2017年6月24日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
本記事は、netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第33回 HOSTSONATEN / Summereve (Italy / 2011) に連動しています
プログレッシブ・ロック・シーンにおいては、複数の楽曲を「連作」として機能させることでスケールの大きなテーマを描くコンセプト・アルバムが珍しくありませんが、アルバムのフレームを飛び越えて「連作アルバム」が製作されることもあります。そのスタイルは、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックのトップ・グループEMERSON, LAKE & PALMERによる1977年作『Works Volume 1』及び『Works Volume 2』のように、特にひとつのコンセプトを共有しているわけでもなさそうなケースから、ミュージシャン本人ですら当初は「連作」を想定していなかったケースまで、様々でしょう。ここでは、「比較的短期間のうちに連作のスタイルによって発表されたコンセプト・アルバム」を取り上げていきます。
70年代のプログレッシブ・ロック・シーンにおける連作アルバムの金字塔と言えるのが、奇才Daevid Allenが牽引するサイケデリック・スペース・ロック・グループGONGによる、「Radio Gnome Invisible」と題された3枚のアルバムでしょう。プログレッシブ・ロックを聴き進めていけば、難解な哲学的歌詞や奇想天外なアルバム・コンセプトにも徐々に慣れてくるものですが、本作の摩訶不思議な世界観は現在でも世界中のプログレッシブ・ロック・ファンに様々な解釈を与え続けているのです。「惑星ゴングから緑色のポット・ヘッド・ピクシーズ(妖精)がフライング・ティーポット(飛行体)に乗り地球に送り込まれる」という物語のイントロダクションからして捉えどころのない印象を持ってしまいますが、それは彼らのサウンドが持つ独特の浮遊感にも繋がっています。Daevid Allenのヒッピー思想がサイケデリック・ロック、スペース・ロック、ジャズ・ロックと様々な音楽性に映し出された名作です。
イギリスのネオ・プログレッシブ・ロック・グループであるIQやJADISのサポート・メンバーなどで知られるのがマルチ・プレイヤーSteve Thoneです。「現代を生きる人間」をテーマに彼が作り上げたコンセプト・アルバムは、メランコリックな世界観を持ったシンフォニック・ロックとなっており、テーマに呼応したデリケートなサウンドで聴かせます。また、豊富なミュージシャン人脈が生かされており、ASIAのキーボーディストGeoffrey Downes、IQのキーボーディストMartin Orford、KING CRIMSONのベーシストTony Levin、MARILLIONのベーシストPete Trewavas、PORCUPINE TREEのドラマーGavin Harrison、SPOCK’S BEARDのドラマーNick D’Virgilioなど多数のアーティストたちが参加しています。
2000年代のブリティッシュ・プログレッシブ・ロック・シーンを代表する存在が、90年に結成されたBIG BIG TRAINです。彼らが2012年から2013年にかけて発表した2枚のアルバムから成る「English Electric」は、そのコンセプトからしてブリティッシュ・プログレッシブ・ロックならではの魅力に溢れています。イギリスの田園風景、そして、その土地で生きる人々の息遣いまでを閉じ込めたようなメロディアスなシンフォニック・ロックは、彼らにしか作り得なかったものでしょう。連作が完結した2013年には、2作品を再編集し新録楽曲も加えた『English Electric Full Power』が、完全版としてリリースされています。
ジャーマン・シンフォニック・ロック・グループFREQUENCY DRIFTは、デビュー・アルバムとセカンド・アルバムに連作スタイルを採用しました。「世界を取り巻く環境が不幸な進化を遂げてしまった西暦2046年の未来を生きる」というサイエンス・フィクションの色合いを持ったストーリーを掲げ、憂いを帯びたシンフォニック・ロックを構築しています。彼らはメンバー・チェンジを繰り返しながらも、イギリスのMAGENTAのヴォーカリストChristina Booth を彷彿とさせる歌声を聴かせる女性ヴォーカリストの登用や、スウェーデンのPAATOSなどに通じる幽玄なサウンド・メイクをデビュー当時から一貫させており、作品をリリースする度にそのサウンド・クオリティーが向上しています。
