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「音楽歳時記」 第九十八回 3月24日マネキンの日 文・深民淳


めっきり春めいてまいりました。この原稿がアップされた直後にはWBCの準々決勝対イタリア戦が行われます。そして来週はアメリカに舞台を移して準決勝・決勝戦が行われます。全国的に盛り上がっておりますね。来週も日本国中をワクワク・ハラハラ・ドキドキさせてくれますよう祈ります。

さて、今回原稿を書き始めるにあたり、まぁ、毎回のことですが、どんな記念日を選ぶかから始まるわけですが、あ、これ良いかもというのが見つかるとそこから話をどう転がして行こうか考えるわけです。というわけで、今月もこれかなぁ、っていうのをピックアップして、その転がし傾向もなんとなく考えたわけですが、ここで激しいデジャヴ感。なんかこれ前に書いたような気がしてきちまうわけです。

100回も目前の98発目になると60回より前の原稿で何を書いたかなんて全く覚えていません。一応、第一回からのタイトルを確認して多分やってないと思う、という確認はするのですが、複数の記念日を取り上げている回も多々あり、記憶が極めて曖昧です。

というわけで、今回は音楽ソフトで言うところのリマスター、リミックス原稿になる可能性も多々あります、と言うのを最初にお断りしておきます。


3月24日は「マネキンの日」だそうです。1928年(昭和3年)に高島屋呉服店(現在のTAKASHIMAYA)が上野公園で開かれた大礼記念国産振興東京博覧会で日本初のマネキンを登場させたのが始まりだそうです。マネキンは人形ではなく人、つまり「マヌカン」だったそうです。マヌカンねぇ・・・あったねぇ、80年代に「夜霧のハウスマヌカン」ヒットしたねぇ。タイトルは覚えているけど曲は全然覚えてないですね。

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「招金(まねきん)」に通じることから、フランス語のマヌカンではなく英語のマネキンを使ったといいます。

最近はMANISKINが流行っておりますですね。話が飛びますがね。あれがイタロなんだから結構驚きます。筆者のイタロ感は70年代で止まっているからねぇ・・・。


と言うわけで「マネキンの日」。アートワークには結構使われています。自分が担当したものでも故パット・トーピーの『Odd Man Out』(1998年)、これがマネキンなのかは微妙ですがIKE&TINA TURNERの『The Hunter』(1969年)なんていうのもあります。


さて、マネキン・ジャケットというとやはりNAZARETHが1980年に発表した『Malice In Wonderland』がインパクト大です。NAZARETHは何回も取り上げています。まずはサウンドの方から。作品としては全NAZARETH作品の中でも人気の高いファンタジー・アート・ジャケット時代、フラゼッタの作品をアートワークに使った『Expect No Mercy』、ロドニー・マシューズ(PRAYING MANTIS、TYGERS OF PAN TANG、DIAMOND HEAD、MAGNUM、ELOYなど数多くのアートワークを手がけています)作品を使った『No Mean City』に続く作品で、元SENSATIONAL ALEX HARVEY BANDのギタリスト、ザル・クレミンソンが在籍、マニー・チャールトンとツイン・リード編成でした。

プロデューサーはDOOBIE BROTHERSのジェフ・バクスター。1975年に発表された『Hair Of The Dog』収録のバラード「Love Hurts」がヒットし、活動の中心を北米大陸に移し、試行錯誤を繰り返しながらFMロック、AORハード系サウンドへシフトしていったNAZARETHが80年代、90年代に進んでいくを示した作品でありFMロック、AORハード系サウンドのNAZARETH流ドクトリンを確立した重要作です。



当時のロック・シーンを見渡しても比べられる才能がほとんど見当たらない得難い声質を誇ったダン・マッカファーティをより強く前面に打ち出し、ギター・リフのエッヂは残しながらも裏にアコースティック・ギターのストロークを当てるなどの仕掛けが施されており、アメリカ人好みのハイウェイ巡行ロックを確立。ジェフ・バクスターのプロデュースもかなり的を得ており、前2作と比べると実はかなり大胆なAORサウンド化が進んでいるのですが、そこが巧みにボカされていて、従来のNAZARETHファンも何の抵抗もなくスンナリ変化を受け入れられる作りになっている点は凄いよねぇ。


Holiday

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そしてこの『Malice In Wonderland』のアートワークを担当したのがフランス人フォトグラファーのベルナルド・ファルコン。一種のシチュエーション写真なのですが人ではなく着衣のマネキンにポーズを取らせ配置した写真が使われています。写真家として風景写真をはじめ様々なスタイルの作品を残していますがこのマネキンを使って家族の生活風景を描いた写真は当時、高い評価を得ていました。ファルコンは写真だけに留まらず後には作家して執筆活動も行なっています。また、1985年発表のTAXEDOMOON『Holy Wars』も彼の写真が使われており、これもよく見ると地面に死体のように何体かのマネキン、もしくは人形が横たわっています。


