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SUI GENERIS特集 – アルゼンチンの至宝チャーリー・ガルシアの若き才能溢れる名グループ

アルゼンチンの至宝と言える名ミュージシャンのチャーリー・ガルシアがシーンにデビューしたデュオであり、軍事独裁政権による弾圧の中、若者の「代弁者」として支持を集め、75年のラスト・ライヴでは数万人の観客を集めてアルゼンチン・ロック・シーンの「伝説」となったグループ、SUI GENERISを特集いたします。

SUI GENERISは、高校のスクール・バンドで活動していた2人、チャーリー・ガルシア Charly Garcia(Key、Acoustic Guitar、Vo)とニト・メストレ Nito Mestre(Acoustic Guitar、Vo、Flute)によるデュオ。67年にバンド編成として結成されましたが、その後、メンバーが入れ替わる中で、最終的にデュオとなりました。バンド編成時は、チャーリーが好きだったPROCOL HARUMやVANILLA FUDGEを意識したエレクトリック&サイケデリックなスタイルでしたが、デュオになってからはアコースティックなフォーク・ロックへと転向。長く続く軍事政権による統制への不満が若者の間に蔓延していた社会状況の中、CSN&Y登場以降のメッセージ性を強めたアメリカのシーンにも影響を受け、社会的なメッセージ性の強いスタイルへと変化していきました。

順調にライヴを中心に活動を続けていましたが、71年にチャーリーが徴兵されたために活動が停止になります。軍隊での生活に嫌気がさしたチャーリーは除隊を画策。心臓発作を装うために覚せい剤を大量服用して入院し、その結果、チャーリーの思惑通り、「精神上の問題」という理由で除隊になりました。そうしてSUI GENERISの活動が再開し、72年にリリースした1stが『VIDA』です。

『VIDA』(1972 1st)

アルバムの幕を開けるのは、入院中に作られたという「Cancion Para Mi Muerte(直訳すると、私の死のための歌)」。タイトルは重々しいですが、あまりに美しいメロディと柔らかなアンサンブルにびっくり。イギリスのフォーク・バンドHERONを彷彿させる穏やかなアコギ、心にしみるリリカルなメロディ、センチメンタルなヴォーカル、そして、美しいハーモニー。そのバックで、部屋の中へと静かに差し込む木漏れ日のように奏でられるピアノ、抑制されたトーンで繊細な心の機微を描くようなエレキ・ギターも絶品です。徴兵という経験の中で、自由を奪われた身に絶望したチャーリーだからこそ書けた、暗闇の中で弱くも確かに灯り続ける希望の光のような奇跡のメロディ。当時の若者の心をとらえた、アルゼンチン・ロック史上に残る感動の名曲です。

「Cancion Para Mi Muerte」

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この曲は今も歌い継がれているようで、YoutubeでNito Mestreとオーケストラの共演による2011年の映像がありました。う~ん、やはり名曲だなぁ。

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こちらはCharly Garciaによる2013年の映像。

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2曲目以降も、アコギとピアノのシンプル&リリカルなバッキングと2人のハーモニーを軸に、時にフルートやリコーダーがメロディに寄り添うハートフルな佳曲ぞろい。それにしても、2人の歌声とハーモニーの美しいこと。鼻歌のようにたゆたうハートフルなハイトーンが魅力の「陽」のニト、美しいハイトーンの中にも聴き手の心に刺さるようなアーティスティックな鬱屈が感じられる「陰」のチャーリー。歌声こそ違いますが、パーソナリティ的にビートルズのポールとジョンのコンビも思い出します。

メロディの素晴らしさも特筆で、このデビュー時点から、チャーリーのメロディ・メイカーとしての才は花開いています。2nd以降はアレンジが多彩になっていきますが、シンプルなフォーク・スタイルだからこそ、チャーリーのメロディと2人のハーモニーが際立っている印象です。そして、美しいメロディからは想像できない、軍事政権を批判する暗喩が散りばめられたメッセージもまた特筆。アルゼンチンでは、66年にクーデターで誕生したオンガニーア軍事政権による弾圧が続き、反対勢力との闘争で内戦に近い状態にあり、69年には学生やインテリを中心とする反政府暴動「コルドバソ」が起こるなど、デュオ結成の69年から本作リリースの72年までは、混迷の中にありました。

