春めいてまいりました。これを書いている時点で東京エリア、桜の開花は今週末あたりと言われています。筆者の家は横浜市で家のワンブロック向こうが某私立大学の広大なキャンパス。そして大学キャンパスに隣接してこれまた広大な横浜市が管理している自然公園になっています。昔は冬の間はカラスくらいしかいなかったのですが、ここ数年、鎌倉市のほうから来たんでしょうかね、台湾リスが大量に繁殖し、こいつらは冬眠もしないため、冬の間に公園の木々の皮とかも喰ってしまうので結構深刻な問題になっています。
大きな自然公園ですのでハイキングがてら遠方からも人がやってくるのですが、人が歩いていても大して気にせず餌を食べている台湾リスを見て「あら、かわいい」とか言っているのを犬の散歩中にしょっちゅう見ますし、手持ちのスナック菓子とかを撒いている人も多々いますが、台湾リスはかわいくないですよ。よく見れば判るのですが、結構品のない顔をしていまして、植物にダメージを与えるわ、衛生的にも問題多く害獣です。
啓蟄は3月ですが、公園が賑やかになってくるのは明らかに4月。桜が咲き、花が終わり、葉桜になる頃になるとスイッチオンとなり一気に春本番を迎え公園は動物と昆虫の天下となります。
さて、去年の冬の始まりの頃ですが、その公園を散歩中、うちの犬のボンゾくん(ノーフォークテリア3歳)が激しく薮の方に向かって吠えるので見るとフェレットとも狸とも異なる見かけない動物が直立姿勢でこちらを見ていました。最初はイタチかフェレットかと思ったのですが、ちょっとシェイプが違う。いるはずはないのですがウッドチャックにそっくり。どこかの家で飼っていたのが逃げたんでしょうかね? どう見てもウッドチャックにしか見えない動物はボンゾくんが激しく吠えるのですぐに藪の中に姿を消し、確認しようがなかったのですが、本当にウッドチャックであれば彼らは冬眠しますから、春になりまたどこかで見かけるかもしれません。
というわけで今月はそのウッドチャックをバンド名にしているブリティッシュ・カルト・ブルース・ロック・バンドから始めましょう。GROUNDHOGSです。1960年代前半から盛り上がりを見せた英国ブルース・ムーブメントの中から登場したバンドで、渡英した黒人ブルースマン、ジョン・リー・フッカーのバックを努める際、彼の人気曲である「Ground Hog Blues」にちなみGROUNDHOGSと改名します。ギタリスト兼ヴォーカリストのトニー(T.S.)マクフィーは’60年代中頃の英国のブルース・セッションものに頻繁に参加していますし、ジョ・アン・ケリーとデュエット・アルバムを制作するなど、エレクトリックもアコースティックもいけるアグレッシヴなギター・スタイルはFLEETWOOD MACのピーター・グリーン、ジェレミー・スペンサー、SAVOY BRWONのキム・シモンズ、CHICKEN SHACKのスタン・ウェッブら英国ブルース・ロック界の敏腕ギタリストたちに一歩も引けをとらないものでしたし、前出のマイク・ヴァーノン人脈のギタリストたち在籍したバンドが大音量ではあるけれど、まだブルース・マナーどっぷりの作品・ライヴをやっていた時期既にハード・ロック然としたサウンドを完成させており、’70年代に入るとブルースというよりプログレの範疇で語ったほうが良いようなヘヴィ&ストレンジなアルバムを次々にリリースします。
トニー・マクフィーのプレイのアグレッシヴさ加減をどう伝えるか考えると、スタイルは違うもののそのギターの鳴りのでかさは丁度同じ時期にブレークしたロリー・ギャラガーのアグレッシヴさに相通じるものがありますし、あそこまで刹那的ではないし、イケイケでもありませんがちょっとジョニー・ウインターとかぶる側面も持ち合わせている、といった感じのギタリストがいて、ブルース逸脱してHAWKWINDなんかに通じる方向にアクセル踏み込んでしまったバンドといった印象でしょうか。それと、コアの部分は同時期活躍していたHIGHTIDEにも通じるものがあるんじゃないかと思います。そんなバンドですから、ヨーロッパではブルースにカテゴライズせず、サイケデリック・ロック、プログレッシヴ・ロックとみなすファンも多いことからも判るように、そのサウンドは一筋縄では行きません。