「どうしてプログレを好きになってしまったんだろう@カケハシ」 第六十回 フランク・ザッパの息子 ヴァイ対ブリュー 文・市川哲史
2025-05-15
第六十回 フランク・ザッパの息子 ヴァイ対ブリュー
あにはからんや〈フリップ抜き全員米国人キング・クリムゾンもどき〉BEATが誇る二人のギタリストは、両名ともフランク・ザッパ門下生だ。この肩書きだけで高技術と高品質が保証される天下御免のキャリアである。同時に「変わり者」ともラベリングされるが、なんか得した気分になるのは私だけではあるまい。
時系列的にはブリューが兄弟子で、ヴァイが弟弟子にあたる。とはいえブリューの実働期間は、かなり短かったりするのだ。
1974年以降、生前のザッパは毎年ハロウィーンにはニューヨークでライヴを開催した。セックスも時事問題も同じ地平で揶揄しつつ、R&Bと現代音楽の洗礼を同時に浴びた〈非商業的な超商業音楽〉を圧倒的な技術力で全曲間断なく演奏するザッパにとって、自由で能動的な精神性を誇るNYの聴衆は最高なのだろう。特に1977年10月28・29・30・31日のパラディアム6公演はザッパ本人の達成感も大きかったのか、『ベイビー・スネイクス』として映画化したし、死後には最終日31日公演分を収録した3CD『HALLOWEEN 77 :OCTOBER 31, 1977 THE PALLADIUM, NYC』と、全6公演を完全収録したUSBメモリとザッパのお面がセットの『HALLOWEEN ‘77』40周年箱もリリースされた。
また翌1978年1月25・26・27日の英ハマースミス・オデオン公演は、〈世間のいろんな変人たち〉を唄った1979年発表の唄物（失笑）アルバム『シーク・ヤブーティ』に、ソロ・パートを片っ端から省いた演奏が使用された。KC＆ザ・サンシャイン・バンドの大ヒット曲“シェイク・ユア・ブーティ”を揶揄したのは、言うまでもない。また公演そのままの音源を収録した全29曲3CDの『HAMMERSMITH ODEON』も、没後発表した。
実はエイドリアン・ブリューは、1977年9月9日米サンディエゴ公演から翌1978年2月28日英ロンドン公演までのツアー・ギタリストだったに過ぎない。というかイーノに薦められ2月15日独ベルリン公演をイギー・ポップと観に来たデヴィッド・ボウイにスカウティングされると、その日のうちに快諾したのだこの男は。でザッパの欧州ツアー終了からわずか一ヶ月後の同年3月29日には、ボウイ《ISOLAR II》ツアー開幕戦の米サンディエゴ公演のステージに立っていたのであった。
あんたねえ。
ブリューによればそのベルリンの夜、ボウイらはレストランでザッパ御一行様と出くわしたらしい。うわ。そしてザッパは、ボウイが何を話しかけても「黙れトム少佐」「うるさいトム少佐」「消えろトム少佐」としか応えなかったという。
さすがだ。
較べてスティーヴ・ヴァイは数多くのザッパ作品に痕跡を残した。
生前の公式アルバムだけでも、1980年『ティンゼル・タウン・リベリオン（旧題：ティンゼルタウンの暴動）』『黙ってギターを弾いてくれ（旧題：ザ・ギタリスト・パ）』『ユー・アー・ホワット・ユー・イズ（旧題：我こそつまるところ己れなり）』。1982年『たどり着くのが遅すぎて溺れる魔女を救えなかった船（旧題：フランク・ザッパの〇△□）』『ザ・マン・フロム・ユートピア（旧題：ハエ・ハエ・カ・カ・カ・ザッパ・パ！）』『オン・ステージVol.5』。1984年『ゼム・オア・アス（旧題：奴らか？俺たちか？）』『シング・フィッシュ』『ギター』。1985年『ミーツ・ザ・マザーズ・オブ・プリヴェンション』。1986年『ジャズ・フロム・ヘル』。
