2020年2月28日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
1970年代、GENESISやVAN DER GRAAF GENERATORなどにアートワークを提供したことで知られているのがPaul Whiteheadです。その個性的な作品の数々は、PINK FLOYDを筆頭に数多くの作品を手掛けたHipgnosisや、YESやASIAなどにアートワークを提供したRoger Deanらと並んで、プログレッシブ・ロック・リスナーのイマジネーションを大いに刺激してきました。Paul Whiteheadが2000年以降にアートワークを手掛けたプログレッシブ・ロック・アーティストを振り返ると、イタリアのLE ORME(2001年作『Elementi』や2004年作『L’infinito』)、SUBMARINE SILENCE(2001年作『Submarine Silence』)、ALEX CARPANI BAND(2007年作『Waterline』や2010年作『The Sanctuary』)、BAROCK PROJECT(2015年作『Skyline』)、フランスのCLEARLIGHT(2003年作『Infinite Symphony』)、アメリカのAKACIA(2006年作『This Fading Time』)、HOLDING PATTERN(2007年作『Breaking The Silence』)、カナダのQWAARN(2004年作『The World Of Qwaarn』)などが浮かびますが、今回は、そんな彼の手によるアートワークを採用した南米出身のミュージシャンXavier Asaliを取り上げます。
Paul Whiteheadが南米のプログレッシブ・ロック・アーティストにアートワークを提供した例としては、メキシコを代表するプログレッシブ・ロック・グループであるCASTの2015年作『Vida』が挙げられますが、Xavier Asaliもまたメキシコ出身のミュージシャンです。Xavier Asaliはハイ・スクールを卒業後にボストンのバークリ―音楽大学へと進学し、さらにロンドンの王立音楽大学で修士号を取得。YESやGENESIS、CAMELやPREMIATA FORNERIA MARCONIといったアーティストたちから影響を受け、中でもGENESISが73年に発表した名盤『Selling England By The Pound』をフェイバリットに挙げています。彼は、コンポーザーやアレンジャーとして音楽活動を行う中で、自身の音楽を追及すべくプログレッシブ・ロックのプロジェクトを立ち上げ、2017年にデビュー・アルバムとなる『Perspectives』を発表しました。
Xavier Asaliによる2017年のデビュー・アルバム『Perspectives』には、前述の通りPaul Whiteheadによる幻想的なアートワークが華を添えています。GENESISが71年に発表した名盤『Nursery Cryme』に並ぶ完成度の高さと言っても過言ではない本作のアートワークは、間違いなくプログレッシブ・ロック・リスナーの注目を集めるでしょう。本作には、70年代のプログレッシブ・ロックを強く意識した11の楽曲が収録されています。Xavier Asaliはシンガー・ソングライター志向を持ったミュージシャンであり、それぞれの楽曲はプログレッシブ・ロックのスタイルで構成されつつも決して難解ではなく、優れたポップ・センスを兼ね備えています。また、彼はマルチ・プレイヤーであり、一部のパートにゲスト・ミュージシャンを迎えながら、多くのパートを自身の手でプレイしています。
アルバムのオープニングを飾る「Perspectives」は、本作の中で最も強くXavier Asaliのキャラクターが反映された楽曲と言えるでしょう。70年代のプログレッシブ・ロック(特にGENESIS)からの影響を感じさせるデリケートなシンフォニック・ロックとなっており、Xavier Asaliはマルチ・プレイヤーの才能を発揮し、全ての楽器を自身の手でプレイしています。また、楽曲の後半部では娘であるXimena Asaliが、アルバムの幕開けを告げる美しいメロディーを歌い上げています。2曲目の「Lady In Blue」、そして続く3曲目の「Brothers In Arms」ではドラマーMike Nietoがリズム・セクションをサポート。「Lady In Blue」は、メロトロン・サウンドとシンセサイザー・リードが活躍する楽曲であり、7/8拍子が効果的に用いられるなど、やはりGENESISを彷彿とさせる構成で聴かせます。一方の「Brothers In Arms」は、ミクソリディア旋法によって奏でられるシンセサイザー・リードがPREMIATA FORNERIA MARCONIを思い起こさせます。