舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第九十八回：MARILLION『THIS STRANGE ENGINE』
2025-06-13
またまた就職氷河期世代の話題で申し訳ないが、当事者として、どうにも納得いかんことが多い。先日は朝の情報番組ですよ。就職氷河期世代のある人を紹介していた。その人、正社員ではなく派遣社員として就職。給料も上がらず、仕事は厳しく、結婚して子供が生まれるが離婚。仕事をやめて夜の商売をしている時に、紹介されてある免許を取得。それを活かして起業し、今では月50〜100万は稼いでいるという。いや、だからさ、そりゃあ就職氷河期世代でも、何とかして上手くいった人が、いるにはいるさ。その一握りの「うまくいった人」をテレビでわざわざとりあげて紹介するっていうのは、「ほら、就職氷河期世代でも努力して成功してる人がいるやんか。生活に困ってるとか言うてる奴って、そいつが努力してないだけなんちゃうん？」というメッセージに受け取られる。いやそうじゃなくて、努力うんぬんでは何ともならなくて、どうにかこうにか生活しているという人が数多くいるというのが就職氷河期世代の問題なのであって、一握りの成功例を時間かけて紹介して何が言いたいねん！と。しかもスタジオにゲストで来ていた芸能人が「就職氷河期世代っていう響きが良くないですよね」だって。このやろー！！
すいません、口汚くなってしまいました。この話題、今回で最後にしますので。いや、でも同世代で生活に苦しんでいる人たちを目の当たりにしているのでカチンとくるんです。政治家も親身になって考えてくれないだろうというのは前回書いたようなことで。それで40〜50代による変な犯罪も後を絶たないし、まだまだ増えると思う。マスコミって極端な成功例と極端なアカン例の方が面白いから、そこをとりあげるんだろうけど、その間にいる、しんどいけれど歯を食いしばって生きている大多数の人たち、そこをちゃんと取り上げてほしい。
本当になんだか荒んでしまいそうになることも多いけれども、心だけは温かくありたいものです。ということで、温かいというより熱く燃えている心をジャケットに描いたMARILLION『THIS STRANGE ENGINE』を紹介したい。カケレコ・ユーザーならMARILLIONの名前は耳にしたことがあるだろうし、1枚か2枚ぐらいはアルバムを持っているという人もいると思う。だけど、リマスター再発とかオフィシャル・ホームページのみのアイテムとかが多すぎて、「推し」っていうんですか、マジメに向き合おうと思うと「もうムリ！」となってしまいます。近年も新仕様のリイシュー・プロジェクトがあって、2024年には『THIS STRANGE ENGINE』も4CD＋ブルーレイのデラックス盤が登場。就職氷河期世代割引とかないですかね？？
MARILLIONは、1982年にEMIからシングル「Market Square Heroes」でデビューした。メンバーは、フィッシュ（vo）、スティーヴ・ロザリー（g）、ピート・トレワヴァス（b）、マーク・ケリー（kbd）、ミック・ポインター（ds）の五人。このメンバーで発表したオリジナル・アルバムは以下の4枚だ。
� �SCRIPT FOR A JESTER’S TEAR』（1983年）英7位
�◆�FUGAZI』（1984年）英5位
��『MISPLACED CHILDHOOD』（1985年）英1位
�ぁ�CLUTCHING AT STRAWS』（1987年）英2位
フィッシュの歌いまわしがピーター・ゲイブリエルに似ていることもあって、GENESISフォロワーとも呼ばれたけれど、深い叙情性のあるメロディ、物語性の高い歌詞など、新たなプログレ・ファンを中心に人気を博した。なかでもコンセプト作��は初期の名作として知られている。ちょうどアナログ盤からCDへとフォーマットが移っていく時期で、イギリス本国などでは、�△�らアナログ盤だけでなくCDフォーマットで発売された。日本では��までアナログ盤で、�い�アナログ盤とCDで発売されている。この�い鮑埜紊縫侫�ッシュが脱退する。
�ァ�SEASONS END』（1989年）英7位
�Α�HOLIDAYS IN EDEN』（1991年）英7位
�А�BRAVE』（1994年）英10位
�─�AFRAID OF SUNLIGHT』（1995年）英16位
フィッシュの後任にスティーヴ・ホガースが加入。フィッシュと異なる声質をもっている彼だが、歌唱表現力はもちろん、シアトリカルなパフォーマンス、作詞能力も有する逸材だった。MARILLIONはスティーヴ・ホガース加入後も順調に活動。特に、シリアスなコンセプト作�Г�90年代ロックを代表する傑作としてプログレ・ファンからも人気が高い。�┐盂擽塀室造領漂遒世�、EMIの方針転換などもあって契約を失ってしまう。日本ではアナログ盤からCDへの移行が速やかで、�グ聞澆�CDのみで発売されている。�Г脇�本でも話題となり、そのタイミングでヘヴィ・メタル雑誌『BURRN!』とEMIのコラボで、� 銑�とライヴ盤『REAL TO REEL』（1984年）が国内再発CD化された。この時に過去作を手にしたという人も多いのでは？
��『THIS STRANGE ENGINE』（1997年）英27位
��『RADIATION』（1998年）英35位
MARILLIONは独自レーベルのインタクトを立ち上げて����を発表。日本ではポニー・キャニオンから発売された。なぜかこのタイミングで、MARILLIONの契約を切ったはずの英EMIが本気をだし、� 銑┐泙任�24bitリマスター＋ボーナス・ディスクをセットしたエディションで再発するプロジェクトをスタートさせる。アルバム未収録シングル曲なども収録されたファン垂涎の内容だった。当時は学生だったので、全部買いそろえられなかった。さらに、MARILLIONはラケットというレーベルを設立し、オフィシャル・ホームページ限定でライヴ盤やメイキング盤などを次々と発表。この時点で追いかけるのは無理だと挫折。オリジナル・アルバムだけを追いかけようと。