没後の発掘アイテム群も、『BUFFALO』に『HALLOWEEN ‘81』6CD箱と名を連ねる。
ザッパ塾における席次は、各アルバムのメンバー・クレジットで確認できる。ギタリストなら「（lead guitar）」と「（rhythm guitar）」のどっちで表記されたかで、一目瞭然だ。
ブリューに対する評価は、『シーク・ヤブーティ』のリズム・ギター止まりだった。一方のヴァイも、最初はやはり『ティンゼル・タウン』のリズム・ギターから出発したものの、3作目の『ユー・アー・ホワット・ユー・イズ』では「（strat abuse：ストラトキャスター虐待）」に昇格。続く『〇△□』と『ハエハエ』では「（impossible guitar parts：嘘みたいなギター）」、とうとう『ギター』では「（stunt guitar：飛び道具）」という最大級の称号兼賛辞をザッパから獲得した成績優秀者なのである。
市川 ザッパ・バンド時代のあなたは、あのザッパ本人が弾けない超難解なギター・ソロ担当、的なイメージがあるんですけども。
ヴァイ フランクは、とてもじゃないけどギターに適してるとは思えないパートを、よく書いてた。要はピアノ弾いて作っちゃったりするんだけど、いざそれをギターで弾いてみたら全然わけわかんなかったりするのさ（爆失笑）。
市川 それを「らしく弾く」のが、あなたの任務だったと。
ヴァイ そうそう。なぜなんだか僕は、通常では考えられない歪んだギター・パートを弾ける異常な才能に恵まれたみたいで。フランクには《スタント・ギタリスト》って呼ばれたけど（愉笑）。
レッド・ツェッペリン“ハートブレイカー”のギター・ソロに人生最大の衝撃を受けた13歳のヴァイ少年は、毎日毎日9時間の練習をすればするほど、「自分が自分であることの違和感を忘れられた」とギターが唯一無二のアイデンティティーながら、両親が愛した『ウェストサイド物語』の劇伴の譜面化衝動に駆られる高校生に。音楽理論を教えてくれる教師にも恵まれどんな楽器のスコアも書けるようになると、至高の楽器演奏力を裏打ちする音楽理論の修得を目指してバークリー音楽院に進学してしまった。どうだこのロック感皆無の〈ちゃんとした向学心〉は。
ヴァイ バークリー在学中は、時間とエネルギーの全てを音楽に注ぎ込められて幸せだったなぁ。ギターのネックだけ常に持ち歩いてて、暇さえあればそれを握って指を動かしてた（苦笑）。だから毎日9時間から15時間はギターに費やしてたね。
市川 ライナスの毛布と化してます。
ヴァイ そうかもしれない。アレがないと不安に襲われるんだ（失笑）。
市川 あなたがバークリーで学んだことは結局、何だったんでしょう。
ヴァイ 前向きに音楽に接してないとどうにもならない、ってことだね。やっぱり心を広く持って、自分以外のミュージシャンたちの貢献を謙虚に尊重できるようでないと、駄目なんだよ。僕なんか足元にも及ばないギタリストたちが、ドラッグのやり過ぎで死んだりしてるじゃない？ そういうのは姿勢や心構えの問題なのさ。
市川 だけどミュージシャンは自分を律する術を身につけてないと、放縦な生活と享楽に陥りがちで人生を踏み外しやすいと一般に言われがちで。
ヴァイ 僕はそうは思わない。道を踏み外す要因を自分の内面に持っていれば、ミュージシャンに限らず誰だってそうなる。個人的な心理のバランスの崩れでしかない。ロックが原因じゃないよ。僕だって世にもおぞましいロックを演ってた時期もあったけど、別にドラッグなんか必要なかったから。
市川 「おぞましい」ってあなた。
