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レ・オルメ『フェローナとソローナの伝説』~ ユーロ・ロック周遊日記

イタリアン・ロック屈指のバンドであり、キーボードをフィーチャーしたドラマティックなアンサンブルとイタリアらしい詩情に満ちたメロディを持った名バンド、レ・オルメの代表作と評される73年作5th『フェローナとソローナの伝説』を特集いたしましょう。

レ・オルメの結成は、ビートルズをはじめとする英ビート・ロックに音楽シーンが湧いていた66年、イタリア半島北東部にある半島の付け根に位置するヴェネツィアで結成されました。元々はギタリストをリーダーとして結成され、5人組として活動し、ビート色の強い1st、2ndを残しましたが、その後、音楽性の違いにより、ギタリストとベーシストが脱退。69年にトリオ編成として再スタートを切りました。

Toni Pagliuca(key)
Aldo Tagliapietra(Vo、B、G)
Michi Dei Rossi(Dr)

トリオとしてメジャーのフィリップス・レーベルと契約。よりクラシカルなキーボードをフィーチャーしたプログレッシヴな3rd『Collage』を71年に、よりイタリアらしい芸術性を強めた4th『Uomo Di Pezza(包帯の男)』を72年に発表します。そして、シーンがプログレッシヴ・ロック・ムーヴメントに湧く73年にリリースされた5thアルバムが、光の惑星「フェローナ」と暗闇の惑星「ソローナ」という想像上の惑星をモチーフにしたコンセプト作『フェローナとソローナの伝説』です。

レ・オルメといえば、「イタリアのEL&P」としてガイド・ブックなどで紹介されることが多いですが、英プログレの亜流として捉えるよりも、独立国家として長きにわたって繁栄したヴェネツィアならではの気品あるロック・ミュージックとして捉えた方が彼らのサウンドを充分に楽しむことができるでしょう。彼らが生まれたヴェネツィアは言わずと知れた「水の都」。陸地から4kmほど離れたアドリア海のラグーナ(潟)に浮かぶ118の小さな島の間を運河が縦横に走り、400もの橋がこれをつないでできた街。1797年にナポレオンに敗れ、オーストリア領有となって滅亡するまで、1100年に渡って独立国家「ヴェネツィア共和国」として繁栄した誇り高き街です。日本で言えば、幕末の頃まで独立国家だったわけですから、ヴェネツィアの人たちは共和国時代を自分たちのルーツとして強く意識しているはずです。

『数多くの島が寄木細工のように集り、その間を網の目のように運河が走り、これまた数多くの橋がそれらをつなぐ』 (『海の都の物語』塩野七生著)

P.F.M.を聴いてイタリアン・ロックが持つ躍動感やたおやかさに感動し、レ・オルメを聴いた時の印象は、「あれ、なんか暗い・・・」。でも、繁栄の「光」と表裏を成す「影」もまた「ヴェネツィア」を構成する要素の一つであり、そそりたつような荘厳なアンサンブルにはヴェネツィア共和国の1100年の栄枯盛衰が内包されている、なんて想像しながらレ・オルメの「暗い」サウンドに耳を傾けるとまったく別の「高貴」なものに聞こえてきます。

『水に浮かぶヴェネツィアでは、空と海が近接し、どこもかしこみ水の反射によって非常に明るく、色彩もきわめて鮮明に映る。一方、水蒸気は逆に色彩を吸収することもあり、とくに冬にはすべての光景をモノクロームに還元してしまう。』 (『ヴェネツィア物語』塩野七生 宮下規久朗著)

オープニングを飾るのはバンドを代表する名曲「Sospesi Nell ‘Incredibile」。まるで夜の海に反射する光の揺らめきのように不穏なハモンド・オルガン(メロトロンもユニゾン!?)でスタートし、激しいパッセージのドラムが入るととともに、まるでサン・マルコ聖堂のモザイク画のように複数のキーボードの音色が複雑にからみあい、聴き手をヴェネチアならではの荘厳かつ高貴な音世界へと引き込みます。

