、イタリア然とした甘美なバラードやオーケストラとの華麗なる融合など、プログレッシブ・ロック的なアプローチも聴かせるグループによる73年作。ワーグナーの同名歌劇を元にしたコンセプト・アルバムの形を取った本作は、脱退したRiccardo Fogliに代わりRed Canzianが参加し不動のラインナップが完成。オーケストラの登用や楽曲の良さは当然のことですが、そのコンセプト性や大仰な作風はプログレッシブ・ロック的に最も完成されたものであり、10分を超える表題曲は特に圧巻です。
プログレッシブ・ロック・フィールドの枠を飛び越えてイタリアを代表するポップ・ロックバンドであり、イタリア然とした甘美なバラードやオーケストラとの華麗なる融合など、プログレッシブ・ロック的なアプローチも聴かせるグループによる75年作。前作ではシンフォニック・ロックの極地のような壮大なサウンドを聴かせた彼らですが、本作ではそのサウンドを引き継ぎながらもエレガントで落ち着いた雰囲気へシフト。元来彼らの個性であった甘美なメロディー、哀愁、イタリアの叙情、優雅なクラシカルさなどが最高のバランスで混ざり合い、シンフォニック期の彼らの集大成を見せつけています。
イ・プーの集大成ライブ盤がいよいよ完全版で登場。81年秋のスタジアム級ツアーから、代表曲を網羅。一糸乱れぬ演奏技術に加え、全員がボーカルをとるという重厚な音の壁が胸を熱くする。プログレ期の名曲「パルシファル」の完璧な再現をはじめ、初期名曲群が一望出来るヒット・メドレーなど、イ・プーの魅力の全てを余すことなく詰め込んだ、イタリアン・ロック史上に残る大傑作。
84年作。前作同様、イタリアから飛び出してハワイで録音された意欲作。広大な大海原のごとくシンフォニックに展開する愛と望郷の旅。アルバム・チャートで2位、年間チャートでも9位を記録した大ヒット作。
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