2017年8月25日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ新鋭
本記事は、netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』第35回 ANIMA MORTE / The Nightmare Becomes Reality (Sweden / 2011)に連動しています
プログレッシブ・ロックの歴史を振り返る上で、1990年代前半のスウェーデンから登場したANGLAGARDの存在を無視することは出来ません。同郷ANEKDOTENと共に、彼らが70年代のプログレッシブ・ロック・アーティストたちを思い起こさせるヴィンテージなサウンド・メイクを用い、存亡の危機に直面していたプログレッシブ・ロック・シーンを蘇生させたことは、ファンの間では語り草になっています。その後、2000年以降も安定した活動を行ってきたANEKDOTENに対して、ANGLAGARDは95年に解散し、2002年に短期間の活動再開こそあったものの、2012年の再始動作『Viljans Oga』まで沈黙。しかし、ANGLAGARDのドラマーMattias Olssonは、グループが活動を停止していた期間にも様々なプログレッシブ・ロック・アーティストたちの作品に関わり続けてきました。
衰退の一途を辿っていたプログレッシブ・ロック・シーンを復興させる狼煙となったのが、92年に発表されたANGLAGARDによる本作です。YESの構築性とGENESISの叙情性をブレンドさせ、凍てつくような北欧の空気感を閉じ込めた本作は、世界中のプログレッシブ・ロック・ファンを納得させるに充分なクオリティーを誇っていました。また彼らが採用したメロトロンに代表されるヴィンテージ・サウンドは、新世紀のプログレッシブ・ロック・シーンにも多大なる影響を残しています。1975年生まれのMattias Olssonは、若干17歳でグループに参加し本作をレコーディングしています。
新世代の北欧プログレッシブ・ロックを代表するキーボーディストが、スウェーデンのPar Lindhです。EMERSON, LAKE & PALMERのキーボーディストKeith Emersonから大きな影響を受けた彼はプロジェクト・グループを結成し、94年にデビュー・アルバム『Gothic Impressions』を発表しました。タイトルが示す通り、ゴシックなテイストを持った各種キーボード・サウンドが目白押しのへヴィー・シンフォニック・ロック作品となっており、Mattias Olssonがドラムを担当している他、ANGLAGARDからはギタリストJonas Engdegard、ベーシストJohan Hogberg、フルート奏者Anna Holmgrenも参加しています。
Mattias Olsson関連作品の中でも見落とされがちなのが、アメリカのDEADWOOD FORESTによる2001年作『Mellodramatic』です。本作においてMattias Olssonはプロデュースを担当しており、アメリカン・プログレッシブ・ロックの爽やかなイメージを打破する鬱屈としたサウンドを展開。メロトロン・サウンドも導入されるなどヴィンテージなサウンド・プロデュースが行き届いており、Mattias OlssonがANGLAGARDで蓄えた音楽的アイディアが惜しみなく投入されている印象です。
2000年にアルバム・デビューを果たしたイギリスのプログレッシブ・ロック・グループTHIEVES’ KITCHENは、2008年に発表された4作目となる本作にANGLAGARDのキーボーディストThomas Johnsonを正式メンバーとして迎えました。Mattias Olssonは共同プロデューサーとして本作に関わり、また、ANGLAGARDのフルート奏者Anna Holmgrenもゲスト参加しているようです。内容は、女性ヴォーカリストAmy Darbyをフューチャーした幽玄なシンフォニック・ロックであり、ANGLAGARDでも非常に重要な役割を担っていたThomas Johnsonによるメロトロン・サウンドが溶け込んでいます。