ヴァイ ミュージシャンよりはるかに酷いジャンキーの弁護士だって、何人も僕は知ってるし（愉笑）。僕の最初のツアー体験はまだ20歳で……つまり心の持ち方ひとつで身を持ち崩しかねない年齢なわけ。そして僕もある種のことに関しては、いろんな経験を積みたいとも感じていたよ――たとえばセックスでいろいろ実験してみたいとか。だけどそんな愚行は後々、絶対自分に跳ね返ってくるとわかってきて、「自分には向いてないな」と納得してたのさ。
市川 若いのに道理をわきまえた青年だったんですなぁ。
ヴァイ 一つの問題をある程度突き詰めると、自ずとわかってくることってあるじゃない？ それに加えて22歳のときに僕は大きな転機を迎えてさ……酷い鬱に陥っちゃった。ギグも上手く運んでたし、友だちにも恵まれてたし、慎ましいながらそこそこはお金も稼いでたんだけど、強烈な躁鬱症状と被害妄想に憑りつかれた結果、怒濤の不安に突き動かされちゃった。
市川 その不安の根幹はどこにあったのかしら。
ヴァイ この世界に存在するあらゆるものを手に入れたとしても、自分自身を理解できず見失っているようでは死んでるも同然だ――って真理がわかってきてたんだな。だからこそ人生がいよいよわかんなくなり、なんとか解明しようとあがいてた。ほら、深くて重い命題を自分に投げかけてしまう時期さ。そんな苦しい葛藤を積み重ねた結果、僕なりの結論を見い出してどん底から脱出し、芯の強い個人になれたんだな（←遠い目）。
市川 お、どういう結論を見い出したんですか。
ヴァイ 僕たちは、単に肉と骨と血だけでできてるのではないということ。それ以上に深い何かが僕たちの中で生きている――とわかったのさ。
市川 うわ、西洋っぽいなぁ。で人生観、何か変化が起きましたかね。
ヴァイ まず酒はやめた。あとベジタリアンになって、煙草もやめて、身体に悪そうな食事もやめた。そして人生への取り組み方を、もっと明るくしてみたね。
市川 それ理解はできますけど、具体的に実践するのって難しくないですか。かなり。
ヴァイ それまでの僕は荒んでる自分に酔ってたんだと思うよ、〈負であること〉で自分の存在を認識してたというか……非常に我の強い、極めて自己中心的な方法論だね。だけどそれでも、「不幸なままでいるのは思ってたほどいいもんじゃない」と気づいた。本もすごく読むようになったしね、超自然とかスピリチュアルとか自己実現とか宗教に関する。
市川 日本も海外も脈絡的には変わらないんですね、そういう自己啓発系って。
ヴァイ そうなの？（苦笑）。
このロング・インタヴュー当時のヴァイはたぶんミレニアム直前だから40歳ぐらいだと思うが、ザッパ一門から独立後アルカトラスやデイヴ・リー・ロス・バンドやホワイトスネイクといったスタジアム・ロック仕事で商業的大成功を獲得したり、なぜかPILにも呼ばれるコンテンポラリー・ギタリストとして周知されたり――絵に描いたような成功体験者なのに、見事に達観した姿が忘れられない。あ、でもヴィジュアルだけはマッド・ギタリストそのものでしたけど。当時も現在も。〈スティーヴ・ヴァイ＝マッド・ギタリスト〉は我々の先入観に過ぎない。彼は学究肌のギタリストで、徹底的に理論派だ。様々な音楽理論を修得した上で成立している、実はバルカン星人のように論理的なギターだったりするのだから。
そんなヴァイとザッパの師弟の絆は、バークリー在学中に端を発する。
ヴァイ 1980年頃かな、フランクにテープ送ったらすごく気に入ってもらえて。でもまだ僕は18歳でザッパ・バンドに参加するには若過ぎたから、フランクは僕を採譜係として雇ってくれた。彼のギター・ソロからドラムから、聴いて譜面に起こすという。現在でも発売されてる『FRANK ZAPPA GUITAR BOOK』って本に掲載されてる譜面は、全部僕が採譜して書いたんだから。
市川 知らなんだぁ。
ヴァイ で大学4年目に中退して、晴れてバンド・メンバーになったの。まさにこれこそがリアル音楽修行だったなぁ。