��『MARILLION.COM』（1999年）英53位
��『ANORAKNOPHOBIA』（2001年）
��『MARBLES』（2004年）
��『SOMEWHERE ELSE』（2007年）英24位
独自レーベルでの活動になったMARILLIONは、音楽的なチャレンジがしやすくなった。それもあって、��〜��はアルバム毎に音楽性が微妙に異なる。いずれも聴きこむほどに愛着が増してくる良作だが、いずれも日本ではリアルタイムで未発売。海外盤で手に入れることに。2021年になって、ウルトラ・ヴァイブ配給で��〜��が日本盤が発売された。同時に��のリマスター盤とオリジナル盤をセットにした2CDヴァージョンも発売。よくやってくれました！ちなみに、2005年には� 銑い函�REAL TO REEL』が紙ジャケット仕様で再発されている。
��『HAPPINESS IS THE ROAD』（2008年）
�亜�LESS IS MORE』（2009年）英136位
�院�SOUNDS THAT CAN’T BE MADE』（2012年）英43位
�押�FEAR』（2016年）英4位
�魁�AN HOUR BEFORE IT’S DARK』（2022年）英2位
MARILLIONの活動は順調そのもので、��はセパレートでリリースされた二枚組という力作。CDの配給を英EMIが担うことに。これはめでたい！と思ったら、それが理由か国内発売はなし。�韻魯襯咼灰鵝Ε潺紂璽献奪�から無事に国内発売される。�沖海魯錙璽鼻Ε譽魁璽困�ら国内発売。アコースティック・セルフ・カヴァー作�韻皀錙璽鼻Ε譽魁璽困�ら2017年に国内発売された。�欧覆鵑同�4位、�海榔�2位だからね。もっと日本で話題になってもいいよなあ。
と思ったら、2017年に恐ろしいリイシュー・プロジェクトがスタートした。なんと、過去作のリマスター音源にライヴ音源やデモ音源などを収録したCD、リミックス音源や映像を収録したブルーレイ、60Pのカラーブックレットをセットにした本型仕様の豪華セットで再発するという。まず選ばれたのは、人気作『MISPLACED CHILDHOOD』と『BRAVE』で、スティーヴン・ウィルソンがリミックスした音源などを収録。以降、順番はバラバラだったが、デビュー作から『THIS STRANGE ENGINE』まで出そろった。就職氷河期世代割引はないですか？！
さて、その『THIS STRANGE ENGINE』です。ジャケットには奇妙な機械が写っている。機械についた窓の向こうに、赤いハートがエネルギーを放出している。このハートこそが、この奇妙な機械を動かしている。奇妙な機械を動かす奇妙なエンジン。奇妙なエンジンとはハートのこと、奇妙な機械は人間の象徴ではないか。人間というのは実に不思議で、みんな同じような教育を受けて育っているはずなのに、大金持ちから犯罪者まで存在して、しかも必ずしも金持ちが幸せとは限らない。でも、そんな不可思議な存在の人間を良くも悪くも突き動かすエンジンがハートなのですよと。このハートを大切にしなさいよと、そういうメッセージに思える。アコースティックで温かみのあるサウンドの本作にもふさわしいジャケットだ。
2024年のデラックス・リイシュー盤はデザインが少し違っていて、奇妙な機械が湯気を出している。よく見ると後ろのパイプの長さや左側の煙突、バルブの形状などが異なっている。Discogsでブックレットの中身を確認したら、同じような機械がズラッと並んでいる画像も。ああ、欲しいなあ、これ。
物価は高いし、給料は上がらない、嫌な事件も多い今日この頃ですが、ハートだけは温かくいたい。そんな気持ちにさせてくれるジャケットと楽曲の詰まった『THIS STRANGE ENGINE』は、当時のチャート的にイマイチの成績だったけれど、MARILLIONの名盤だと思います。今回はそのアルバムのトップを飾った「Man Of A Thousand Faces」を聴いていただきましょう。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
Man Of A Thousand Faces
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MARILLION / AN HOUR BEFORE IT'S DARK
ご存知ブリティッシュ・プログレの重鎮グループ、4つの組曲を配し劇的に展開する2022年作！
5大プログレ・バンドに匹敵する人気を誇る英国のレジェンド・バンドによる22年作。世界に降りかかる様々な危機や、スティーヴ・ホガースが敬愛するレナード・コーエンの死去についてなどを題材にした内容となっており、4つの組曲を配したプログレ然とした重厚な構成で聴かせます。シリアスなテーマを採りながらも、どこか浮遊感ある出音でメロディアスに幻想美を描くギター、凛としたピアノを軸に気品ある佇まいを崩さないキーボード、そして一声一声に繊細なニュアンスを込め歌う揺るぎない説得力を持つヴォーカルらが一体となり、一曲一曲に崇高なドラマ性を宿したサウンドにはいつもながら感動させられます。名作『Brave』にも通じる深遠さと力強いエモーションが対比する、かなりの聴き応えを持つ一枚です。
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MARILLION / AFRAID OF SUNLIGHT
名作『Brave』に続く95年作
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解説：伊藤政則、定価2427+税
盤質：傷あり
状態：良好
帯有
帯ミシン目に沿って軽微な切れ目あり、帯中央部分に色褪せ・軽微な圧痕あり
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