ヴォーカルが入ると雰囲気は一転、祈るような歌声から匂い立つのは中世から連綿と続くキリスト教世界の敬虔さ。ベースが図太いトーンでメインのリフを奏で、どこかスペーシーでどこか古風なトーンのキーボードがリードを取るヘヴィでいてどこか静謐なパートを抜けると、再び一転、ドラムがクリムゾンのマイケル・ジャイルスばりの手数と切れ味で走りだし、ハモンドが壁のように分厚く鳴り響き、ハードながらも「神聖」というキーワードがぴったりのアンサンブルへと連なっていきます。バロック~ルネッサンスの中心に居たヴェネツィアで生まれたバンドだからこそ成せる崇高なる展開の妙と言えるでしょう。

しばらくすると、変調したムーグがいきなり登場。その変調っぷりはクラウト・ロックばりで、初期タンジェリン・ドリームあたりのロマン主義的ロック・ミュージックに通じるセンスも感じます。古くはビザンツ帝国や神聖ローマ帝国ともつながりを持ち、ドイツ商人も訪れていたヴェネツィアなればこその汎ヨーロッパ的と言えるスケールで聴き手に迫る名曲です。

T1: Sospesi Nell ‘Incredibile

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2曲目「Felona」は、一転して柔らかな光に包まれるような陽光溢れる牧歌的な佳曲。この陽気さもまたヴェネチアならではなのでしょう。親しみやすい歌声に往時の街の活気が目に浮かぶようです。

時にさざなみに反射する光のようにキラメキ、時にしとやかで格調高いピアノが印象的な3曲目「La Solitudine Di Chi Protegge Il Mondo」に続くのは、再びハモンド・オルガンと激しいリズムをフィーチャーしたキーボード・プログレを聴かせる4曲目「L’Equilibrio」。キーボードの素晴らしさはもちろんのこと、このバンドはドラムとベースのリズム隊も特筆もの。特に手数多くもタイトで安定感あるドラミングは、EL&Pのカール・パーマーやクリムゾンのマイケル・ジャイルズと比べても引けを取りません。それにしても2分過ぎのクラシカルかつ躍動感あるキメのパートのスリリングでドラマティックなこと!ジェネシスに通じるカタルシス。そこからリズム・チェンジし、雄大なるヴォーカル・パートへとつづく展開も見事です。

T4: L’Equilibrio

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深い哀感を持った5曲目のバラード「Sorona」、スペーシーかつロマンティシズムたっぷりのムーグ・シンセがそそり立つ荘厳極まる6曲目「Attesa Inerte」、ここまでの緊張をすべて包み込むような慈愛に満ちたキーボードのテーマが胸に切々と響きまくる7曲目「Ritratto Di Un Mattino」、慈愛の雰囲気のままに美しい「歌」がスッと心に沁みる8曲目「All ‘Infuori Del Tempo」。ヴェネチアらしい「光」と「影」、「陰」と「陽」の色彩に溢れた演奏が続きます。

T8: All ‘Infuori Del Tempo

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そして、いよいよラストを飾るのが9曲目「Ritorno Al Nulla」。オープニング・ナンバーに通じる深淵なる響きのムーグ・シンセではじまり、けたたましく叩かれるドラムとともに、まるでヴェネツィア共和国時代へと時間を逆廻ししていくかのように、ハモンド・オルガンが時空を超えたリフレインを奏でます。ムーグ・シンセもクールなトーンながら、歴史を背負ったかのような重厚さで鳴り響き、まるですべての「光」を飲み込み、時空の彼方、内面の奥の奥の方へと迫っていくかのように荘厳なフィナーレを向かえます。ただただ圧倒的。