THE GROUNDHOGSの名を一躍有名にしたのは1971年に発表された4thアルバム『Split』でトニー・マクフィー本人が体験したパニック発作を題材とした組曲「Split Part. I – IV」は発売当時、プログレ・ファンも巻き込みヒット作となりました。錯乱状態をテーマとした作品だけあってギター・リフも歌メロもブルース・マナーから逸脱した妙に不安定でささくれ立ったハード・ロックとなっており、その吐き散らし型ヴォーカルも手伝い、どうもブルース・ロックは苦手というプログレ・ファンにこそ聴いていただきたい逸品に仕上がっています。また、この『Split』にはライヴの定番となる「Cherry Red」やバンド名の由来となったジョン・リー・フッカーの「Ground Hog Blues」のカヴァーも収録されています。
GROUNDHOGSは1969年発表の2ndアルバム『Blues Obituary』で既にブルース路線からの逸脱が始まり、続く1970年の3rd『Thank Christ For The Bomb』では『Split』を生み出す土壌の足固めはすっかり済んでおり、神経質でアグレッシヴというGROUNDHOGS固有のサウンドはすでに満開寸前の状態になっています。
『Split』発表以降のGROUNDHOGSは『Split』で完成させたサウンドを発展させていきます。続く1972年の『Who Will Save The World』はメンバーがスーパーヒーローに扮したアメコミ風の特殊ジャケットに包まれていたこともあり、人気が高く「Amazing Grace」のインスト・カヴァーも有名で「これが一番!」という人も周りに結構いるのですが、その神経症由来誇大妄想的アグレッシヴ・ハード・ロック・サウンドが真のピークを迎えるのは同年の晩秋に発表された6thアルバム『Hogwash』ではないかと思います。
ジャケット酷いですねぇ…。ただの前ハゲ親父にしか見えません。トニー・マクフィーは1944年生まれのはずですので『Hogwash』が発表された時期はまだ30歳前なのですが髪の毛は明らかに後退しております。ジャケットはそんな感じなのですが、内容は強烈なインパクト! 表ジャケットはシオシオですが中の写真は結構どうかしていて、荒野に積み重ねられた巨大なホーン・スピーカーの前に佇むトニー・マクフィー。まさに誇大妄想、ここに極まれり。HAWKWIND初期にも通じる“危ない感”を醸し出しています。また、このアルバムからドラムが交代。新メンバーに入ったのは元EGGのクライヴ・ブルックス。変拍子・長尺・インプロヴィゼイションなんでも来い、のドラマーの加入はトニー・マクフィーを更に焚き付けたと言っても良いでしょう。実際、このクライヴ・ブルックス参加時の『Hogwash』と次作となる1974年にWWAからリリースされた『Solid』の2作がGROUNDHOGSにとって最もプログレに接近した時期の作品かと思います。
『Hogwash』に収録された楽曲はオリジナルのアナログ盤ではラストに収録されたジョン・リー・フッカーへのトリビュート・ソングでアコースティック・ブルースの「Mr. Hooker, Sir John」以外、神経過敏状態かつ誇大妄想が極まったかのような引き攣ったギター・リフと沈み込むような重苦しく、聴く者の不安感を煽るかのような不穏なハード・ロック楽曲が目白押し。そのサウンド傾向はもはやブリティッシュ的というより’70年代前半のジャーマン・ロックに通じる異端的へヴィネスを湛えています。次々と繰り出される重苦しい楽曲の果てに待っているものがまた強烈なのもこのアルバムが他と一線を画している要因となっています。オリジナル・アナログ盤ではラスト前に置かれていた「Earth Shanty」がそれ。シンセサイザーで作られた嵐のような風のSEの中荘厳に鳴り響くメロトロン。完全にジャーマン・エクスペリメンタル・ミュージックの世界です。メロトロンのイントロに導かれ展開されるその曲想はまさにHAWKWIND。こうした傾向は続く『Solid』にも受け継がれ、多少コンパクトになった印象はありますが、『Solid』のほうにはメロトン入りハード・ロックの傑作「Sins Of The Father」が収録されています。
「Earth Shanty」