このベルナルド・ファルコンの写真を使ったアートワークにはもうひとつ有名なものがありますがその前に『Malice In Wonderland』のジャケット周りの話題をもうひとつ。写真はベルナルド・ファルコンが撮影したものなのですがレイアウト・パッケージデザインはエイミー・ナガサワという人物が手がけており、このデザイナーさん、当時A&Mのハウス・デザイナーだったようなんですね。というのも1981年以降はLibertyレーベル、つまりキャピトル系(当時だとEMIアメリカになるのかな?)のアーティストの作品のデザインばかりになるので、業界内で転職したレーベル勤務のデザイナーさんだったのではないかと思うのです。A&M時代に手がけたデザイン一覧を見るとA&Mには珍しかったハード・ロック系バンドHEADEASTの『A Different Kind Of Crazy』(1979年:ツタンカーメンがフロントに出ている奇妙なアートワークのやつ)なども手がけているんですが、基本的にはジョーン・アーマトレーディング、ラニ・ホール、ガトー・バルビエリ、レス・マッキャンといったいかにもA&MらしいAOR路線の目にはつくけど奇をてらった感がない、どちらかというとコンサバでレーベル・イメージをきっちり表現したデザインのものが多く、こうして手がけた作品一覧を見ると日本人の感性が出ているように思います。





ベルナルド・ファルコン作品に戻りましょう。もうひとつの有名なアートワークはQUATERFLASHの2ndアルバム『Take Another Picture』(1983年)です。子供から大人まで一族郎党の集合写真といった構図なのですが、NAZARETHの『Malice〜』同様全部マネキンです。QUATERFLASHはデビュー作からシングル・カットされた「Harden My Heart」が大ヒットし「Find Another Fool」も好調で一躍注目を集めましたが、この『Take Another Picture』は前作ほどの成功を収めることができず、その後もバンドは続きましたが、現在アメリカでは「あの人は今」みたいなTV番組に出るような位置付けになっちゃってます。




AORロックとしてはヒットした1stアルバム同様この『Take Another Picture』も良く出来ているのですが、1stの方は手に入りやすいけどこの2ndはCDだと結構入手困難な1枚です。白いベレー帽がトレードマークだったヴォーカル、サックス担当のリンディ・ロスの湿った感じでベソかき声みたいな個性的な唱法がAORマニアや80’sフィメール・ヴォーカル・マニアの間では今も結構人気があるのですがこの2ndはダウンロード販売では入手可能ですがCDはほとんど見かけません。じゃぁ、アナログLPは高いのかといえばおそらくそっちは値段ついていないと思います。


Nowhere Left To Hide

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ベルナルド・ファルコンのマネキンによる家族風景・子供達の世界写真は写真集にもなっているようなのですが、今回『Take Another Picture』のアートワークを見ていてちょっと怖くなりました。マネキンって外に置かれると何だか不気味な存在になるような気がします。打ち捨てられた裸のマネキンがゴミ集積場にあって夜偶然見ちゃってもびっくりはするだろうけど「何だマネキンかよ、脅かすなよ」くらいの感じなんでしょうが、このアートワークのようにきちんと着衣状態で意図を持って置かれており、それが大量にあると何だか怖い。『Take Another Picture』は一見のどかな風景と抜けるような青空でそれが中和されているような感じがありますが、よく見るとその青空とマネキンの対比が逆に怖い。死の世界みたいな何といえない感覚にとらわれてしまいます。QUATERFLASHって考えてみればヒットした1stアルバムのアートワークも何だか不気味ですよね。




着衣のマネキンが意図を持って屋外に置かれたのも怖いんですが、剥製っていうのも博物館や鳥の剥製なんかが床の間にあっても別に何ともないけど、これも屋外に持ち出された瞬間に死の世界を強烈にアピールする存在になっちゃう感じが強くあります。

この世界に取り憑かれたビジュアル・アーティスト/デザイナーがテレンス・イボットです。誰それ?って感じでしょうがカケレコでCD買っている人ならその作品が使われたアートワーク絶対知っていますよ。


テレンス・イボットはマイク・ヴァーノン設立のブルー・ホライゾン・レーベルの発売作品のほとんどの写真/デザインを手がけた人物。ブルー・ホライゾン以外でも英DECCA、米サイアー等から出たヴァーノン絡みの作品もやっています。怪人ミック・フリートウッド登場となったFLEETWOOD MACのセカンド・アルバム『Mr. Woderful』、鳥を捕食する巨大グモの写真インパクト大なWEB『Theraphosa Blondi』、アラン・ホールズワースが在籍していたIGGINBOTTOMなどが彼の写真/デザインです。


