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「音楽歳時記」 第十回 晩秋と黄昏ロック 文・深民淳

新国立競技場建設のため今はもうなくなってしまいましたが、旧国立競技場の横を走っている外苑西通りから千駄ヶ谷にかけての道を11月の後半に散歩するのが凄く好きでした。冬と呼ぶには少し早く、商店とかも少ないエリアですので、クリスマス前の喧噪とも無関係、ピリッと締まった空気が心地よく、毎年、晩秋の夕方ここを歩くのを小さな楽しみにしていたのですが、もう、それもなくなってしまい、寂しい限りです。

東京・青山や外苑あたりの秋の散歩スポットとしては神宮外苑の銀杏並木が有名ですが、個人的には先に挙げた旧国立競技場から東京体育館にかけての一帯の方が好きでした。

晩秋の夕暮れは、音楽を聴くのにも適した季節かとも思っています。UKスワンプとかが流行した頃、名盤として挙げられていたアルバムが家にアナログでほとんどあったこともあり、忘れていたレコードもだいぶあったので、ちょうど晩秋の頃に集中して聴いたことがありました。これがハマるんですよね。晩秋の気候もさることながら、ちょうど寒くなってきて部屋の暖房をつけようかなという時間帯と重なると、聴き馴れていたはずの音楽が違った表情を見せるというか、驚くほど新鮮に聴こえたのです。それ以来、僕はこの手の音楽を勝手に黄昏ロックと呼んで、秋の個人イベントのひとつとして楽しんでいます。

UKスワンプ系や英フォーク系はほとんどハマると見て間違いないので、11月、特に後半の2週間、皆さんも試しに黄昏れてみませんか?

という話です。

黄昏時に手が伸びる作品というと個人的にはまずこれです。HELP YOURSELF『Strange Affair』。パブ・ロックとして語られてしまうバンド故、プログレ・ファンからは遠い所で鳴っている音楽みたいな印象を持たれがちですが、「あ〜、もったいない」と言っておきましょう。’60年代サイケの残滓をうっすらと残した、何処か虚ろなチル・アウト感覚、それぞれの楽器(特にギターとキーボード)のアンビエンスに気を遣ったサウンドメイク。夕暮れにはまさにもってこいの音楽と言えましょう。1st『Help Yourself』には「Old Man」、黄昏バラードの逸品「Deborah」。2nd『Beware The Shadow』には’70年代中期のMANの諸作品は結構好きという方には是非チェックしていただきたい12分越えの長尺曲「Reaffirmation」、ふんわりまどろむ「Passing Through」などを筆頭に良い曲が多数ありますが、この3rd『Strange Affair』はアルバム丸ごと黄時のための音楽。HELP YOURSELFのアルバムはどれも1曲目はいかにもパブ・ロック然とした曲でスタートし、普通の人は1曲目でこれは私には向かない、てな感じの判断をしてしまうわけです。このバンドは奥に行けば行くほど荒れた心に染み込む曲が出てくるので、そこを頭の隅にでも置いておいていただきたいです。

『Strange Affair』もスタートはピアノが弾む緩いブギー調、所謂パブ・ロック・マナーのタイトル曲で始まりますが、前2作とは異なり、底のほうから茶色いまどろみエキスがじんわりと染み出てきているのがわかります。2曲目以降は黄昏ロックの集大成ともいえる楽曲が次々に登場し、晩秋の夕暮れ時のスケッチのような長尺曲「The All Electric Fur Trapper」でピークを迎えます。僕は黄昏時にまったりと音楽を聴くというテーマでこれを書いていますが、黄昏時は一日の終わりでもあるわけですから、どこかしら、忙しなさもあります。この曲はそんな一日の終わりの忙しない風景も一緒に描かれているのです。そして、すっかり山の稜線に沈んだ夕日の情景のような、静かな美しさに満ちたラスト・ナンバー「Many Ways Of Meeting」へと繋がっていく様はまさに至福の時。本作の素晴らしさは季節限定ではないのですが、秋の黄昏時はその効力が間違いなくアップするわけです。

この『Strange Affair』はこれもまた英国音楽好きには堪らない鉄板の名盤『Ernie Graham』(1971年)を発表したアーニー・グラハムが参加していることでも知られています。で、この『Ernie Graham』も優れた黄昏音楽の1枚と言って良いでしょう。『Strange Affair』よりはアコースティック寄りで、楽器そのもの音が生々しい素朴な作りのアルバムですが、このRawな作りが秋の黄昏時に心に沁みます。哀愁のアイリッシュ・ジグ「Belfast」、「Sea Fever」をはじめとしてこちらも良い曲満載です。