GROUNDHOGSはアルバム『Solid』発表後一時、活動停止期があり、1976年にシーンに復帰します。復帰後『Crosscut Saw』、『Black Diamond』と2枚のアルバムを立て続けにリリースしますが、復帰以降数年間は『Solid』以前のヒリヒリした緊迫感が薄れ、ちょっと軽めの作風に変化していきます。時代の流れといってしまえばそれまでですが、他のブルース系ハード・ロック・バンドを軽く蹴散らす圧倒的な存在感も薄れていったのは残念に思います。
ま、普通はこのままフェード・アウトとなっていくのですが、GROUNDHOGSは1980年代に入ると再び上げのモードに入ります。NWOBHMムーヴメントの勃発以降、安定したオーディエンス層を確立したヘヴィ・メタル・シーンで再評価が進んだことも大きな要因となったのでしょうが、トニー・マクフィー自身、シーンの変化を冷静に研究し、’70年代GROUNDHOGSの持っていたヘヴィネスはそのまま残し、リズム・セクションをよりタイトでソリッドなものに置き換えた時代の変化にしっかり対応した’80年代型GROUNDHOGSサウンドを確立したことが大きかったと思います。
この時期になるとメジャー・レーベルからは相手にされなくなり、小さなレーベルを転々とし、しかも契約条件もあまりよろしくなかったのでしょう。’80年代から’90年代にかけての作品は、今となっては様々なレーベルから同内容でもタイトルやアートワークが違ったり、コンピレーションとして数枚のアルバムから曲をつまんだものが発売されたりの混乱状況が続き、Discogとかで検索をかけるととてつもない数のアルバムが表示され、どこから手をつければ良いか判りにくい、というのも敬遠されがちな理由になっているように思います。
実際、筆者もGROUNDHOGSはそれなりに持ってはいても、’80年代以降の作品はCD化された時、いまひとつ信頼できないレーベルから出ているものが多かったこともあり、率先して聴こうという気にならず、買った時にさらっと聴いてそのまま。そういう扱いの人は筆者に限らず多かったのではないでしょうかね。
‘70年代の神経症由来誇大妄想的アグレッシヴ・ハード・ロック・サウンドは鳴りを潜めたものの、’80年代以降のGROUNDHOGS、今回良い機会なのでまとめて聴いてみて個人的には再評価機運が高まっております。何枚か紹介していきましょう。まず、1984年発表の『Razor’s Edge』。神経質なヒリヒリ感を残し、ギター全体に軽くコーラスか薄いフェーザーをかけ、ナチュラルなオーヴァードライヴ・サウンドでつんのめり気味に弾きまくり、ぶっきらぼうな吐き散らし型ヴォーカルも健在。ひたすらタイトにトニー・マクフィーのギターとヴォーカルをサポートするリズム・セクションの健気さも好印象! なにしろこのスピード感は只者ではないでしょう。オープニングからラスト近くまでテンションを全く落とさずひたすらつんのめったままのハイパー・ハード・ロックで突っ走り、最後に王道ヘヴィなミッド・テンポ・ブルースを配するという作りも好感が持てます。
『Razor’s Edge』ほどのヒリヒリ感、緊張感はないもののハード・ロック・アルバムとしては1986年発表の『Back Against The Wall』も悪くないです。悪くないというより、GROUNDHOGSの全作品中最もストレートなハード・ロック・アルバムといっても良いかと思います。ただ、この時期になると制作費も全盛時に比べて大幅に減少していたのでしょう、作りはどことなくチープ。その辺目をつぶって聴ければ、かなり楽しめる作品かと思います。
ディスコグラフィー上で『Back Against The Wall』と繋がっているのが次作のライヴ・アルバム『Hogs On The Road』。GROUNDHOGSの歴史が系統的に判りにくくなっている最大原因は、やたらと出ているライヴ・アルバム。しかも、律儀にライヴをレコーディングしていたようで年代が散らばりまくっており、ついでにBBCにも頻繁に出演し、これらの音源も残され作品化されていることもあり、とにかく大量のライヴ盤で溢れかえっています。『Hogs On The Road』は’80年代、『Back Against The Wall』発表時のツアーのライヴで、’70年代の代表曲と’80年代のハード・ロック傾向の強い楽曲がバランス良く収録されており、この時期のGROUNDHOGSを知る上では重宝するライヴ・アルバムです。’