2006年に『Tid Ar Ljud』でアルバム・デビューを飾ったスウェーデンのGOSTA BERLINGS SAGAは、2011年のサード・アルバム『Glue Works』でMattias Olssonをプロデューサーに迎えました。Mattias Olssonは、彼らのセカンド・アルバムである2009年作『Detta har hant』にもゲスト参加しています。本作には、北欧の冷ややかな空気感をヴィンテージ・サウンドの中に閉じ込めるというANGLAGARDやANEKDOTENの音楽性が受け継がれたへヴィー・プログレッシブ・ロックが収められています。なお、Mattias OlssonとGOSTA BERLINGS SAGAのキーボーディストDavid LundbergはNECROMONKEYを結成し、2013年にアルバム・デビューを果たしました。
GOSTA BERLINGS SAGAが発表した2009年作『Detta har hant』での共演がきっかけとなり、GOSTA BERLINGS SAGAのキーボーディストDavid LundbergとMattias OlssonによるプロジェクトNECROMONKEYが動き出したのは、2010年のことでした。2013年に発表されたデビュー・アルバム『Necroplex』では、両者ともマルチ・プレイヤーぶりを発揮し、エレクトロニクスを大きく取り入れた幅広い音楽性を聴かせます。ポスト・ロックにも通じるサウンド・メイクは、ANGLAGARDやGOSTA BERLINGS SAGAとはまた違った味わいを持っています。
Mattias Olssonはノルウェーのプログレッシブ・ロック・グループWHITE WILLOWのメンバーとして、98年のセカンド・アルバム『Ex Tnebris』に参加しています。2011年作『Terminal Twilight』からMattias OlssonがWHITE WILLOWにドラマーとして復帰した背景には、WHITE WILLOWのギタリストJacob Holm-Lupoとの良好なミュージシャンシップがあり、両者はTHE OPIUM CARTELのメンバーとしても活動しています。本作『Terminal Twilight』では、ANGLAGARD直系のダークなシンフォニック・ロックが炸裂しており、Mattias Olsson再加入の衝撃をアピールしています。
WHITE WILLOWのギタリストJacob Holm-LupoとWHITE WILLOW再加入前のMattias Olsson、そして、WHITE WILLOWを経てWOBBLERの中心人物として活躍を見せるキーボーディストLars Fredrik Froislieらによって結成されたのがTHE OPIUM CARTELです。2009年のデビュー・アルバム『Night Blooms』に続いて2013年に発表されたセカンド・アルバム『Ardor』は、耽美なサウンドがスウェーデンのPAATOSなどを彷彿とさせる高水準な内容となっています。
Mattias Olssonが、WHITE WILLOWの管楽器奏者Ketil Einarsen、そして、THE OPIUM CARTELのヴォーカリストRhys Marshと共に結成したのがKAUKASUSです。2010年代に入り、Mattias Olsson関連人脈のサイド・プロジェクトは、スウェーデンのTHE FLOWER KINGSにも通じる複雑さを見せるようになってきました。メロトロンやアナログ・シンセサイザーなどのヴィンテージ機材を大きく取り入れながら、メランコリックな印象のプログレッシブ・ロックを作り上げています。THE OPIUM CARTELやNECROMONKEYとの聴き比べも楽しめるでしょう。
WHITE WILLOWのフルート奏者Ketil Einarsen、そしてRHYS MARSH AND THE AUTUMN GHOSTなどのアルバムにも名を連ねるギタリストGaute Storsveを中心とするプロジェクト・グループWESERBERGLANDは、2017年にデビュー・アルバムとなる本作をリリースしました。アルバムにはWHITE WILLOW からドラマーMattias OlssonやギタリストJacob Holm-Lupoらが参加しています。WESERBERGLAND のサウンドは、TANGERINE DREAMやCAN、CLUSTERやHARMONIAといったクラウト・ロックからの影響によって生み出されているようですが、ジャーマン・ロック・グループには作り得ない冷ややかな質感が全編を支配しています。
