2018年7月7日 | カテゴリー:〇〇ジャケ調査委員会,世界のロック探求ナビ
タグ: ブリティッシュ・ロック
スタッフ増田です。突如始まりました『プログレ名画展』。この特集ではアルバム・ジャケットのデザイナーにスポットを当て、そのデザイナーが手掛けた様々な作品をご紹介していきたいと思います。
プログレのジャケといえば三大デザイナーの「ヒプノシス」「ロジャー・ディーン」そして「キーフ」が有名です。が、彼らはカケレコでもたびたび特集していますし、今回はあえてあまり知られていない人物から探求してみることにしましょう。今回特集するのは英国のDECCAやその傘下のDERAMレーベルで主に活躍したデザイナー、David Ansteyです。
DECCAといえば1929年に設立されたイギリスのレコード会社。現在はユニバーサル・ミュージックの傘下となっているものの、設立以降長らくEMIと並ぶ英国の二大レーベルとして名を馳せました。60年代初頭にはビートルズをオーディションで落としEMI傘下のパーロフォンに奪われてしまいますが、代わりにローリング・ストーンズをデビューさせることに成功。66年にはプログレッシヴ・ロックやブルース・ロックなど革新的なロックを専門に取り扱うサブ・レーベルDERAMを設立し、ムーディー・ブルースやCAMELなどを世に送り出しました。レコード会社がこうしたサブ・レーベルを設立するのはこれが初めてのことだったそうです。
さて話をDavid Ansteyに戻しましょう。彼がクレジットされた最初期のアルバムがこちら。
ムーディー・ブルースはビート・ポップ・バンドとして64年にDECCAよりデビューし、65年にシングル「Go Now」で英国チャート1位を獲得。65年に1stアルバム『Magnificent Moodies』をリリースするも、その後は中々ヒットを飛ばせず、メンバーも徐々に脱退。バンドは新しいメンバー、ジョン・ロッジとジャスティン・ヘイワードを迎え入れ、メロトロンやシンセサイザーなど前衛的な電子楽器を用いた新たな音楽性を探求していきます。
そんな中、世界的なサイケデリック・ロックの流行からDERAMレーベルが勃興。ムーディー・ブルースはDECCAとの契約を満了する予定でしたが、DERAM設立に携わっていたマネージャーHugh Mendlの支援を受け、新興のDERAMレーベルよりオーケストラやメロトロンを駆使した革新的な67年2nd『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』をリリース。シングル・カットされた「サテンの夜」は19位ながらも「Go Now」以来のチャート・インを記録しました(その後「サテンの夜」1972年のラジオ放送から人気に火が付き、全英9位・全米2位を記録しています。早すぎたということなのでしょうね・・・)。
そんな彼らのターニング・ポイントであり、実質上の1stと言えるこの『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』。時代を形容するようにカラフル、かつ抽象的でアーティスティックなこのジャケットは、まさに「プログレッシヴ・ロックの到来」を感じさせる象徴的なデザインとなっているのではないでしょうか。
彼の作品でもう一つ有名なのがこちら。
「英フォーク三種の神器」の一つにも挙げられる名ブリティッシュ・フォーク・ロック・グループの72年唯一作。こちらもDERAMよりリリースされた作品です。
声質の異なる女性2人による透明感溢れるヴォーカル、憂いと幻想性たっぷりのバンド・サウンド。モノクロながら古い本の挿絵を思わせる不思議なジャケットが、美しいサウンドにこれ以上ないほどピッタリなように思われます。裏ジャケもまた良いんですよね~。
そしてなんと!こちらのカンタベリー・ロック名盤も同じDavid Ansteyが手掛けているって知ってました?