『深夜や冬の日にヴェネツィアを歩くと、橋を渡るたびに、徐々に夢の世界に迷い込むような気分にとらわれる。この迷宮都市では、今しがた通ったはずの橋を再び渡ることも多い。彼岸に移ろうようでありながら、いつのまにか現実に舞い戻ってくる往還の感覚。かすかな水音とたちこめる死の気配の中で、この町の闇の奥、さらに自分自身の内面深くに入って行く気さえするのだ。』(『ヴェネツィア物語』塩野七生 宮下規久朗著)

T9: Ritorno Al Nulla

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ナポレオンに滅ぼされるまで、1100年にわたって「アドリア海」を支配し、海洋都市国家として繁栄したヴェネツィア共和国。その繁栄がきらめく水と光の織りなす色彩と、その色彩の影にじっと横たわる漆黒の闇。そんなヴェネツィアならではの光と影をロックというフォーマットで音像化した悠久なる作品が『フェローナとソローナ』と言えるでしょう。

地中海の風を運ぶP.F.M.など他のイタリアン・ロックとは異なる、ヴェネツィア出身だからこその魅力に溢れた傑作です。

LE ORMEの在庫

  • LE ORME / CLASSICORME

    イタリアンの代表的グループ、弦楽アンサンブルと共演、バンド過去曲やクラシック古典楽曲などから構成される17年作、1曲にSAGRADOのMarcus Viana参加!

    イタリアン・ロックの代表的グループとして知られる彼らの17年作。今作は弦楽アンサンブルと共演、バンド過去曲のアレンジやクラシック古典楽曲などから構成される、P.F.Mの13年作『DA MOZART A CELEBRATION』と同様のアプローチで聴かせる作品となっています。組曲に仕立てられた72年作『UOMO DI PEZZA』のナンバーを中心とする過去の名曲に加え、新曲、バッハやヴェルディなど古典クラシックも演奏。元々クラシカルな魅力に溢れるレ・オルメのナンバーが、格調高い弦楽の調べを得て一層ドラマチックさを増していて素晴らしいです。注目は1曲のみながら参加するSAGRADOのヴァイオリニストMarcus Viana。天を駆けるような美麗なプレイは一聴して彼とわかります。企画盤的作品ではあるものの、鮮やかによみがえった過去曲の数々に改めてレ・オルメの楽曲の持つ美しさを実感できる、充実度の高い一枚に仕上がっています。

  • LE ORME / COLLAGE

    「イタリアのELP」とも形容されるキーボード・プログレ・トリオ、71年3rd

    結成は67年までさかのぼり、ビート・ロックグループとしてデビュー後、時代の流れに対応してプログレッシブな音楽性へと変化。以降、EL&P系のキーボード・ロックバンドとして知名度を上げ、活動を続けるグループの71年3rd。フィリップスからリリースされたプログレッシブ・ロックバンドとしての彼らのスタート作であり、彼らの個性である冷ややかなオルガン・ロックをメインに収録していますが、一般的なキーボード・ロックグループのような超絶技巧で聴かせるパートはほとんどなく、クラシカルなモチーフを取り入れたセクションと、Aldo Tagliapietraによるイタリア叙情を強く感じさせるボーカルパートのコントラストで聴かせる作品となっています。

  • LE ORME / FELONA E SORONA

    73年5th、イタリアン・シンフォニック・ロック屈指の名盤!

    結成は67年までさかのぼり、ビート・ロックグループとしてデビュー後、時代の流れに対応してプログレッシブな音楽性へと変化。以降、EL&P系のキーボード・ロックバンドとして知名度を上げ、活動を続けるグループの73年5th。イタリアンシンフォニック・ロックの名盤として有名な作品であり、「フェローナとソローナ」をテーマにした、組曲形式で聴かせるコンセプトアルバムとなっています。全編で溢れるイタリア然とした叙情とメランコリックな肌触りは特筆すべきものであり、オルガンを中心にした攻撃性のあるキーボード・ロックとAldo Tagliapietraの儚げなボーカル曲との対比がやはり素晴らしく、ジャケットのような気品漂うサウンドを作り上げています。

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