2014年6月26日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記
タグ: プログレ
ユーロロックの名盤をピックアップしてご紹介する「ユーロロック周遊日記」。
本日は、ドイツを代表するグループ、カンの記念すべき69年のデビュー作『モンスター・ムービー』をピックアップいたしましょう。
カンと言えば、「ロック」という缶の中に、ジャズや現代音楽や民族音楽などを詰め込みつつ、「アヴァンギャルド」と「ポップ」を見事に両立した知性と理性に満ちたサウンドが特徴ですが、メンバーの経歴を見るとさもありなん。
若手ギタリストのミヒャエル以外の3人は、クラシックやジャズのそれぞれの分野でも一流といえる凄腕達!
1937年、ベルリン生まれ。
トルトムント音楽院やザルツブルクのモーツァルテウム芸術大学などで、ピアノを学ぶ他、指揮者養成コースに参加するとともに、現代音楽家のシュトックハウゼンにも師事。
卒業後は、指揮者として活躍し、ドイツ連邦共和国新進音楽家コンクールなどで、数多くの賞を受賞。
1938年、旧ドイツ領ダンツィヒ(現ポーランドのグダニスク)生まれで、戦後、西ドイツへ。
ベルリン芸術大学でコントラバスを学ぶとともに、63年から68年までシュトックハウゼンに師事。
ラジオのリペアー・ショップで働いた経歴もあり、機械にも精通。
卒業後は、スイスで音楽教師となり、生徒にビートルズ「I Am The Walrus」を聴かされ、ロックに開眼。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやフランク・ザッパにも刺激を受ける。
ギターのミヒャエル・カローリは、教師時代の教え子。
1938年、ドレスデン近郊のオストラウ生まれ。
フリー・ジャズ・ドラマーとしてキャリアをスタートし、61年から64年までスペインにも渡るなど活躍。
1946年、バイエルン州シュトラウビング生まれで、その後、スイスのザンクト・ガレンへ。
幼少時より、ギター、ヴァイオリン、チェロを学び、数多くのジャズ、ダンス・バンドで演奏。
66年からホルガー・シューカイ先生からギターを学ぶ。
他の3人より8歳下で、唯一のロックン・ロール世代のミュージシャン。
イルミン・シュミットが66年にニューヨークへと渡り、スティーヴ・ライヒやテリー・ライリーなどアヴァンギャルド・シーンのミュージシャンと交流し、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを見たことでロック・ミュージックの型にはまらない可能性に目覚めたところから、カンの歴史はスタートします。
ケルンに戻った後、68年、同じくシュトックハウゼンの元で学んだホルガー・シューカイらとバンドを結成。ほどなく、ジャキ・リーベツァイトとミヒャエル・カローリが加わり、クラシックやジャズのフィールドで既に成功を収めていた三十路ミュージシャン達によるユニークなロック・グループ「カン」が誕生!
お金持ちの友人の好意で借りた14世紀の古城ネルフェンヒの城館を「インナー・スペース・スタジオ」と名付けて、自由にセッションをしながら、自分達のサウンドを確立していきます。
そして69年、ニューヨーク育ちのアメリカ人の黒人で歌の経験はないマルコム・ムーニーをヴォーカリストに迎えて録音されたデビュー作が『モンスター・ムービー』です。
オープニングの「Father Cannot Yell」から69年とは思えない、時代を超越したサウンドに痺れます。
構造のない無機的な繰り返しの中を、「演奏」というより「音波」と言った方が適切なほどに無記名な音が飛び交う。聴き手としてのこちらの波長が少しずつカンの波長にあっていき、ピタリと一致し、脳がジャックされた刹那の心地よさときたら!そんな恍惚のワンパターンは、今聴いても何ら色あせていません。
無機的というか、祝祭的というか、明るいトーンで持続音を奏でるイルミンによるシンセ。ロック畑出身とは思えない、まるで逆回転のようにフリーキーでけたたましく歪んだミヒャエルのギター。そして、ハイポジションでウネウネと上下動を繰り返すホルガーのベースと、機械的で単純なビートの繰り返しの中にグルーヴを生み出すジャキのドラムとによるマジカルなリズム隊。
若気の至りのパンクバンドならともかく、クラシックの分野でも名を残したであろう三十路の偏屈音楽家がやってるんだから、痛快極まりません!
マルコムの瞑想的、時に扇動的なヴォーカルもカッコ良し!
そして、アルバムのラストを飾るのが、カンの代表曲の一つで、20分にも渡る偉大なるワンパターン・ミュージック「Yoo Doo Right」!
まるで祭り囃子のような原初的で呪術的でパーカッシヴなドラム・パターンとハイポジションで奇妙にうごめくベース。
基本的には、このワンフレーズだけで20分の大曲を成立させているんですから、恐るべし。
それでもまるで飽きることなく一気に聴けてしまうのは、そこに次々と被さってくるキーボードやギターのフレーズ、そしてマルコム・ムーニーのヴォーカルが魅力的だからでしょう。
抜け殻となったジミヘンのようなファズ・ギターのフレーズやら、南米あたりのサイケっぽいペラペラなフレーズやら、サムライでも出てきそうなペケベンベンな東洋的・野戦的フレーズやら、キーボードの方もタンジェリン・ドリームっぽいピコピコ音で応戦したり、ドラムも神酒でもあおったのかボコボコとフリーキーに乱れ打ち出したり、偏屈ミュージシャン道ここに極まれり!