ブルー・ホライゾンがCBS配給だった時代にPresenting The Country Bluesシリーズという黒人ブルース土着系アーティスト作品を再評価しようという企画があり、4アーティスト、4枚のアルバムが発表されました。アルバム・タイトルは全て『Presenting The Country Blues』で統一されていました。リストにすると・・・。

1. ROOSEVELT HOTLS (7-63201/ 1968年)
2. MISSISSIPPI JOHN CALLICOTT (7-63227/ 1968年)
3. FURRY LEWIS (7-63228/ 1968年)
4. LARRY JOHNSON (7-63851/ 1970年)

ROOSEVELT HOLTSのアートワークにはアーティスト本人の写真を撮ったフォトグラファーのクレジットはあるけど、フロント・アートとデザインのクレジットが無いようですが、これも写真の雰囲気から考えるとイボット作品とおもわれます。スワンプに打ち捨てられた薬缶と空き缶。イボット作品に繰り返し登場する廃物・壊れて使えない物の残骸・剥製となった動物の傾向に当てはまっています。2から4は剥製と骨です。2は元の動物が何かは判りませんがおそらく骨でしょうし、3の威嚇する狐はかなり生々しく一見生きている狐かと思いますが剥製です。この狐のポーズ覚えておいてください。4はバケツからのっそり出てくるロブスターですがこれも標本で間違いないと思います。



イボットの作品には壊れた物、命の無い剥製や標本が繰り返し登場。その作品からは死のイメージが立ちのぼってきます。CHICKEN SHACKのアルバムなどにもその傾向が強く出ていますね。2nd『O.K. Ken?』の黒人の少年の隣の骸骨、『100 Ton Chicken』のジャケット裏などにその傾向が出ています。さて、そのイボットを重用したマイク・ヴァーノンは当時のシーンでインフルエンサーとして活躍していた女性のアルバムも手がけています。マーサ・ベレスの『Fiends & Angels』、デヴィッド・ボウイとも関係の合ったダナ・ギレスピーの初期2作品の制作にも関わっています。


今回取り上げるのはそのダナ・ギレスピーの2ndアルバム『Box Of Suprise』。テレンス・イボット撮り下ろし写真が使われています。オリジナル英DECCA盤LPのジャケット見ていただくと緑豊かな風景の中動物たちに囲まれて子犬を抱えて腰掛けるダナ。ホノボノとしたアートワークに見えます、一見。しかしよく見ていただくとこれかなり怖い写真なんですね。まず、動物たちに囲まれてというピースフルな情景に騙されがちですが、生きた狐とウサギを置いて写真を撮るなんていうのは至難の技。捕食する側とされる側ですから、そう考えてみると、途端に雰囲気がおかしいことに気づきます。そして狐を見ると先ほどFURRY LEWIS『Presenting The Country Blues』のアートワークに写っていた狐が左右逆向きで置かれていることが判ります。剥製です。この写真の中で撮影時に生きていたのはダナ・ギレスピー本人とダナが抱えているケアーンテリアと第3の男のみ他は全部剥製なんです。剥製を使って情景を作っているわけです。マネキンを使って情景を作り出すベルナルド・ファルコンと同じ手法ですね。





本当に怖いのはここから。ダナの左手に注目してください。彼女が腰かけている物から力なくのびた何者かの左腕を持っていることに気づきます。そしてダナの左側に置かれたウサギの剥製の左下を見ると銀色の蝶番のようなものが見えます。彼女が腰をおろしているのはベンチではなく棺桶なんです。そしてダナが左手を添えているのはその棺桶に入った死体の左腕ということになります。


一見して平和な情景見えた写真がよく見ると恐ろしい情景を描き出しており、ここでジャケット写真とは乖離した感じだったアルバム・タイトルにしっかり繋がるというかなり手のこんだコンセプト・アートワークなのでした。何年か前に絵画の来歴や描かれたエピソードが意味するものを解説した「怖い絵」本がブームになりましたが、このダナ・ギレスピーの『Box Of Suprise』やそれをディレクションしたテレンス・イボットやマネキンが描き出す異世界を作り上げたベルナルド・ファルコン作品などを見ていると「怖いアルバム・アートワーク」っていうのもありかなと思います。


これを書いている最中にDEREK & THE DOMINOSのドラマー、ジム・ゴードンの訃報が入ってきました。殺人罪で収監されていたゴードンですが仮釈放は認められていたそうですが出獄せず獄中で亡くなったようですね。長い間聞いていなかったアルバム『Layla』と買ったまま封を切っていなかったTEDESCHI TRUCKS BAND版『Layla』をこの週末にでも聴いてみようかと思っています。






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