2018年7月10日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ
スタッフ増田です。オセアニアン・ロック特集、前回のサイケ/ハードロック編に続き、今回はいよいよプログレ作品をご紹介。
オセアニアのプログレと言えば、何と言ってもセバスチャン・ハーディー。
67年、ギタリストのグラハム・フォードを中心に結成されたR&Bのカバー・バンド「セバスチャン・ハーディー・ブルース・バンド」を母体とする彼ら。68年にメンバーを再編しよりポップ志向を高めた「セバスチャン・ハーディー」に改名しますが、しばらくの間はオーストラリアのロックンロール・スターJohnny O’Keefeのバックバンドやビートルズ等のカヴァー・バンドとして活動を続けます。
73年に初のシングル「All Right Now」をリリースするも、グラハム・フォードが脱退。それに代わる弱冠18歳のギタリスト、マリオ・ミーロの加入を機に、バンドの音楽性も変化。カヴァーのレパートリーにマイク・オールドフィールドの「Tubular Bells」が加わるなど、一気にプログレ志向を強めていきました。
75年には1stアルバム『Four Moments(邦題「哀愁の南十字星」)』を発表。 マイク・オールドフィールドやYESなど英国プログレからの影響も感じさせつつ、同時にオーストラリアの風景を浮かび上がらせるような雄大なシンフォニック・ロックは、まさしくプログレ史に残るオセアニアン・ロックの金字塔的作品と言えるでしょう。
世界で第6位の土地面積を誇り、大陸部には未だ手付かずの自然が残るオーストラリア。英国のロックから影響を受けつつもどこか伸び伸びとしたおおらかさや温かみを感じさせる、そんなオーストラリア・プログレの数々をまずはご紹介してまいります。
76年2nd。本作を最後にグループは解散してしまいますが、1stに負けず劣らずこちらも傑作。
何と言っても20分に及ぶタイトル曲「Windchase」が圧巻。
切々と紡がれるギター、たなびくメロトロン、高らかにリードを奏でるムーグ、そして優美なヴォーカル&メロディ・・・オーストラリアが誇る至福の名曲です。
セバスチャン・ハーディーがプログレに転換する以前の71年に、こんなプログレ作品も生まれていたのです。
ずばりオーストラリア版のインディアン・サマー!?はたまたグレイヴィ・トレイン!?
荒々しくむせび泣く唾吐きフルートが叙情味たっぷりな、英国ファンにはたまらない逸品。
こちらは72年のオルガン・ハード作。
繊細なフォーク・ロックからジャジーでちょっぴりサイケなキーボードとサックスが織り成すジャズ・ロック、粘っこく歪んだギターが特徴的なハード・ロックまでを行き来する懐の広いサウンドが見事!ジャケもカッコイイ。
さて、75年はオーストラリアにおける「プログレ元年」と言ってもいいかも?セバスチャン・ハーディーに匹敵するハイ・レベルなプログレ名作が75年に続々と生まれています。
オーストラリアにもオランダのTRACEやチェコのCOLLEGIUM MUSICUMばりのクラシカルなキーボード・プログレ・バンドが居たとはっ!75年唯一作。
ゴリゴリのトーンで疾走するベース、端正かつ透明感あるピアノ&キーボード、ドラマチックな展開などなど、聴き所たっぷりで見事!
こちらはオーストラリアのマハビシュヌやウェザーリポート!?
オーストラリアが誇る名フュージョン系ロック・バンド、75年デビュー作。
流麗かつキレの良い軽快なアンサンブルの中に伸び伸びとしたたおやかさもあって、気持ちいい~。
サンタナに影響を受けたというオーストラリアのジャズ/フュージョン・ロック・バンド、なんとこちらも75年唯一作。
ラテン・フレイヴァーに木漏れ日感が加わったグルーヴィーで柔らかなアンサンブルが絶品・・・。
オーストラリアのジャズ・ロック、侮りがたし!
オーストラリアの女性ヴォーカリスト、74年2nd。
まるでディランばりの凄みある歌唱からコケティッシュな歌唱、アニー・ハズラムばりの透明感ある歌唱まで表現力は特筆もの!
オージー産プログレの名バンドTULLYやアシッド・フォークEXTRADITIONのメンバーも参加していて、プログレッシヴなフォーク・ロック・アンサンブルを聴かせています。
オーストラリアのギタリストが75年に残したジャズ・ロック/フリーインプロの逸品なんですが、美しいメロトロンもフィーチャーされていて、幻のメロトロン名盤とても語られてきた作品。
よりジャズ・ロック然としたカッコいい76年作との2in1仕様!
こわれものイエスをアメリカン・プログレ・ハード・テイストで料理したような豪プログレがいるって!?
切々と歌われるヴォーカルとテンションみなぎる重厚なアンサンブルの組み合わせがドラマティック!
セバスチャン・ハーディーの名作と比べても決して劣らぬ77年の傑作。
ここからはオーストラリアの新鋭プログレもご紹介。
2004年に結成されたオーストラリアのプログレ・グループ、14年作の3rd。
英国の90年代の人気ロック・バンド、トラヴィスを彷彿させるメロディ・センスと美麗な歌声、そして北欧プログレ新鋭にも負けないヘヴィな透明感みなぎるアンサンブル!
ゆったりとした叙情性は同郷のセバスチャン・ハーディーに通じてるし、実に心洗われるなあ・・・。
ポーキュパイン・ツリーやトランスアトランティックに影響を受けたオーストラリア人のプロジェクト、14年デビュー作。
アルバムのどこを切っても溢れるヴィンテージなプログレへの愛情にグッとくる好盤。
この雰囲気、イーノのポップな初期ソロ作に似てるかも!