デヴィッド・アレン率いるGONGを支えたギタリスト、スティーブ・ヒレッジとカンタベリー界の重鎮キーボーディスト、デイヴ・スチュアートを中心とするグループ、71年唯一作。
古びた宇宙船を思わせるSFチックなジャケは、見ただけで中身のスペーシーなジャズ・ロック・サウンドが流れ出てくるようですね。見事なジャケです。
代表的な作品をご紹介したところで、彼の色々な作品を見ていきましょう。
ギタリストKim Simmondsが率いる英国ブルース・ロック三大グループのひとつ、サヴォイ・ブラウン。67年に英DECCAよりデビューし、70年代中期には米国に拠点を移してDECCA傘下のLONDON RECORDSより作品をリリースしました。
彼らとAnsteyの関係は深く、英国時代の69年作『BLUE MATTER』や71年作『STREET CORNER TALKING』、米国移籍後の76年作『SKIN ‘N’ BONE』などなど多くの作品がAnsteyの手によるものです。
どの作品もMELLOW CANDLEやKHANとはまた違った賑やかなコミック調のタッチで面白いのですが、とりわけ凄いのがこの72年作『HELLBOUND TRAIN』。
表ジャケの書き込みにも目を見張りますが、LPのジャケを開くとこんなコミックが!ジャケ・見開き・中身合わせて楽しめる満足度の高い一枚です。
こちらはDERAMレーベルより71年にリリースされたブラス・ロック作。MELLOW CANDLEやCARAVAN『グレイとピンクの地』を手掛けたデヴィッド・ヒッチコックがプロデュースを担当。
哀愁のハード・ロックとブラス・ロックが混ざり合ったような、陰翳と叙情に満ちたサウンドはまさにブリティッシュ。ジャケはコミカルながらもMELLOW CANDLEに通ずるものがありますね。
67年結成、68年にDERAMと契約したサイケデリック・ポップ・グループ。
シングル「The Muffin Man」がヨーロッパでヒットするも国内でのマーケティング予算には恵まれず、69年に本作をリリースして解散。しかしながら中身は「ザ・サイケ・ポップ」と言えるマジカルでスウィートなメロディ&アレンジを楽しめる好盤となっています。
「オズの魔法使い」をモチーフにしたジャケ。Ansteyの個性的な線画は見られませんが、KHAN『SPACE SHANTY』と同様、繊細な水彩による彩色も彼の特徴と言えるでしょう。
さて、時は60年代末。先鋭化し、さらに多様化していくロック・ミュージック界において、DECCAが新たに設立した実験的サブレーベル・・・それが「DERAM NOVA」。
このレーベルはDECCAやDERAMに所属する前のグループとアルバム一枚限りで契約し、成功すればDECCAまたはDERAMに移行するという、いわば新人バンドの試金石。かのデイヴ・スチュアートが在籍したキーボード・トリオEGGも、NOVAよりキャリアをスタートさせたグループの一つです。
こちらはそんなNOVAの初期の作品で、69年リリースのブラス・ジャズ・ロック作。
キレの良いブラスをフィーチャーしつつ、ハードなギターとサイケ・ポップな香りを残したメロディも渦巻く、まさに「69年英国」と言ったサウンドを聴かせています。
こちらはバッチリAnsteyらしい、線画が特徴的なジャケですね!
