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netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第17回 ARANIS / Roqueforte (Belgium / 2010)

本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。

第17回 ARANIS / Roqueforte (Belgium / 2010)

前衛精神と反体制主張で存在感を示したイギリスのプログレッシブ・ロック・グループHENRY COWによって1978年に提唱され、スウェーデンのSAMLA MAMMAS MANNA、イタリアのSTORMY SIX、ベルギーのUNIVERS ZERO、そしてフランスのETRON FOU LELOUBLANが共鳴した「Rock In Opposition(R.I.O.)」のムーヴメントは、現在でも世界中のミュージシャンたちに強い影響を与え続けています。そもそもこのアンチ・コマーシャリズム運動は、HENRY COWが当時所属していたVirgin Recordsからリリースをキャンセルされたことに端を発するものですが、Virgin Recordsがアート・ロック路線から撤退しパンク・ロックの旗手であるSEX PISTOLSのリリースによって大きな成功を収めたことを考えると、その判断は良し悪しで割り切れるほど単純ではないのでしょう。78年3月、上記のグループたちはニュー・ロンドン・シアターでR.I.O.の狼煙を上げるフェスティバルを開催し、翌年にはHENRY COWの後身グループであるART BEARS、フランスのART ZOYD、ベルギーのAKSAK MABOULが加わりましたが、ロック・ムーヴメントとしてのR.I.O.は終焉を迎えることになりました。商業主義のメジャー配給に依存しない彼らのスタイルは、HENRY COWのドラマーChris Cutlerによって立ち上げられたインディペンデント・レーベル「Recommended Records」に象徴され、現在では「レコメン系」という呼称が広く音楽ファンに浸透しています。

ところで、ロック・ムーヴメントとして興ったR.I.O.は多数のフォロワーを輩出し、現在では音楽ジャンルのように捉えることも多くなっているわけですが、これは、先進的なロック・ミュージックに対する呼び名であったプログレッシブ・ロックが歴史を重ねスタイル・ミュージックへと意味を変化させたことに通じる現象であり、「ムーヴメントとしてのR.I.O.」と「ジャンルとしてのR.I.O.」は区別しておく必要があるかもしれません。さらに、R.I.O.に分類されるグループたちの音楽性は(広義に解釈すれば)アヴァンギャルド・ミュージックという共通点こそあるものの、フリー・ジャズ、ジャズ・ロック、カンタベリー・ロック、ドイツのクラウト・ロック、フランスのMAGMAが生み出しUNIVERS ZEROやART ZOYDに影響を与えたZeuhl Music、そして後述する「チェンバー・ロック」などのカテゴリーを巻き込んだ幅広いものとなっています。2007年、およそ30年ぶりにR.I.O.イヴェントがフランスで開催されて以降、代表的なグループやフォロワー・グループが集結するフェスティバルが定期的に企画されており、R.I.O.のインパクトを広く音楽ファンに伝えています。なお、フェスティバルの奇跡的な復活の影には、UNIVERS ZEROを脱退し79年にPRESENTを結成したRoger Trigauxの尽力があったことも書き加えておかねばなりません。

さて、R.I.O.ムーヴメントの中心を担ったグループたちのサウンドを紐解くキーワードのひとつが「チェンバー・ロック」です。管弦楽器を取り入れ室内楽(チェンバー・ミュージック)のアプローチを用いるチェンバー・ロックは、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの古典的グループTHIRD EAR BANDによる69年作『Alchemy』を始点として、R.I.O.ムーヴメントの原点であるHENRY COWらの活躍によって音楽スタイルを確立させました。新世紀以降のプログレッシブ・ロック・シーンにおいても、例えばイタリアのチェンバー・ロック・グループYUGENを擁するAltrock Productionsを筆頭に世界中から素晴らしい作品がリリースされ注目を集めています。しかし、ロックにアカデミックな質感をブレンドするというアイディアは非常にプログレッシブ・ロックらしい方向性ではあるものの、調性音楽から逸脱したシリアス・ミュージックを構築するアーティストが少なくないことなど、玄人向きの難解な音楽という印象を持たれがちな側面もあるかもしれません。今回は、R.I.O.ムーヴメントとも深い関わりのあるベルギーから登場した新世紀のチェンバー・ロック・グループによる4枚目の作品を取り上げます。

試聴 Click!

UNIVERS ZEROやAKSAK MABOULを輩出したベルギーで2002年に初めてのライブ・パフォーマンスを行い本格的に始動した大所帯グループARANISは、2005年にアルバム・デビューを飾り、現在では前述のYUGENなどと並ぶシーンの重要アーティストへと成長を遂げました。2010年にリリースされた本作『Roqueforte』は、ギター、ダブル・ベース、ヴァイオリン、ヴィオラ、フルート、アコーディオン、加えてピアノにPierre Chevalier(UNIVERS ZERO / PRESENT)、ドラムにDavid Kerman(5UU’S / THINKING PLAGUE)を迎えた8人編成で製作されていますが、UNIVERS ZEROの音楽性を解説する際に頻繁に用いられる「暗黒」というキーワードは、UNIVERS ZEROから強い影響を受けた彼らのサウンドに対しても有用でしょう。変拍子を駆使した一筋縄ではいかない楽曲をテクニカルなチェンバー・アンサンブルで表現するスタイルはまさにプログレッシブ・ロックらしい振る舞いと言えますが、ヒステリック且つ呪術的な管弦セクションや屈折したピアノの節回しといったアヴァンギャルドな音世界を聴かせる一方で、アコーディオンのメランコリックな音色をフューチャーしたタンゴ調の楽曲が採用されるなど、難解な印象の強いチェンバー・ロックの扉を開け、R.I.O.のスピリットを体感するための入門盤に相応しい作品となっています。

ARANISは2011年に開催されたフェスティバルにおいて、敬愛するUNIVERS ZERO、PRESENTと合体したONCE UPON A TIME IN BELGIUM名義のステージが高い評価を獲得し、2012年には世界最大のプログレッシブ・ロック・フェスティバルであるNorth East Art Rock Festivalに招かれました。同公演では、そのパフォーマンスの素晴らしさがブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの大御所であるVAN DER GRAAF GENERATORのPeter Hammillを唸らせたというエピソードが残されています。


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