そんな抑圧された状況にある若者たちの救いとなったのが、チャーリー・ガルシアが紡ぐ美しいメロディであり、2人の柔らかなハーモニーであり、それと表裏をなす「知性だけは奪われない!」という強い意思のつまった鋭いメッセージだったのでしょう。栄光のチャーリー・ガルシアの出発点にふさわしい傑作です。

Natalio Ruiz, El Hombrecito Del Sombrero Gris

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『CONFESIONES DE INVIERNO』(1973 2nd)

73年、アレンジ面で飛躍した2nd『CONFESIONES DE INVIERNO』をリリースし、1st同様に商業的に成功を収めます。1stでは、アコースティック・ギターの弾き語りが中心でしたが、本作では、ピアノがフィーチャーされていて、12歳で音楽大学を卒業したという早熟の天才チャーリーの中にあるクラシック・ミュージックの素養があふれている印象。オープニングの「Cuando Ya Me Empiece A Quedar Solo」からそんなチャーリーのピアノのバッキングが美しすぎで、メロディの流麗さが一層際立っています。イタリアのイ・プーにも通じる「気品」と「美麗さ」。ピアノのシンプルなバッキングからはじまり、途中からリズムが入り、ストリングスが彩り、再びピアノのみの静謐なバッキングへと落ち着き、ラストへ向かって、ストリングスとともにクラシカルに盛り上がり、最後はバンドネオンの物悲しい旋律とともに終わるなど、めくるめくアレンジ・センスも見事。1stからのミュージシャンとしての確かな飛躍を感じさせる名曲です。

「Cuando Ya Me Empiece A Quedar Solo」

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ジャズのエッセンスも印象的で、3曲目「Un Haba Un Cisne」など、ジャジーなピアノと奔放なコード進行により一層奥行きと味わいを増したメロディも魅力です。スペインのジャズ・ロックにも近い感じで、バルセロナのJordi Sabatesにも通じるセンスを感じます。半音で展開していくメランコリックな旋律はイスラエルのNO NAMEも思い出しました。

大西洋をはさんで1万キロも離れていますが、元々はスペインとは同じ民族で、地中海の歴史ともつながっているんですよね。スペインによる征服時に先住民はほぼ滅ぼされているため、音楽的には、ペルーやボリビアの山岳部やコロンビアのカリブ海沿岸をのぞき、ほぼ先住民のエッセンスは残っていないようです。我ら日本に当てはめて考えてみると、1万キロも離れた土地に、元は同じ民族だった人たちが住む別の国がある、としたら不思議な感じだし、その別の国で生まれたとしたら、民族の先祖である日本に対してどのようなことを想うのか。元々はそこには別の民族が住んでいたという事実とどう向き合うのか。そんな歴史が織りなした複雑な感情のモザイク模様が、チャーリー・ガルシアが紡ぐメロディにもメランコリーとしてきっと滲んでいるんではないかと思います。

「Un Haba Un Cisne」

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一聴で聴き手の心を震わせる力を持つチャーリーらしいセンチメンタルなメロディのAメロから、ブラスが入ってダイナミックに盛り上がる「Rasguna Las Piedras」。ルノワールなど印象派の絵画を思わせるような柔らかな光に包まれていて、イ・プーのファンは歓喜間違いなしと言える「Alto En La Torre」。その他の曲も、メロディ・メイカーとして、クラシックやジャズの確かな素養のあるピアニストとして、チャーリーの音楽家としての才能が華々しく花開いた佳曲ぞろい。これは素晴らしい傑作です。

「Alto En La Torre」

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『PEQUENAS ANECDOTAS SOBRE LAS INSTITUCIONES』(1974 3rd)

さらなるサウンド面での進化を目指したチャーリーはアメリカへと渡り、フェンダー・ローズ、ARPシンセ、ミニ・ムーグを入手。編成も、Rinaldo Rafanelli(bass)とJuan Rodriguez(dr)を加え、デュオからエレクトリックな4人組へとスケールアップしました。チャーリーの音楽的な野心が大爆発を起こし、一気にプログレッシヴ・ロックへと変化した問題作が3rd『PEQUENAS ANECDOTAS SOBRE LAS INSTITUCIONES』です。

軍事体制下の統制が強まるなか、数曲がアルバムから除かれたり、歌詞を変更されるなどのゴタゴタを乗り越えて、アルバムは74年にリリースされました。リリース当時は、従来のフォーク・ロック・サウンドを愛するファンからは不評で、セールス的には失敗に終わったようです。考えてみれば、サイモン&ガーファンクルが、ピンク・フロイドから影響を受けて、いきなりスペーシー&プログレッシヴなアルバムを出したようなもので、ファンはかなり驚いたことでしょう。でも、それは当時の評価で、今ではもちろんアルゼンチン・プログレ屈指の傑作として高く評価されています。