市川 あなた自身は当然、熱心なザッパ信者ではあったんでしょ？
ヴァイ 死ぬほど好きだったさ、小学生の頃から。『ボンゴ・フューリー』聴いて月までぶっ飛んだもん（嬉笑）。
市川 どこの小学生が、よりにもよってキャプテン・ビーフハートとの世界一美しいポンコツ・アルバムを聴いて感動するのか。
ヴァイ 僕が聴きたかったものが全て、フランクの音楽には揃ってたわけだから。楽曲の強烈な構成力、フランクにしか書けないメロディ、ユーモアのセンス、邪悪なディストーション・ヘヴィー・ギター、シリアスさ、目茶目茶音速のフレーズ、アレンジ、自由、パッション、ブルース――フランクの代わりになれる奴なんか、他に誰もいなかったよ。
微笑ましい。そしてどうやらザッパも、正確無比な採譜と音楽理論と演奏技術に長けたまだ十代の若造が目に入れても痛くなかったに違いない。まず『ティンゼル・タウン』で、〈いかにもアル・ディメオラ〉や〈ほとんどアルヴィン・リー〉を完璧にこなしたのは序の口で、以降どんどんエスカレートする師の高度過ぎる要求に、悉く応え続けたからだ。
たとえば『ユー・アー・ホワット・ユー・イズ』収録の“災いを呼ぶ履物 第三楽章のテーマ（Theme From The 3rd Movement Of Sinister Footwear）”は、左右のチャンネルからユニゾンで聴こえるツイン・ギター・ソロが目茶目茶恰好いい。これはザッパの命により、レコーディング直前のツアー中にライヴ録音したザッパのソロを採譜して、ユニゾンになるようスタジオで重ねて演奏したヴァイの素晴らしい仕事ぶりに、ザッパの覚えはいよいよ愛でたく。次作『○△□』収録の、ストラヴィンスキー『春の祭典』も引用した12分の超複雑怪奇曲“溺れる魔女”では、曲芸的ギター・ソロでザッパと互角以上に渡り合う。
そして続く『ハエハエ』収録の“危険がひそむキッチンにて（The Dangerous Kitchen）”と“フェチシストのマンゾク快感（The Jazz Discharge Party Hats）”では、ライヴにおけるザッパの即興ヴォーカルをヴァイが採譜。それを電気アコギでなぞりザッパの唄とデュオで聴かせるという、究極のスタジオ＆ライヴ音源合体曲に到達した。ちなみに前者は台所にはびこる黴菌、後者はツアー中のセックス事情を唄ってるけど。
ヴァイという優秀な採譜アプリを入手したザッパは、過去のライヴで弾いた即興のギター・ソロが「新曲」に大進化することを確信した。正確無比なヴァイの採譜を新たにスタジオでレコーディングすれば、新曲として膨らむからだ。「録れる限りのライヴを録っておく」が信条で無尽蔵のアーカイヴ音源を有するザッパは、ヴァイが起こした譜面をシンクラヴィアに打ち込み、ギター以外の楽器の音色で演奏させるまでに重宝するのだった。
そしてこの時期のザッパは、ヴァイやチャド・ワッカーマンといった超優秀な演奏技術を誇る有望な若手を動員して〈最高難度の音楽〉の実現を目指した。ただしその弊害として、ライヴでの再現が絶望的なほど楽曲が複雑になり過ぎたのが、惜しい。この後まるで反動のように、シンクラヴィア・オンリーもしくは巨大管弦楽団で演奏が成立する作品性に向かったり、お気楽な50’sR&Rの世界観に先祖返りしたりと路線変更するに至る。と同時にヴァイもザッパ門下からの独立を、実質三年弱で余儀なくされたのだから皮肉な話だ。
その結果しばらくは経済的に困窮したヴァイが、採譜の内職でしのいでたという噂もらしいっちゃらしい。ちなみに私の手元にある米『GUITAR PLAYER』誌1984年7月号には、ヴァイが採譜したヴァン・ヘイレン“イラプション”のギター譜が掲載されている。彼らしく実に細かく冷ややかな採譜で、いろいろ感慨深い。