こちらもNOVAよりリリース。FREEのメンバーが在籍していたことでも知られる、英国ブルース・ハード70年唯一作。
タメの効いたリズム隊、ヘヴィに歪んだギター、哀愁のヴォーカル。いかにもアングラといった怪しい雰囲気を漂わせつつ、時にはとことん叙情的に聴かせたりと、かなりハイ・レベルなサウンドを聴かせてくれる名作ですね。
絵なのか写真なのかよくわかりませんが、一度見たら忘れられないこのジャケット。この作品が英国アンダーグラウンドの傑作として語り継がれているのは、間違いなくジャケのインパクトもあってこそでしょう。
他のレコード会社に先んじてDERAM、そしてDERAM NOVAといった実験的サブ・レーベルを設立し、60年代末~70年代初頭のプログレッシヴ・ロック黎明期を支えた重要なレーベルDECCA。そしてそんなDECCAやDERAMで数多くの名作を手掛けたDavid Ansteyもまた、後続のプログレッシヴ・ロックに少なからず影響を及ぼした人物と言えるでしょう。色彩やタッチを使い分け、音へのイマジネーションを掻き立てる繊細で陰翳のあるイラスト。「音」を生み出すバンドと同様、ブリティッシュ・ロックの形成になくてはならない名アーティストです。
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Mike Oldfieldの作品への参加でも有名なClodagh Simmondsが在籍したブリティッシュ・フォーク・ロックの代表的グループの72年作。TUDER LODGE、SPIROGYRAと並んで英国トラッド・フォークの「三種の神器」と言われる本作は、適度なサイケデリアとアコースティックな味わいを持ち、湿り気のある英国叙情を伝えます。ジャジーなリズム・セクションを下地に端正なピアノやハープシコードがクラシカルに響き、楽曲によっては隠し味にメロトロンをまぶした作風。加えてバンドの個性である女性ツインボーカルは、ただただ美しいメロディーを歌い上げます。David WilliamsとAlison O’Donnellは本作リリース後に南アフリカへと渡りFLIBBERTIGIBBETを結成します。
廃盤、紙ジャケット仕様、SHM-CD、08年24bitデジタル・リマスター、定価2667+税
盤質:傷あり
状態:並
帯有
若干カビあり
活動開始は64年までさかのぼりビート系グループとしてデビュー、シングル・ヒットに恵まれながらも徐々に作風が変化し、プログレッシブ・ロックへのアプローチを開始。後に全盛を築くこととなるプログレッシブ・ロックバンドがデビューすらしていない時期からオーケストラとの競演や実験性に富んだ作品を生み出し、黎明期を作り上げたイギリスのバンドの67年2nd。本作で彼らは70年代を待つことなく、オーケストラとの競演を果たし、1日の時間軸を音楽で表現する、というコンセプト性の高いトータルアルバムを作り上げてしまいました。名曲の誉れ高い「サテンの夜」を収録した彼らの代表作の1つです。
David Allenを中心に結成されたプログレッシブ・ロックを代表するバンドGONG。そのGONGを支えたギタリストであり、当時URIELを経たSteve Hillageが、THE CRAZY WORLD OF ARTHUR BROWNのメンバーと共に結成したグループの72年作。URIELやARZACHEL時代の盟友Dave Stewartをゲストに迎えたその内容は、後にHATFIELD AND THE NORTHで開花するDave Stewartの個性と言えるカンタベリー・ジャズ・ロック路線のアプローチに、Steve Hillageらしいスペース・サイケデリックな味付けが冴える作風であり、スペース・ロック、カンタベリーの両ジャンルから見ても重要作と言える、強烈な個性を放つ名盤となっています。
英国出身ブルース・ロック・グループ70年発表、唯一作。メンバーであったポール・コゾフとサイモン・カークがFREE結成の為、脱退。バンドを再構成してDECCAからリリースされたのが本作です。タメを効かせた骨太のリズム隊が生み出すウネリに乗って、時に引きずるような重低音のリフを刻み付け、時に縦横無尽にむせび泣く2本のギター。閉塞感が迫りくるミドルテンポ中心のアンサンブルはFREEを彷彿させる部分もありながら、より強烈なアンダー・グラウンド臭を放っています。
英ブラス・ロック/ジャズ・ロック・グループ。DERAM NOVAレーベルより69年にリリースされた1st。サックスをフィーチャーしていますが、アンダーグラウンド臭は無く、60年代的なポップなメロディーと品格あるアコースティック・ギターによるメロウなサウンドが持ち味。穏やかさの中にもサイケやジャズのテイストが漂うサウンドは、ピンク・フロイドのアコースティカルな楽曲とも通じる魅力があります。
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