ロックというフォーマットを拝借しながら、ロックの重要な要素であるドラマ性やメッセージ性を排し、無機的な音が積み重なったフレーズをひたすら繰り返しながら、最後には聴き手のエモーションへと到達し、恍惚へと導く。
ワーグナーの幻影の中で「ロマン主義的サイケデリック」と言える抽象的・観念的サウンドを奏でた西ベルリンのタンジェリン・ドリームやクラウス・シュルツェに対し、「即物的サイケデリック」と言えるような地平を提示した、60年代ロック屈指の傑作!
【関連記事】
TANGERINE DREAMの記念すべきデビュー作『ELECTRONIC MEDITATION』をピックアップ!
【関連記事】
スペース・ロック/サイケデリック・ロックを代表するバンドHAWKWINDがそのスタイルを確立した71年作2nd『In Search Of Space』をピックアップ!
シュトックハウゼンに師事した現代音楽家や、プロのジャズ・ミュージシャンらによって68年に結成されたドイツのグループ、CAN。彫刻家としてドイツにやってきたアメリカの黒人、マルコム・ムーニーをヴォーカリストに迎えたこの1stは、まさに歴史的な衝撃作です。延々と繰り返されるドラムのビート、ノイズまがいのガレージ・サウンドをかき鳴らすギター、飛び跳ねるように蠢くベース……。そんな音楽家たちによる実験的極まりないアンサンブルに、アマチュア同然のムーニーのヴォーカルが見事に調和しているのだから驚き。ムーニーはこの1stの発売後、神経衰弱によって脱退してしまいますが、時にけだるげに囁き、時にパンクロックのように叫び散らす歌声は、後のヴォーカリスト・ダモ鈴木にも負けず劣らず多彩で個性的。それまでのどんな音楽の型にも収まらない、無機質かつ無国籍なサウンドは、約50年経った今でも未だに最先端と言えるでしょう。
「W. C. フィールズの文句を言い換えるなら、私たちは二度同じ風呂に入ったことがないんだ(ホルガー・シューカイ)」 ダモが抜けてもカンは飽くなき前進を続ける。カローリのヴァイオリンとリズミカルなヴォーカルのフレーズが印象的な冒頭の名曲「Dizzy Dizzy」を筆頭に、新たなスタートを切った1974年の傑作。リード・ヴォーカルはカローリとシュミットが代わる代わるつとめているが、専任のヴォーカリストを失ったことで、インストゥルメンタルの要素は必然的に増しており、後のシューカイのソロにつながるテープコラージュも頻繁に取り入れられている。シューカイとリーヴェツァイトの繰り出す拍動のようなリズムの上でカローリのギターが暴れる「Chain Reaction」から、静謐な中にも緊張感に満ちて謎めいた「Quantum Physics」への流れも素晴らしすぎる。英「The Wire」誌の企画「最も重要なレコード100枚」にも選出。
紙ジャケット仕様、Blu-spec CD、10年デジタル・リマスター、定価2381+税
盤質:傷あり
状態:
帯有
紙ジャケに若干指紋汚れあり
カン史上、最もポップなメロディと痛快なユーモア精神に彩られた、ロックのステロタイプに限りなく接近しておきながら、スレスレのところで笑い飛ばしてしまう1975年の傑作アルバム。バンドが初めてマルチ・トラック録音を導入したという意味でも節目となったこの作品を受けて、英メロディ・メイカー誌はカンを「地球上で最も進んでいるロック・ユニット」と評した。これまでにない入念なミキシングのプロセスから生まれた巧緻なサウンド・プロダクションと突き抜けた軽快さを感じさせる楽曲の組み合わせが見事に作用している。アモン・デュール?のプロデューサーとして有名なサックス奏者、オラフ・キューブラーが、カンのアルバムでは初のゲスト・ミュージシャンとして参加。カンのディスコグラフィの中では過小評価されているが、聴かれずにいるのはあまりに勿体無い重要作である。
最初期から1975年に至るまでの未発表音源をまとめたLP2枚組のコンピレーション。19曲77分という凄まじいヴォリュームで、もうひとつのベスト盤とも呼べる内容。カンにとっては一番60年代当時のビート・バンドに近い作風と言える名曲「Connection」、数十年後の音楽を先取りしていたとしか思えない異様に予見的な「Fall of Another Year」や「The Empress and the Ukraine King」、マルコム・ムーニーのポエトリー・リーディング調のヴォーカルが冴え渡「Mother Upduff」といった、初期のマテリアルだけでも十分に素晴らしいが、ダモ鈴木が日本の「公害の町」に嫌気がさして「ドイツに逃げよう」と英語まじりの日本語で歌う「Doko E(どこへ)」や、『フューチャー・デイズ』期のアンサンブルが秀逸な浮遊感溢れる「Gomorrha」、さらにはカンにおけるユーモアと演奏の自発性を最も良く表している「Ethnological Forgery Series (E.F.S.)」など、何もかもが魅力的である。
コメントをシェアしよう!
カケレコのWebマガジン
60/70年代ロックのニュース/探求情報発信中!