市川 敬愛するザッパ師匠からの最大の教えは何ですか。あなたにとっての。
ヴァイ フランクはとにかく正直で誠実な人間で、しかもその音楽的潔癖さで評価を勝ち得た人なのさ。あの誠実な態度に、僕は学ぶことが多かったと思う。
市川 その誠実さを具体的に説明してください。
ヴァイ たとえば80年代初頭当時、レコードとしてリリースする楽曲は全て、曲のあらましを大雑把に楽譜化しなければならなかった。それで、ASCAPとかの著作権管理代行業者はその楽譜シートの小節の数だけの金をソングライターに払う――そんなシステムになってた。それである曲を楽譜に起こしてた時、その曲が2/4拍子でも4/4拍子でも書けることに気づいた僕は、フランクに「2/4で書いたら小節が増えるから、印税がもっと入るよ？」なんて得意げに提案してみたのさ。
市川 合理的な考察ではあります。
ヴァイ そしたら「その曲にとって最も忠実なカタチで楽譜にすればいいだけの話で、そんなことして金を稼ぐ必要など一切ない。大体おまえどうしたんだ？ まるでハリウッドの業界人みたいな口ぶりになってきてるぞ」とフランクに一喝されて……アレは効いたなー。ありのままの自分をさらけ出すべきではなかったんだよ、誰だって自分の奥底には歪んだ醜いペルソナも潜んでるのだから。その一件以降は、「あくまでも正しいことをやれ」と僕は他人にも言うし、自分も律してる。「そうすればいずれ正しい結果がついてくる」と。
市川 マスターからパダワンへ、具体的な技術のみならずその精神性を教え継ぐという、まさに求道小説の読了感のような話ですなぁ。
ヴァイ 立派なマッド・マスターだったけどね（懐笑）。
スティーヴ・ヴァイという求道者タイプのアーティストの背骨を作ったのは、明らかにザッパである。そしてその恩義を忘れることなく、いまなおザッパのみならず音楽そのものをリスペクトしてやまないヴァイは、ストイック過ぎて嘘みたいだ。
今回もBEAT参加にあたり、わざわざドーセットくんだりまで出向いてフリップから直接〈『ディシプリン』三部作を弾く際の心得〉を拝聴するなんて、どんだけ律儀もとい真摯なのだ。
市川 デヴィッド・ボウイ。ローリー・アンダーソン。ロバート・フリップ。デヴィッド・バーン。あなたを飛び道具として重宝したインテリ・アーティストたちの話はよく訊きましたが、意外にザッパ話はこれまで出てこなかったような。
ブリュー あははは。僕にとってフランクとの仕事は学校みたいなもんだったよ。
市川 何を学んだんですかね、具体的には。
ブリュー そもそもフランク・ザッパの楽曲を1ツアー分憶えるには、一生寝られないと思ったよ。彼がバンドに望むのは、自分の音楽を正確に一貫性をもって演奏すること――その一点のみさ。でも当時のザッパ・バンドで楽譜を読めないのは僕だけだから、皆に追いつくのにとにかく必死だったなあ（←遠い目）。
市川 特に当時のザッパ・バンドには、個人のアドリブやら作曲能力は求められてなかったですもんねえ。
ブリュー そう（苦笑）。そして僕は、それまで誰も教えてくれなかったことを教えてくれた学校を卒業したわけだね。プロのツアー・ミュージシャンにどうすればなれるのか。引く手あまたな存在になるにはどうすればいいか。ひいては自分の音楽ビジネスをどのようにマネジメントすればいいのか、フランクのような偉大な天才から「僕は何をすべきか」コツを教えてもらえたんだから、充分さ。
市川 へ。そっちですかい。
ブリュー うん。音楽とは直接的に関係ないことを多く学んだから、僕にとってフランクの仕事は〈人生のレッスン〉だったわけ。短期集中講座コースの。
