2025-05-09
2つ前の当コラム(第95回)で、これから就職氷河期世代が起こす妙な事件が増えるんじゃないかと書いた。新聞やテレビのニュースを見ていると、何だかその通りになっている気がする。今の社会で最も生活苦にあえいでいる世代。それが40代半ばから50代半ばにかけての就職氷河期世代。その世代が徐々に高齢化していくんだから、不穏な世の中になっていく予感しかない。
テレビを点けたら就職氷河期世代の支援について国会で討論していた。某政党の代表が「真剣に氷河期世代を救う対策を考えてるんですか!」などと声を荒げて訴えている。でも、この人、国民のために頑張りますとか言いながら、嫁に隠れて巨乳グラビア・アイドルとイチャイチャしていた人だよな、と。それに対して首相が答える。「就職氷河期世代対策は着実に効果がでているし、これからも真剣に考える」だって。この人、ポケットマネーから「おこづかい」として後輩議員に10万円ずつ配るような金銭感覚の人だよな。あー、どっちも真剣に考えてくれる気がしないわ! なんだか質の悪いコントを見ているみたい。
あまり政治的なことは書きたくないけれど、本当に政治家にはガッカリというか、ウンザリすることが多い。まず、あのネチネチとどっちつかずの言葉をこねくり回すような答弁って、どうにも好きになれない。言葉に「潔さ」がない。「周りの人の意見に耳を傾けながら、海賊王になることへ向けて善処したいと思っていたところでございまして。多くの批判があるのも承知しておりますが、私としてはしかるべきルールにのっとり、乗組員からの意見も頂戴しながら、そちらへ向かって近づいていると、個人的にはそういう感触を少なからずつかんでいるわけであります」なんていうルフィは魅力がないだろう? トランプ大統領がアメリカで支持されたのも、発言が潔く聞こえるからだと思う。まあ、あの人は人間として潔くないことがドンドン露呈しているけれども。
潔いといえばTOAD『TOAD』でしょう。Toadというのはヒキガエルのこと。だからジャケットにはドカッとヒキガエル。潔いじゃないですか!音楽的にも潔い、ギターがブンブンうなるスイス産ハード・ロック・バンド。今回はこのTOADを紹介したい。
TOADはスイスで活躍したが、中心となったギターのヴィック・ヴァジャーはイタリア出身。イタリアでBLACK BIRDSのメンバーとなり、1966年に「Sunny / Sure Gonna Miss Her」、1968年に「Dolce Delilah / Torna Verso Il Sole」を発表した。その後、スイスのティチーノに移り住む。ヴィック自身によると、1969年にはイギリスでHAWKWINDと活動していたそうだが、どうにも彼らの音楽が好きになれずスイスへと引き返したそうだ。そこで出会ったのが、BRAINTICKETのデビュー作『COTTONWOODHILL』に参加していたコジモ・ランピス(ds)とヴェルナー・フレーリッヒ(b)だった。そこにリード・シンガーとしてベニ・イェガーが加わる。
まだバンド名が決まっていないところに、ヴィックの地元のティチーノにあるクラブから出演のオファーがあった。ヴィックによると、ちょうどその時に庭へ出たら、そこにヒキガエルがいたことからTOADと名付けたのだそうだ。
1970年2月12日〜23日、彼らはスイスにあるEMIスタジオでデモ録音を行なう。これらの音源は、後に『B.U.F.O.(BLUES UNITED FIGHTING ORGANIZATION)』として発掘CD化されている。イギリスのQUATERMASS、AUDIENCEとライヴ共演し、ほどなくスイスのハレルヤ・レーベルと契約。ロンドンのデ・レーン・リー・スタジオでデビュー・アルバムの制作に入る。エンジニアには、DEEP PURPLEやRAINBOW、IRON MAIDENなどを手掛け、ハード系の名裏方と知られることになるマーティン・バーチが起用された。