2015年に結成されたPIXIE NINJAによるデビュー・アルバムは、Mattias Olssonの全面参加によって製作されました。Mattias Olssonは、メロトロンが存在感を放つサウンド・メイクなど、ANGLAGARDにも通じる世界観でPIXIE NINJAをプロデュースし、またドラマーとしても関わっています。なお本作には、2017年にWESERBERGLANDを始動したことで話題となったWHITE WILLOWのフルート奏者Ketil Einarsenもゲスト参加しています。
IL TEMPIO DELLE CLESSIDREは、イタリアン・シンフォニック・ロックを代表するグループのひとつであるMUSEO ROSENBACHの73年作『Zarathustra』に収録された楽曲をグループ名に、2010年にデビューを飾りました。MUSEO ROSENBACHのヴォーカリストStefano“Lupo”Galifiを擁した体制でのアルバム・デビューは、プログレッシブ・ロック・ファンの間でも大きな話題となったことでしょう。2017年にリリースされた彼らのサード・アルバム『Il-Ludere』には、ドラマーとしてMattias Olssonが全面的に参加しており、またANGLAGARDのフルート奏者Anna Holmgrenもゲストで参加しています。
YESやGENESISから影響を受けたシンフォニック・ロックを個性とし、アメリカン・プログレッシブ・ロックの名盤に数えられる78年作『Stained Glass Stories』を作り上げたのがCATHEDRALです。キーボードを担当していたオリジナル・メンバーTom Doncourtは、グループの復活作となった2007年の『The Bridge』にも参加していましたが、近年ではフィンランドのシンフォニック・ロック・グループSAMURAI OF PROGによる2016年作『Lost And Found』へのゲスト参加でも話題となりました。彼は2017年、Mattias Olssonをゲスト・ドラマーに迎えたソロ・アルバム『House In The Woods』をリリース。退廃的なメロトロン・サウンドと夢想的な女性ヴォーカリストが際立つ、ヨーロピアンな作風となっています。
スウェーデンのキーボード奏者Par Lindhによるプロジェクト。94年の1stアルバム。クラシカルなチャーチ・オルガンを中心に、メロトロン、管弦楽器、混戦合唱などをフィーチャーし、これでもかと荘厳なサウンドを聴かせるキーボード・プログレ。古楽的な格調高さや、70年代英国ロックに通ずるリリシズムも印象的。
過去にはMUSEO ROSENBACHのヴォーカリストStefano LUPO Galifiが在籍したことでも知られる新鋭イタリアン・ヘヴィ・シンフォ・バンド、スタジオアルバムとしては3作目となる17年作。何と言っても本作では元ANGLAGARDで数々のプロジェクトを運営・参加するMattias Olssonが全面参加しているのが注目ポイント。ヴィンテージ・トーンのオルガンを軸に力強く鳴る輝かしいキーボード群、重厚にして華麗な伸びのあるギター、そして前作より加入し前任者に負けないどころか上回ってさえいる素晴らしい表現力のヴォーカル。イタリアン・ヘヴィ・シンフォ伝統の荒ぶるエネルギーをぶつけるような重みあるサウンドと、北欧プログレのセンスと言える洗練を感じさせるシャープな音像が一つになり、唯一無二のスタイリッシュなヘヴィ・シンフォ・サウンドが出来上がっています。音の質感自体はこれまで通り彼らのヘヴィ・シンフォニック・ロックでありながら一貫してモダンであり時にはキャッチーでもあるという凄い一枚。哀愁溢れるバラードナンバーも絶品です。これまでもハイクオリティな音を聴かせるいいバンドでしたが、ここに来て化けた印象があります。必聴!
ANGLAGARD〜WHITE WILLOWのドラマーMattias Olssonが、OPICUM CARTELで一緒だったRhys Marsh(ヴォーカル&マルチ奏者)とKetil Vestrum Einarsen(フルート奏者)と組んだトリオ。2014年作1st。タイトなドラムをバックにギターとメロトロンが荘厳に鳴り響くヘヴィかつ叙情的なアンサンブル、そこにフルートやシンセが北欧ならではの神秘性や透明感を加え、伸びやかなハイ・トーンを持つヴォーカルがエモーショナルに歌い上げる。北欧新鋭プログレらしいほの暗いメランコリーに溢れたシンフォニック・ロックの名品。
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