なんて不遜なことをはるか昔から嘯いてた〈お気楽な我田引水男〉ブリューと、〈エキセントリックなアカデミアン〉ヴァイという両極端な二人が、いくらパートタイム・バンドとはいえ組むのだから、今回のBEATは実に興味深い。だって〈ザッパ門下のアリとキリギリス〉が共同作業だよ？
とここまで書き進めたら、明らかに私がブリューよりヴァイを贔屓してるのが露骨なことに気づく。ブリューの直営HPで購入した60USドル分のCDが2年半経っても届かない恨みはひとまず置いといて――もだ。とはいえ、ちっとも純粋じゃないエイドリアン・ブリューにほっとする自分がいないわけでもないのだ。どっちやねん。
ブリューが〈インテリ御用達飛び道具〉扱いから出世した苦労人なのは、言うまでもない。フリップにボウイにザッパにデヴィッド・バーンにローリー・アンダーソンにポール・サイモンにトレント・レズナーと、豪華な顧客陣が並びはしたものの、「エイドリアンはギタリストじゃないのよ、単にギターを使って音を出してるだけなの」なんてアンダーソン女史の言い草が、当時の彼の商品性を的確に物語っていた。
でも待てよ。我々は勘違いしてる。ザッパ・バンドがブリュー初のプロ・キャリアではあるが、ザッパ先生のお眼鏡に適ったのは〈ギタリスト〉ブリューではなく、〈シンガー〉ブリューだったのに。
わずか半年のザッパ・バンド在籍期間におけるブリューの最大の貢献は、『シーク・ヤブーティ』のヴォーカルだったりするのだ。実は。LP2枚組全18曲の大作ながら、参加メンバーほぼ全員が唄いまくる異色のヴォーカル・アルバムで、とにかくいろんな変人の生態が「紹介」され尽くす。ドラ中。自己中。両刀使い過ぎて自分が男か女かわからなくなった色情魔。ただのディスコ馬鹿。モラトリアム小僧。など多方面の人間失格者が並ぶ。
そんなくそ野郎図鑑でブリューが唄うのは、ラリったボブ・ディランが唄ってるとしか思わない“フレイクス”と、誰がどう聴いても“やせっぽちのバラッド”をおちょくったとしか聴こえない歌詞の“ジョーンズ・クラッシャー”の2曲。つまりザッパはどうも、単にディランの唄マネが異常に上手い「無名」のアマチュアを非正規雇用しただけのようなのだ。たしかにそっくり過ぎて笑っちゃうけれども。
米ウィキに準じれば、1976年10月某日ナッシュヴィル公演を終えたザッパがテリー・ボジオと入ったバーで、たまたま演奏してたのが地元のカヴァー・バンド《SWEETHEART（失笑）》。スティーリー・ダンやスティーヴィー・ワンダーをそつなくこなすブリューに目をつけ、誘う。ただしあくまでもオーディションに、だ。そして半年後LAでのオーディションを受けたのに見事、不合格。それでも食い下がり再オーディションの末、なんとか追加採用されたのが事実らしい。もちろんギターが人並み以上に上手いのは大前提だが、ディランの物真似という極めてピンポイントな業務といい、補欠合格といい、楽譜コンプレックスといい、200%トラウマ確実の境遇だ。
ボウイから誘われたらそりゃ3分でOKするさ。そもそも生臭い男なのだし。
ここまでヴァイとの格差があからさまだと、自分で指摘しておきながらさすがにブリューが不憫に思えなくもない。でも想い出してほしい。そもそもロバート・フリップが《キング・クリムゾンのエイドリアン・ブリュー》に最も期待したのは、バンド史上初のツイン・ギター要員より歌詞書いて唄えることだったのを。
本人は不本意だろうが、ザッパ＆フリップの二大巨匠は明らかに《唄い手ブリュー》に商品価値を見い出してたのだ。でもだからこそ〈服を着た承認欲求〉ブリューは、単なる便利屋に甘んじることなくあらゆる面で臆せずしゃしゃり出られた。特に2000年代のヌーヴォ・メタル（←死語）なクリムゾンは、彼の図々しさがバンドの原動力だったわけだし。