こうして1971年に発表されたデビュー・アルバム『TOAD』に、ドドーンとヒキガエルのアップのデザインが使用される。アートワークを手掛けたのは、エルソ・シャッポというアーティスト。彼はBRAINTICKET『COTTONWOODHILL』のちょっとグロテスクなジャケットを手掛けていて、その関係からTOADも担当することになったものと思われる。ちなみに、『TOAD』の1曲目のタイトルが「Cotton Wood Hill」というのも両者のつながりを感じさせる。同年に発表されたデビュー・シングル「Stay! / Animals World」は、ドイツとスイスのみの発売だったが、このシングルのジャケットにも『TOAD』と同じガマガエルのアップが使用された。
アルバムの発売を待たずにベニ・イェガーが脱退。彼は後にISLANDへ加入している。TOADはトリオ編成で活動を続けることになり、スイス本国でモントルー・ジャズ・フェスティヴァルを含む数多くのライヴをこなした。
勢いに乗るTOADは、早速2作目のレコーディングを開始。場所はロンドンのデ・レーン・リー、プロデュースはクリス・シュヴェグラー、エンジニアはマーティン・バーチという前作と同じ環境。こうして1972年にリリースされた2作目『TOMORROW BLUE』は、より洗練されたハード・ロックになっていて聴きごたえ十分。ところがジャケットはシンプルそのもの。これも潔いといえば潔い?
その1972年には、BEATLESのカヴァーをA面に据えた「I Saw Her Standing There / Green Ham」、「Fly / No Need」と2枚のシングルを発表。積極的なライヴ活動を展開した彼らだったが、ベースのヴェルナー・フレーリッヒが脱退する。後任にシーザー・ペリグを迎えるが活動停止してしまう。
1975年になって、ヴィック・ヴァジャー、ヴェルナー・フレーリッヒ、コジモ・ランピスで復活を遂げ、イタリアのフロッグ・レーベル(!)から3作目となる『DREAMS』を発表。こちらはイタリアのみでの発売に留まってしまう。前2作にも引けをとらない内容ながら、ジャケットのイラストが、あまりにもトホホで。
1977年にシングル「Baby You / I’m Going」を古巣のハレルヤからリリース。時代に即したファンキーなポップ曲だったがヒットとはいかなかった。翌1978年には、オランダのヴァーティゴ・レーベルからVIC VEA BAND名義の『TOAD』という編集盤が発売される。このジャケットに使用されたのも、あのヒキガエルのアップだった。実に3回目の登場!この1978年に行われたライヴ音源が後に発掘されているので、まだTOADとして活動していたようだが、それからほどなくして解散したようだ。
ヴィックは次の活動を目指してトミー・アイアーやジョン・ギブリンらを起用してデモを録音。さらにアメリカにわたってRATTのボビー・ブロッツァー、同じくRATTのフォアン・クルーシェの兄のトムらとセッションを開始。その頃の音源やTOAD後期の音源をまとめた『RARITIES』が、1992年にTOAD名義で発売されている(2004年に『BEHIND THE WHEELS』として再発)。ヴィックは引き続きアメリカで活動し、1981年にVic Vergat名義で『DOWN TO THE BONE』をリリース。日本でもヴィック・ヴァガット『鮮烈!フライング・V』というタイトルでリリースされた。以降はスイスに戻り、プロデュース業などでも活動を続けた。
1993年にはヴィックとコジモ・ランピス、アンドレ・ブゼン(b)でTOADを再結成し、アルバム『HATE TO HATE』をリリースしている(2001年に『STOP THIS CRIME』として再発)。その頃から過去のライヴ音源などが続々とCD化されていて、彼らがライヴ・アクトとしても強力だったことが証明されている。スイスのハード・ロック・シーンに多大な影響を及ぼしたヴィックだったが、2023年11月1日に他界している。