僕だけなのかもしれませんが、HELP YOURSELFのうっすらサイケ・パースペクティヴの中に浸かっている時にふと頭に浮かんでくるのがAMERICAなのです。なぜかは深く考えたことはないのですが、デューイ・バネルの書く曲の持つ雰囲気が何となくHELP YOURSELFと通じるものがある、というが根底にあるように思えます。「え〜?」と思う方も多いかと思いますが、AMERICAの最初の2作品は英国音楽好きにも強くアピールする魅力的な作品です。

もともと、親の仕事の関係でイギリスのアメリカン・スクールに通っていた3人が組んだユニットだったこともあり、アメリカ人ながら、特に初期はほのかにイギリスの香りが残っています。彼らにとって最初のヒット曲となった「名前のない馬」を含む1stアルバム『AMERICA』。デューイ・バネル作の曲の限って聴いていくと凄く不思議な立ち位置というか、アメリカ人らしくないメロディの建て方で、イギリスのアンダーグラウンドなロックやフォークの影響が見て取れるのですが、イギリス人のメロディ作りとはちょっと異なる。良い意味、Middle Of Nowhereというか、この時期のデューイ・バネルが書いた曲は彼固有の立ち位置があります。続く『HOME COMING』(話飛びますが、アメリカ人のミュージシャンはこのアルバム好きな人多いです。共通しているのはみんなアルバム冒頭の「Ventura Highway」、特にあのイントロは秀逸と口を揃えて言いますね)も同傾向です。AMERICAはこれ以降、だんだんポップ化が進んでいくのですが、現状打破というかステップアップを目指して、4thアルバム『Holiday』でジョージ・マーティンをプロデューサーに起用します。この頃になると初期の独特のムードは薄くなってしまうのですが、THE BEATLES以外でジョージ・マーティンがプロデュースした作品の中ではトップ・クラスの完成度を誇る作品に仕上がっており、これもまた黄昏ロックの逸品となっています。



「Ventura Highway」

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次のカテゴリーは有名バンドのメンバーのソロ・アルバム。特にヴォーカリストのソロ作にはバンドとは違う世界を求める欲求が強いのか、黄昏ロック追求の上でははずせないジャンルとなっています。MANFRED MANN関連はその中でも、黄昏時にはずせない名作を生んだ2人のヴォーカリストを輩出したバンドとして忘れられません。

まずはマイク・ダボ。MANFRED MANN時代の2代目ヴォーカリストです。’70年代に彼が発表した3枚のソロ・アルバムはどれも、今回のテーマにピタリと当てはまりますが、ここでは国内盤CD化されたこともあり、中古でも比較的容易に入手できそうな『Down At Rachel’s Place』(1972年)と『Broken Rainbows』(1974年)を挙げておきます。『Down At Rachel’s Place』はちょうどシンガーソングライター・ブームの時代に発表された作品で、キーボードもピアノ中心、アコースティック・テイストを活かした優れたヴォーカル・アルバムです。ダウン・トゥ・アース感覚を狙っているのですが、元がイギリス人ですから、いかにもイギリスっぽいメロディ・ラインが満載。聴く価値は十分あるかと思います。『Broken Rainbows』になるとシンガーソングライター・ブームは一段落して、イギリスのロック自体が派手な方向へ向かうなかでのリリースだけあり、落としどころに苦しんだ気配が作品から滲み出ています。結局、前作のハンドメイド・フォーキー路線からもう一歩ピアノ・バックの純然たるヴォーカル・アルバム寄りにシフトしているのですが、やはりメロディに対するこだわりは強く、アメリカ人には書けない曲が満載で、この人の声質やキャラクターを考えるとこちらのほうがアピール度は高いように思います。クリス・ファーロウ、ロッド・スチュワートらが取り上げ、クラシック・ロック・バラードの中でも人気の高い「ハンドバッグと外出着」の作った本人ヴァージョンが収録されているのも高ポイントでしょう。ロッド・ヴァージョンなんかと比べるとくすんだ感じは少なく、よりリリカルな仕上がりになっており、秋の黄昏時にはじんわりと沁みるヴァージョンとなっています。


MANFRED MANNはCHAPTER THREE時代になるとドラムからヴォーカル&キーボードにコンバートしたマイク・ハグのソロというのも晩秋の夕暮れ時には大変捨てがたい魅力を放ちます。同じMANFRED MANN出身者でも、ジャズ・ロック指向へと向かった時期にヴォーカルを担当した人だけあって、マイク・ダボと比べると、ダークでビターなテイストを声質持っており、作る楽曲も一筋縄ではいかない、結構なくせ者です。既にブラス・ロックの回でMANFRED MANN CHAPTER THREEは紹介していますが、彼らの残した2枚のアルバムも黄昏時には向いており、こっちでも良いのですが、先日、カケレコの新入荷・新品のページにマイク・ハグのソロが2枚出ていたので、こちらを挙げたいと思います。『Somewhere』のほうを推しておきます。これは、先入観なしで聴いた方が絶対楽しめますので、あえて語りません。かなり良いですよとだけ言っておきます。