何と言っても素晴らしいのはオープニングを飾る「Instituciones」。イントロから、まるで東欧のバンドのようなクールなトーンのシンセが鳴り響き、針を落とした当時のファンはきっとびっくりしたことでしょう。Aメロとサビは、従来通りにリリシズムとセンチメンタリズムが溢れますが、2分半過ぎから、ムーグが地をはうように鳴り響き、ドラムもアグレッシヴに畳み掛け、1st/2ndにはなかった荘厳なアンサンブルへとスイッチ。そこから一転して、ピアノのリリカルなバッキングへと収束するなど「静」と「動」を対比させながらダイナミックに展開していきます。曲のラストにむけて繊細なタッチで紡がれるエレキ・ギターのソロもドラマティック。新生SUI GENERISの魅力がつまっていて、なんという名曲っぷり!これほどまでに繊細なメロディとプログレッシヴな展開があわさった曲はそうそうないでしょう。ユーロ・ロックで言えば、タイ・フォンに比肩すると言って過言ではありません。

「Instituciones」

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その他の曲もロバート・ワイアットのソロを彷彿させる淡くほの暗い楽曲あり、夢想的な残響音に包まれた1st/2ndにはない音響的な楽曲あり、P.F.M.やIL VOLOなどイタリアのバンドを彷彿させるキレのある楽曲あり、BIJELO DUGMEなどスラヴのバンドみたいな踊れるハード・ロックあり、1stから変わらぬリリカルな楽曲あり、多彩なキーボード・サウンドとともに天才チャーリー・ガルシアの才気がぶちまけられた気鋭の佳曲がずらり。ユーロ・ロックの名作と比べても何ら遜色はない壮大な傑作です。

「Pequenas Delicias De La Vida Conyugal」

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3rdリリースの翌年の75年には、チャーリーは4thアルバムに向けて作曲を行い、アルバム名も『Ha sido』(LSDの隠語)と決まっていましたが、ニトとの音楽性の違い、ファンに受け入れられないことでのメンバーの苛立ちなど、バンドを取り巻く状況の悪化により、結局、4thアルバムは録音されぬまま、バンドは解散となってしまいました。

75年9月にブエノス・アイレス最大級のスタジアム、ルナ・パークで行われた解散コンサートでは、当時のアルゼンチン・ロックの歴史の中で最大の2万5千人を超える観客がつめかけたようです。

当時のライヴ映像

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民族的に抑圧されていた地域(バスクやイスラエルや南フランスなど)や、社会主義政権に抑圧されていた地域(東欧)には、物悲しい旋律とともに凛とした力強さもある「歌」に溢れた名作が残されていますが、軍事独裁政権による弾圧の中で活動したSUI GENERISもまた、美しいメロディの中に悲哀や内に秘めた力強い意思がみなぎっていて、それが聴き手の心を打つのでしょう。当時のアルゼンチンの国民的ロック・グループであり、天才チャーリー・ガルシアの栄光の第一歩であり、民族的には同じ起源を持つヨーロッパの国々のロックと同じ地平で考えても屈指と言えるクオリティを持つ名グループです。

SUI GENERISの在庫

  • SUI GENERIS / CONFESIONES DE INVIERNO

    アルゼンチン、天才チャーリー・ガルシアが結成したデュオ・グループ、管弦楽器をフィーチャーした多彩なアレンジが珠玉のメロディを彩る名作2nd、73年リリース

    73年作の2nd、アルゼンチン。チャーリー・ガルシアが参加していたことで知られるグループ。繊細なフォーク・サウンドの1stに比べ、これぞ南米と言える「詩情」はそのままに、アレンジが豊かになり、完成度がグッと高まりました。チャーリー・ガルシアによる繊細なタッチのピアノをフィーチャーしたリリカルな曲、管弦楽器がサウンドを広げるポップな曲、McGuiness Flintあたりに通じるパブ・ロック・フレイヴァー溢れる温かい楽曲など、とにかく美しいメロディと叙情豊かなメロディに彩られた佳曲揃い。シンプルなサウンドでメロディが際立つ1st、多彩なアレンジでメロディが華々し響く2nd。どちらもリリカルなメロディーを聴かせるという点では変わりなく、甲乙つけがたい名作。

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