さて、そのヴィックの出発点となったTOADのデビュー作『TOAD』だ。ゲートフォールドでのガマガエルのインパクトがたまらない!見開きのサイズ感を最大限に活かしたデザイン。内ジャケでは、さらにヒキガエルの目をアップにして、そこにメンバー四人が並んでいる。カエルが嫌いな人にとっては気持ち悪いだけかもしれないが、どこかコミカルな感じもする。何よりも「TOADなんだからヒキガエル!」というのが潔い。Toadにはスラングで「嫌な奴」という意味もあるらしいけど、思いっきり潔い怒涛のハード・ロック・サウンド。ここでは、アルバムのトップ曲で、8分半に及ぶ「Cotton Wood Hill」を聴いていただきたい。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
Cotton Wood Hill
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スイスを代表するハード・ロック・バンド。72年のバーゼルでのライヴを収めたライヴ盤。名作「TOMORROW BLUE」リリースと同時期のライヴで、脂の乗ったエネルギッシュなアンサンブルは圧巻の一言スリリングなフレーズで畳みかけるギター、前のめりに突き進むリズム隊による、ライヴならではの生々しいバンド・サウンドはハード・ロック・ファン必聴。
スイス屈指のハード・ロック・バンドによる71年のデビュー作。ドイツのサイケデリック・ロック・バンドBRAINTICKETで活動していたベースのWerner FrohlichとドラムのCosimo Lampisを軸に、英サイケ/スペース・ロック・バンドHAWKWINDで活動していたギターのVittorio 'Vic' Vergeatが参加してスイスはバーゼルにて70年に結成。ヴォーカルには後にISLANDでも活躍するBenjamin “Beni” Jaegerを起用して制作されたのがこの71年1stアルバム。凶暴に歪んだギターがヘヴィに刻むリフを中心に、ジャック・ブルースばりに暴れまわるベースと、ジョン・ボーナムの重さとジンジャー・ベイカーの手数を合わせたようなドラムが重戦車の如く畳み掛けるアンサンブルは凄まじい音圧。ツェッペリンの重量感、パープルのスピード感とキレ、サバスの凶暴さが合わさった聴き手をなぎ倒さんばかりのハード・ロックをプレイします。ロッド・スチュワートやピーター・フレンチばりのしわがれヴォーカルも魅力的で、アコースティックなパートで聴かせる叙情性もまた一級品。これはスイスのみならずユーロが誇る、と言っても過言ではないハード・ロック傑作!
スイスを代表するハード・ロック・バンド。75年作3rdアルバム。ヘヴィさが後退し、キャッチーなメロディ&コーラスをフィーチャーした爽快でノリの良いハード・ロック、叙情性溢れるアコースティック・バラードなど、メロディ重視のヌケの良い楽曲が光っています。キャッチーなハード・ロック作品としてかなりの完成度を誇る名作
スイスの誇る名ハード・ロック・グループTOAD、78年のジュネーヴでの公演を収録したライヴ盤。サウンドのテイストは75年の3rd『DREAMS』のキャッチーな路線に近く、さらにアルバム・タイトルにもなっているEARTH WIND & FIRE「Yearnin' Learnin'」のカバーをはじめ、ファンクやブルースなどブラック・ミュージックの影響をより色濃く打ち出した新曲を多数披露しています。とはいえキーボードなど余分な音が入っていないせいかメロディアスさは出過ぎておらず、ギター・ヴォーカルにベース、ドラムの純粋なトリオ編成によるファンキー・ハード・ロックは非常に硬派で骨太。跳ねるディストーション・ギターとベースのグルーヴィーなアンサンブルがまるでジミヘンのごとき「Mama Come Back」や、Werner Froehlichのスラッピング・ベースが堪能できる「I Wish You Were Here」など、思わず唸ってしまう佳曲揃いです。この翌年79年にWernerが脱退し、TOADはしばらく表立っての活動はなくなってしまいますが、この路線でのアルバムもぜひ聴いてみたかったと思わせる、期待を裏切らぬ出来栄えと言えるでしょう。