70年代GROUNDHOGSを代表する『Live At Reeds』、『Hoggin’ On Stage』(長らく絶版になっていましたが最近、復活)は全盛期のライヴを収めたもので人気が高い作品ですが、『Hogs On The Road』には先に紹介した『Hogwash』、『Solid』収録の神経過敏状態の引き攣りハード・チューンも収録。勿論、『Split』やライヴの定番「Cherry Red」もばっちり。パフォーマンスもタイトでGROUNDHOGSの全体像を把握する上では優れたパッケージになっていると思います。何度も書いているようにカタログの編成が無茶苦茶なバンドなので、同じ音源がタイトルを変え何種も出ていますが、この『Hogs On The Road』も『Back Against The Wall』と合体させ『54146』というタイトルの2枚組でも発売されていました。
最後は1998年発表の『Hogs In Wolf’s Clothing』。エリック・クラプトンの『From The Cradle』同様ブルースのカヴァー・アルバムです。駄洒落っぽいタイトルからも判るようにハウリン・ウルフのトリビュート・アルバムです。バンド名はジョン・リー・フッカーからですが、トニー・マクフィーの濁声でがなりたて言葉吐き散らし型ヴォーカルは間違いなくハウリン・ウルフ型。バンド形式のエレクトリック・ブルース・セッションで全体にほんのりディレイがかかったアンダーグラウンド臭が強く、ソロも思い切りアグレッシヴかつ倍音でまくり、切迫感と臨場感は申し分ない強力なブルース・ハード・ロックが堪能できる作品に仕上がっています。’90年代も終わりの頃の作品であること、トニー・マクフィーのブルース・アルバムというと頭の方でも触れたジョ・アン・ケリーとのアコースティック・ブルース・アルバムが有名なため、地味な作品と思われがちですが、本作は徹頭徹尾、イケイケのハードなブルース満載!聴いておく価値は十分にあるアルバムとなっております。
GROUNDHOGSのCD事情を軽くまとめておくと、1stから『Who Will Save The World』までの5枚+ボーナストラックを3枚のCDに収めた『Thank Christ For The Groundhogs: The Liberty Years』、2ndから『Hogwash』までの5枚をペーパー・ケースに収めた『The Original Album Series』、『Hogwash』から1976年の『Black Diamond』までUAで発表したアルバム3枚にBBC音源を追加した『The United Artists Years 1972-1976』等がカタログ化されています。なにしろ歴史が長いのと先に書いたように契約が曖昧だったためアイテム数がやたら多いので中古市場でも数多く見つけることが出来ますが、内容が判りにくいものが多く、今ひとつ手を出しにくいバンドかとは思います。実際、うちにあったGROUNDHOGS関係のCD群も結構ダブりが多く難儀しましたが・・・。
今月の1枚は同じくGROUNDHOGSの『Boogie With Us: Classic Live Recordings From The 70’s』を挙げさせていただきます。本文中にあった『Hogs On The Road』は’80年代のライヴ・アルバムでしたが、こちらは’70年代のライヴ・トラックをコンパイルした編集ライヴ盤で収録曲が『Hogs On The Road』とだぶっており、’70年代と’80年代の演奏を聴き比べることが出来ます。2000年くらいに出た作品ですが、中古市場でもよく見かけるCDです。時期が多岐にわたっているため、ソース毎の音質差はあり、全体はラジオ・ショウ音源並みですが内容的には充実しています。
しかし、公園で見たのは本当にウッドチャックだったのでしょうか?また遭遇したいものです。結構かわいかったんでね。同じウッドチャックでもこのGROUNDHOGSは見た目はかわいくないですが・・・。
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