このBEATを単なるナツメロ大会として片づけるのは簡単だ。私もそう思った。けれど、普通ならどう考えても水と油の〈学究肌×下世話〉な両名が同じバンドで組むこと自体、目茶目茶面白いじゃないか。普通ならありえない気もするが、もしかしたら同じザッパ門下という極めて特異な生態系の住民だからこそ、成立するのかもしれない。アンパンマンとバイキンマンの微笑ましい共存関係のように。しかもレパートリーは1980’sクリムゾン・クラシックスだし――ザッパとフリップの二大巨匠は、ジャムおじさんとバタコさんなのかもしれんなあ。とどのつまりは。
来日話はどうなったんだろう。『あんぱん』が終わるまでにぜひ。
と書いてシメたら『あんぱん』終了一ヶ月前の9月2日、本当にBEATの武道館公演が決定した。そりゃもう行くしかないだろ〈世界最強の後期高齢者〉レヴィンおじさんを観に。そっちかよ俺。
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第ニ回 「尼崎に<あしたのイエス>を見た、か？ 〜2017・4・21イエス・フィーチュアリング・ジョン・アンダーソン、トレヴァー・ラビン、リック・ウェイクマン（苦笑）＠あましんアルカイックホールのライヴ評みたいなもの」はコチラ！
第三回「ロバート・フリップ卿の“英雄夢語り”」はコチラ！
第四回「第四回 これは我々が本当に望んだロジャー・ウォーターズなのか？ −二つのピンク・フロイド、その後【前篇】−」はコチラ！
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96年リリース、未発表/レアトラック集、全30曲
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直輸入盤(帯・解説付仕様)、デジパック仕様、三方背ケース・英文ブックレット・カタログ付仕様、定価3204+税
盤質：傷あり
状態：
帯無
帯無、三方背ケースに若干角スレ、傷あり
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FRANK ZAPPA & THE MOTHERS OF INVENTIONの在庫
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FRANK ZAPPA & THE MOTHERS OF INVENTION / FREAK OUT !
66年リリース、難解さの中に光るポップセンスとユーモア、デビュー作にして鬼才ザッパの才覚ほとばしる歴史的傑作！
66年リリースのデビュー作。ドゥ・ワップ、ロックン・ロール、ブルース、R&B、ジャズ、現代音楽と、アメリカン・ロックの歴史を飲み込んだスケールの作品。難解さの中に光るポップ・センスとユーモア。デビュー作にしてザッパの才能が溢れる歴史的傑作。
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FRANK ZAPPA & THE MOTHERS OF INVENTION / UNCLE MEAT
ザッパ玄人から強く支持される、自作映画のサントラとして制作された69年の大作、傑作組曲「KING KONG」収録
69年作。同名映画のサウンドトラックとして作成された作品。即興風のナンバー、映画のシーンからの抜粋、ヴォーカル入りのロック・ナンバーなどが入り交じって収録された異形の作品。18分に及ぶ名曲『KING KONG』収録。
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