オーストラリアの新鋭コンポーザー&Key奏者によるこちらも14年作、カラフルでリリカルで浮遊感たっぷりで良いですよ~。
最後はニュージーランドのプログレ・グループをご紹介。
オーストラリアと同じく永らく英国に支配されており、かつオーストラリアよりも英国の文化の名残がそこかしこに残っているというニュージーランド。
牧草地帯が多く、羊の数が人口を超えるという素朴な牧畜国ニュージーランド。
しかしながらオーストラリアの先住民アボリジニの数が全人口の3%なのに対してニュージーランドの先住民マオリは人口の15%だったりと、古来からのルーツが頑なに根付いている国とも言えます。
そんなニュージーランドのプログレ。決して素朴なだけではない、「いなたさ」と「混沌」が混ざり合った曲者グループ揃いです。
イエスのベーシスト、クリス・スクワイアがハード・ロック・バンドを結成してVertigoからリリース!って感じのグループを、な、なんとニュージーランドで発見っ!76年作。
せわしなくリズム・チェンジを繰り返しながらスピーディーに駆け抜けるプログレ・ハードといい、哀愁のメロディ溢れるナンバーといい、英国モノと言われても違和感のないクオリティ!
イングランドが『ガーデンシェッド』をリリースしたのと同じ77年に、南半球にて、ジェネシスとイエスのエッセンスを同じく継いだこんな名盤というか迷盤が生まれていたとは・・・。
テープを早回ししているようにせわしない演奏、ピーター・ガブリエルにチンドン屋風味が加わったような素っ頓狂なヴォーカル、ジェントル・ジャイアントばりの変拍子のキメ、子供の声みたいな狂気的なコーラス・・・。
サムラ・ママス・マンナなんかにも通じてしまいそうな痛快なるニュージーランド産「大道芸プログレ」!
「サイケ/ハード・ロック編」はこちら!
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ヨーロッパ大陸から遠く離れた南半球はオーストラリアから登場したグループによる75年デビュー作。当時若干20歳のMario Milloによる甘く切ないギターは泣きメロを連発し、雄大なオーストラリアの大地を想起させる不自然さの無いバンド・アンサンブルはドライに響き、大陸の朝焼けを想起させる映像的なメロトロン・ストリングスの幻想で魅了する、全てが完璧なランドスケープを描き切った大傑作です。邦題「哀愁の南十字星」というタイトルが全てを象徴するような、緩やかな時の流れを感じるシンフォニック・サウンドであり、プログレッシブ・ロックを語る上で外すことの出来ない名盤です。
ヨーロッパ大陸から遠く離れた南半球はオーストラリアから登場したグループによる76年2nd。1曲目から20分にわたる大作を従えてリリースされた本作は、前作の続編と言うような趣のあるマイルドなシンフォニック・ロックとなっており、やはりMario Milloによる甘く切ないギターの哀愁感と、キーボードによる懐の広いサウンドが特徴でしょう。メロトロンの名盤となった前作と比べると、その使用は押さえられているためドライな印象を与えますが、前作と同様の爽快感と、とてもハートフルな魅力を携えた傑作となっています。
ツイン・キーボード編成のオーストラリア産プログレ・グループ、75年の唯一作。手数多く切れ味の鋭いドラム、ゴリゴリのトーンで疾走するリッケンバッカー(←おそらく)ベースによるスピード感あるリズム隊、そして、クラシカルかつR&B〜ジャズ的なグルーヴ感もあるピアノと透明感あるトーンの幻想的なキーボード・ワークが印象的で、端正かつジェントルなキーボード・プログレ・サウンドは、EL&PというよりオランダのトレースやチェコのCOLLEGIUM MUSICUMあたりを彷彿させます。気品のある伸びやかな男性ヴォーカル、フックに富んだ流麗なメロディもまた魅力的。マイナーながら、クラシカルなキーボード・プログレとしてこれはかなり完成度高いです。これはオススメ!
76年〜78年に活動したニュージーランド出身のプログレ・ハード・バンド、77年の唯一作。ピーター・ガブリエルにちんどん屋&サーカス風味を加えたような演劇的かつ素っ頓狂なヴォーカルがいきなり強烈。演奏もテープを早回ししてるようにえらく焦燥感たっぷりで、切れこむ変拍子のキメはジェントル・ジャイアントばりだし、エッジの立ったトーンで忙しなく動きまわるベースはイエスを土台にしつつも何だか違う方向に突き抜けちゃってるし、子供の声みたいなコーラスも奇天烈感たっぷりだし、イングランドが『ガーデンシェッド』をリリースしたのと同じ77年に、南半球にて、ジェネシスとイエスのエッセンスを同じく継いだこんな名盤というか迷盤が生まれていたとは・・・。これは名づけて「大道芸プログレ」!痛快なるプログレ・ファン必聴の一枚です。
サンタナに影響を受けたオーストラリアのジャズ/フュージョン・ロック・グループ。75年唯一作。元ヘロンのG.T.ムーアによるレゲエ・バンドのような木漏れ日感あるゆる〜いグルーヴのヴォーカルがはじまり、フュージョンタッチの流麗なエレピが入り、ベースが疾走しだすと、バンドがスピーディーに走り出します。高速で乱れ打たれるパーカッション、軽快なカッティング・ギターもクール!パブ・ロック感のある親しみやすいヴォーカルも良いし、ハードかつ滑らかなトーンで早弾きを繰り出すギターもカッコよし。オシビサなどアフロ・ロックとともに、英ココモのようなご機嫌なフレイヴァーもあって、カンタベリーに通じるようなジャズ・ロッキンなキメも挿入するし、さらに素っ頓狂なジャケの通りにザッパに通じるようなセンスもあって、これは良いバンド!
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