スウェーデンのプログレッシブ・ロック・グループBEARDFISHがリリースした2枚のアルバムは、「昼と夜」に分かれたコンセプト作となっています。朝焼けの情景からアルバムがスタートする『Sleeping In Traffic Part One』、そして夕景から夜が訪れ再び朝日が照らすまでを表現した『Sleeping In Traffic Part Two』には、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの黎明期を代表するグループであるTHE MOODY BLUESによる67年の傑作『Days Of Future Passed』に通じる世界観があるでしょう。彼らの生み出すサウンドは独創的であり、GENTLE GIANTを彷彿とさせる偏屈な楽曲展開、北欧ならではの清涼感とポップ・センス、そしてヴィンテージなサウンド・メイクが光ります。
LOST WORLD BANDと共に2000年代のロシアン・プログレッシブ・ロックを代表する存在なのが、サンクトペテルブルク音楽院出身のキーボーディストGennady Ilyinが率いるLITTLE TRAGEDIESでしょう。彼らはハイ・ペースでリリースを重ねる多作グループとして有名ですが、2007年に「中国の古い詩」をコンセプトに置いた連作を発表しました。彼らの個性である、ヴィンテージなサウンド・メイクが施された重量感のあるへヴィー・シンフォニック・ロックは本作においても健在であり、スリリングに迫るバンド・サウンドは圧巻と言う他ないでしょう。しかしコンセプトの通り、翻訳された中国の詩がロシア語のヴォーカルによって歌われる楽曲も収められており、これまでのアルバム以上に味わい深さ溢れるメロディアスなセクションが際立つ作品となっています。
netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第33回 HOSTSONATEN / Summereve (Italy / 2011) を読む
David Allenを中心に結成され、個性的な浮遊感を持ったサイケデリックなスペース・ロックを確立。メンバーの出入りの多さからその人脈図は幾重にも枝分かれし、ファミリーバンドも多く存在し、プログレッシブ・ロックシーンに留まらず、エレクトロシーンなどにまでその影響を与えるグループの74年作。「Radio Gnome Invisible」と題されたシリーズの第3弾であり、3部作の完結編に位置づけられる本作は、サイケデリック・スペース・ロックバンドとしてのGONGの集大成的な一枚であり、バンドの代表作との評価も高い名盤。特に、執拗な反復の上でDidier Malherbeのサックスが響き、Steve Hillageのサイケデリックなギターが空間を支配する様は圧巻です。
FINISTERREやLA MASCHERA DI CERAの中心人物Fabio Zuffantiによるプロジェクト・グループ。特筆すべきは、ニューレコーディングで、生のメロトロン、ムーグ、ベースが全編に加えられ、オリジナルのファンタスティックなサウンドが一層魅力的に響いています。丁寧に紡がれるアコギ・アルペジオをバックに、フルートやヴァイオリンがうららかに舞い、キーボードが柔らかくファンタスティックに広がる。そして、分厚く鳴らされるメロトロン!プログレ/シンフォ・ファンなら号泣もののサウンドがここにあります。文句なしの名作。
廃盤、紙ジャケット仕様、直輸入盤(帯・解説付仕様)、ボーナス・トラック1曲、定価2835
盤質:傷あり
状態:良好
帯有
帯中央部分に色褪せあり
01年結成のスウェーデン産プログレ・バンド、07年作3rd。オールド・プログレのヴィンテージ感と現代的な先鋭さとを巧みに融合させたスタイルが特徴。リリカルなフレーズからエキセントリックに畳みかけるフレーズまで表現力抜群のギター、シンセ&ハモンドオルガンを自在に使い分けて楽曲のカラーをコントロールするキーボードが絡み合いながら、ハイセンスなアンサンブルを紡いでいきます。ジェントルにささやく歌唱からエモーショナルな泣きの歌唱までをこなすヴォーカルの実力にも注目。様々な表情を見せつつもメリハリの効いた曲展開、冷んやりとした北欧らしい空気感も大きな魅力です。GENTLE GIANTなど70年代プログレを意識した本格派ヴィンテージ・ロックからECHOLYNを思わせる現代的なメロディック・ロックまで、時代を超えた多彩な色合いの楽曲が軒を連ねる傑作。
ジェントル・ジャイアント、初期スポックス・ビアード影響下のスウェーデン出身プログレッシヴ・ロック・バンド、ビアードフィッシュの前作と対を成す通算4枚目。緻密なアレンジと卓越した演奏力で、独自のアイデンティティーを確立しつつある注目作!
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