THE ZOMBIESのコリン・ブランストーンのTHE ZOMBIES後のソロ・アルバムもこの時期に聴きたくなる作品が多いですね。人気の高いソロ1作目『One Year』も秋の夕暮れ時に聴くといつもとは違った印象を抱きますが、ここでは、『One Year』に決して劣ってはいないものの、少し下に見られているその後の作品を挙げておきたいと思います。『Ennismore』と『Journey』です。まず『Ennismore』。THE ZOMBIES時代の盟友、ロッド・アージェントがTHE ZOMBIES解散後結成したバンドのフロントマンとして活躍した時期のラス・バラードが書いた「I Don’t Believe In Miracles」を冒頭で取り上げています。ラス・バラード本人ヴァージョンはARGENTのライヴ・アルバム『Encore』に収録されていますが、コリン・ヴァージョンは完全に自分のものにしているというか本家取りともいえる素晴らしい仕上がりになっています。本人もお気に入りだったのでしょう、THE ZOMBIESの再結成ライヴなどでも取り上げるなど、完全にレパートリー化しています。この1曲で勝負がついたも同然なのですが、アコーステッィクでムーディな組曲「Quartet」等、このアルバムも良い曲満載の1枚です。『One Year』の持っていたあのミスティなムードはないのですが、楽曲面ではより練られた職人技のメロディ・センスが光る作品になっているかと思います。この職人芸が炸裂するのが『Journey』だと僕は確信しています。少しずつロック色が強くなってきてはいますが、黄昏バラードの逸品「Keep the Curtains Closed Today」をはじめとしてこのアルバムも良い曲満載ですが、特に「Smooth Operation」という収録曲に思い切り惹かれます。今で言うところのよく出来たAORチューンなのですが、普通この歌いだしでこのメロディは思い浮かばないだろうという、結構ぶっ飛んだスタートにまずぐっと掴まれ、サビで更に驚くという2段構えのサプライズが仕掛けられた曲になっているのです。普通に聴いていると「そんなにびっくりする?」と思うかもしれませんが、メロディを作るという観点から見ると、こういうメロディを拾い上げるというのは結構難しいと思うのですよ。で、」この「Smooth Operation」がまた秋の夕暮れにいい味出してくれるんだね。これが・・・。

ざっと挙げてきましたがもう今回は選択肢が星の数だけあると言いましょうか、チョイスは無限です。最後の少し前に、ここ数年この時期に聴いたものを羅列していきたいと思います。

まず、MIGHTY BABY。アナログがレアな『Jug Of Love』はもちろんですが1stのくすんだサイケ感も良く合います。FLEETWOOD MACのダニー・カーワン&ボブ・ウェルチ、ツイン・ギター時代もハマります。『Future Games』、『Bare Trees』あたりですね。FAIRPORT CONVENTIONのサンディ・デニー在籍時も良いですね。『Liege And Lief』などはこの時期に聴くために作られているとうそぶいてみてもあながち間違いではないでしょうね。アメリカですとキャプリコーン・レーベルのCOWBOYもこの時期に沁みます。個人的に薦めるのは、未CD化かもしれませんが、PIGEONというバンドのアルバムをお薦めします。米UNIから出ていて、サンドイッチのバンズに鳩が挟まっているというグロなジャケットなんですが、後にグラム時代に大きな注目集めるジョブライアスが在籍していた男女混合バンドでクラシカル・テイスト強めのソフト・サイケといった感じのサウンドなのですがこの音が黄昏感満載の強力アイテム。しかしCDは見たことないので未CD化かもしれません。

さて、今月の1枚は日本のSPITZの企画アルバム『おるたな』を挙げておきます。Polygramグループ出身なのでPolydorからデビューした彼らは陰ながら応援してきましたが、4、5年前に出た、シングルBトラックやカヴァー曲集めたアルバムです。草野さん書く曲が好きだということもありますが、バンド全部良い味出しているプレイヤーぞろいでアルバムが出ると必ず買う数少ない邦楽アーティストです。ベースを弾くもので、ここのベースの田村さんはかなり尊敬しております。よくこのベースライン考えられるなぁ、と感心するアイデアの宝庫であり、時にヴォーカル・メロディより頭に残るベースラインを残してしまう、いわば裏メロ番長ともいえる存在です。SPITZは黄昏ロック的なテイストを持った曲の宝庫でもあるのですが、『おるたな』収録のタイトルもずばり「夕焼け」はメロディも歌詞もしみじみと心に沁みる仕上がりとなっています。


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      廃盤、紙ジャケット仕様、07年デジタル・リマスター、内袋付仕様、定価2190+税

      盤質:無傷/小傷

      状態:良好

      帯有

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