4曲目の「Prisoner」にはドラマーSantiago Ortizとボンゴ奏者Sr. Gonzalezが、そして5曲目の「Independence」にはSantiago Ortizに加えてベーシストAlonso Arreola、ギタリストAlex Otaolaが参加しています。このふたつの楽曲では、GENESISの73年作『Selling England By The Pound』に収められた名曲「Firth Of Fifth」からの影響が明らかなアコースティック・ピアノの節回しが耳に残るでしょう。プログレッシブ・ロックの中で最も大きなサブ・カテゴリーとなっているのがシンフォニック・ロックですが、そのシンフォニック・ロックの中でも抜きん出た完成度を誇るのが「Firth Of Fifth」です。Xavier AsaliがGENESISのキーボーディストであるTony Banksのプレイ・スタイルを深く研究、理解し、自らの楽曲に反映させていることが分かるでしょう。6曲目の「Higher Purpose (Remembering Peter)」は、1曲目と並んでXavier Asaliが全ての楽器をプレイし、Ximena Asaliがコーラス・パートをサポートした楽曲。民族的なスキャットを含むスケールの大きな楽曲となっていますが、これはタイトルから推察するに、GENESISを脱退後に民族音楽を取り入れたソロ・アルバムを発表したPeter Gabrielを意識したアプローチなのでしょう。
アルバム後半になると、いわゆるプログレッシブ・ロックのサウンドが若干後退し、Xavier Asaliの、シンガー・ソングライターとしての色合いが強く表れます。7曲目の「Natures Is Calling」は、ドラマーMike Nietoとリード・ギタリストFelipe Souzaがサポートするメロディアスな楽曲。Xavier Asaliは前述のプログレッシブ・ロック・アーティストたち以外にも、THE BEATLESやElton Johnなどからの影響を語っていますが、アコースティック・ピアノを奏でながらメロディアスなバラードを歌い上げる姿こそ、本来の彼なのかもしれません。内省的なメロディーとメランコリックなサウンド・メイクが印象的な8曲目の「Fearless」、やはりGENESISの「Firth Of Fifth」を彷彿とさせるアコースティック・ピアノが美しく響き渡る9曲目の「Unusual Love Song」は、ゲスト・ミュージシャンを一切伴わず、Xavier Asaliが全ての楽器をプレイしています。5曲目にも参加したギタリストAlex Otaolaが再び登場する10曲目の「Numb」は、エフェクト加工されたXavier Asaliのヴォーカルとヘヴィーなギター・サウンド、あるいはソフトウェア・シンセサイザーによるシネマティック且つシリアスなオーケストレーションによって、他の収録楽曲には無い緊張感が演出されています。そして、11曲目の「Three Trees In Heaven」にはドラマーMike Nietoが参加しています。本作で初めての完全なインストゥルメンタル楽曲であり、ポリフォニック・シンセサイザーの軽やかな冒頭からメロディアスなエレキ・ギター、オルガン・サウンド、そしてTony Banks影響下のシンセサイザー・リードが次々に登場。さらに、Xavier Asaliは金管楽器もプレイし、アルバムのエンディングを華やかに演出します。
2000年以降のメキシカン・プログレッシブ・ロック・シーンにおいては、へヴィー・シンフォニック・ロック・グループCASTに関する話題が多くを占めている印象があるでしょう。音楽的にハイ・レベルであることに加えて、毎年のように新譜を送り出し続けているCASTは、現在ではメキシコのみならず、南米のプログレッシブ・ロックを代表するほどの存在へと出世を遂げています。しかし、CASTに並ぶ長い音楽キャリアを誇るICONOCLASTA、クラシカルなサウンドを聴かせるキーボード・トリオGOVEA、80年代に優れた作品を発表したNIRGAL VALLISのキーボーディストJose Luis Fernandez Ledesma率いるSAENAなど、同国にはCASTの他にも素晴らしいアーティストたちが活動しています。そんな中で、今後の活動に注目すべきアーティストが、またひとり登場しました。Xavier Asaliによる2017年作『Perspectives』は、ポップ・ミュージックのストレートなアプローチと、GENESISを始めとする70年代のプログレッシブ・ロックから影響を受けたシンフォニック・ロックが同居する傑作となっています。
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